友達はBarにいる
打ち合わせが終わった帰り道、家とは逆の方の環状線に乗る。
目的地はBarである。
繁華街から少し離れた雑居ビルの4階にBar梟がある。
まだ呑むには早すぎる時間帯の為か看板の電気すら着いてない。
鍵が掛かっていそうな見た目でも、私はそこに人が居るのを知っている。
躊躇わずに扉を開けると一人の男がソファー寝ていた。
男は玄関のウィンドベルがなるのを聞いて飛び起きて言う。
「ごめんなさい。まだ開店時間じゃ、、、。って鈴華ちゃんか。」
「久しぶりやねギンちゃん。」
「ここは未成年の来るところちゃうよー。」
飛び起きた彼は私の顔を見るなり再び眠りにつこうとしていた。
彼はギンジ。通称ギンちゃんである。
私の唯一の友人にして高校辞めるという理由で暇人認定して外国を連れ回した拉致犯人である。
「それで、初日はどうだった?」
彼は顔まで毛布にくるまりながら聞いてくる。
「相方が出来たよ。」
「あら、よかったじゃない。おめでとう。」
私は一抹の不安要素が消えたこと報告し終えると、ソファー席の向かいにあるカウンター席に腰を下ろす。
彼にとっても朗報だったのかやっとその山羊鬚面を見せてくる。
「でも、あんたも素直よねぇ。他人を笑わせるようにって言ったら、まさか漫才師目指すとは思わんわぁ。」
このオネェ口調の男のいいなりになったようで少し釈然としないが、彼に感謝の気持ちがあるのも事実である。
「ギンちゃんのお陰やわ。」
少し皮肉混じりに言ったのはせめてもの抵抗である。
「、、、ねぇギンちゃん。」
「何よ?」
まるで興味がないかのように顔を見せたついでにスマホを弄る彼に問う。
「言いたいことを文字にするってどうするん?」
「、、、ん?それってあんたまさかネタ書くつもりなん?」
こういう時のギンジは察しが良くて説明を省けて助かる。
「芸人になること事態摩訶不思議なのにネタまで書くなんて、熱でもあるんやない?」
訂正する。
こういう時のギンジは察しが良くてもお節介が過ぎるので腹が立つ。
「今日、初めてネタ帳見てん。」
先程までうざったかった彼は、私の言葉を待つように黙る。
「凄かった。なんか、その人の考えてることが分かるような、、、。うまく言えないけど、読み聞かせてくれた訳やないのに、まるで語り掛けて来るみたいな。」
ギンジは「ふーん。」と相槌を打つと状態を起こして私の方に体の向きを変える。
「面白かったん?」
「面白くはなかった。」
ギンジは「なんやそれ。」と鼻で笑いながら胸ポケットにある煙草を器用に片手で滑り出し、ソファー前に置かれたライターで火を着けていく。
「それで自分でも書いてみたくなったってこと?」
「まぁ、せやね。」
私は頷きながらギンジ人差し指を立ててねだると、不服そうに胸ポケットのソフトケースを箱ごと私に下手から投げてくる。
ギンジの真似をしてみるも勢い着き過ぎて何本も跳ね上がってくる。
そのうち一本取ると次はライターがギンジの方から飛んでくる。
両手で受け止めるように取り、煙草を口に咥えながらライターの火を灯す。
「まぁ、書きたいなら書いてみればいいんじゃない?」
「けど、言葉を文字にするって意味がちょっと分からない。」
肺の奥まで煙が入ってくるのを感じる。
最初は肺がひっくり返りそうな気持ち悪かった感覚も気付けば呼吸と共にスーッと入ってくる。
「そのままの意味よ。今鈴華ちゃんが思っている事を書く。これを思っているのと書くのとでは意味が違ってくる。」
「、、、何で?」
「書くことによってその当時の記憶が記録として残るっからよ。」
「それってメモを取るってこと?」
「まぁ意味合いは近いんじゃない?違いで言うなら自分だけが分かるようなメモを取るんじゃなくて、相手に伝わるように文章にするって事やないかと思うわ。」
、、、なるほど。
少しだけ掴めた気がする。
とはいえまだ10%くらいの理解度だが、ニコチンの影響もあってか頭の複雑化している部分がクリアになる思いだ。
少しだけ考え込んでいるとギンジが吸い終わった煙草を灰皿にグリグリしている。
そして徐に口を開く。
「鈴華ちゃんなら一杯書けることあると思うけど。」
「、、、何で?」
「貴女は思ったことを我慢しすぎる。考えすぎて言えなくなる。そんなことばっかりでしょ?ならそれを全て紙に書いちゃえばいい。」
「全てを、紙に?」
「そう。貴女の気持ち全てをぶつけて書いてみる。まずはそこからじゃない?」
そう言い終えると、ギンジは膝を叩いて立ち上がる。
そしてお得意の言葉が出てくる。
「知らんけど。」




