ドリンクバーもカラオケも初めてですが何か?
母が言っていた。
「高校生の頃は友達とよくカラオケに行っていた。」と。
今、私は友達でない人とカラオケにいる。
「いやぁやっぱり2人で静かに話すならカラオケが一番やね。」
カラオケって静かな場所か?
疑問が残るが歌わなければ確かに静かな場所である。
彼女にコンビ結成のために今後の方針を固めようとカラオケに誘われたまではいいが、ここで問題が生じる。
私はカラオケに来たことがない。
初めての状況に戸惑っていると彼女が気を遣ってか急に立ち上がる。
「飲み物入れに行こ!」
彼女に連なりながら部屋を出ると、そこにはドリンクバーがあった。
ファミレスでしか見たことがないドリンバーである。
何でも料金に含まれているらしい。
ファミレスと違い勝手が分からない。
彼女が先頭に立ってコップをケースから出すのを真似て動くしかなかった。
コップ一杯のオレンジジュースを注ぐと彼女が不意に声をかける。
「へぇ。可愛らしいもん飲むんやねぇ。」
オレンジジュースが可愛い?
頭のはてなを感じ取ったのか、彼女がフォローするように焦って言う。
「あ、ちゃうねん!ゴリゴリに炭酸とかホットの紅茶ぁとか気取ったん飲むんかと思ってたから。」
ほっとけ!!
と言いそうだったが、今の見た目からすれば自分でも「確かに。」と言わざるを得ない。
不満はあるものの彼女と部屋に戻ってくると今回の本題に入るようだ。
「さて、ほな今後の方針やけど、ネタとかかける?ウチも書かれへんことはないけど前の子にはあんまり受け良くなかってんなぁ。」
なんとも恥ずかしそうに照れ笑いをする彼女。
やっと喋るターンが回ってきたかと思い、ここで今まで溜め込んでた疑問を投げ掛ける。
「あの、名前、、、。」
「あ、そっか自己紹介まだやったね!ウチ、小西柊花乃!好きなように呼んでくれていいよ!」
「夜伽鈴華です。」
「鈴華ちゃんかぁ。鈴華って呼んでもいい?」
「別に、ええけど。」
お互い自己紹介を済ませると軽く会釈を交わし会う。
「てか鈴華っていくつなん?」
「18だけど。」
「えーウチと一緒やん!高校出てすぐ入ったんウチだけや思てた。」
「私、高校辞めてるから、出てない。」
「え?もしかして芸人になるために辞めたん?カッコエエーーー!!」
何か勘違いをしているようだ。
ただ誉められたのは悪い気がしない。
否定も面倒だったので、そのままにすることにした。
「ちなみに鈴華はボケ?ツッコミ?」
「ボケ志望、かな?」
「よかったぁ。私ツッコミ志望やから!ホンマに声かけて正解やったわぁ。」
安堵したようにグラスのコーラを少し飲むと彼女は再び本題に入る。
「で!ネタって書ける?」
「書いたこと無いから分かんない。」
「あーそうなんやぁ。あ、あのさ、これ一応私が前の子と一緒にやるように書いたヤツなんやけど、見てくれる?」
そう言って彼女は恥ずかしそうに一冊のノートを鞄から出して私に差し出す。
「まぁ前の子には、あんまり受け良くなかってんけどね。」
そう言われながらノートを受け取ってページを捲ってみると、
そこにはびっしりと文字が書きなぐられている。
私は初めてネタ帳を見た。
これがネタ帳である。
「ど、どうかな?」
不安そうに覗き込む彼女。
「スゴいと思う。」
「え、ホンマに?!おもろい?」
「いや、面白くはない。」
「なんやそれ!上げて落とすなや!」
勝手に上がったのにそう言われても困る。
「けど、こういうの書けるって凄いと思う。」
私は心の底から感動していた。
まるで子供のおもちゃ箱のように思いの全てがそこに乱雑に詰められていたからである。
「い、いやぁそれくらいなら私でも書けるよぉ。」
少し照れながら彼女が答える。
「けど、私のネタってどこかで見たことのあるものやったり、似たような手法が多かったりで、所謂独自性みたいなんがないんよねぇ。」
私が読んでいるノートを取り上げると彼女は自分の書いた物を読み返しながら自己反省を呟いていた。
「、、、私も書いてみたい。」
そう呟くと、彼女は優しく微笑みながら返す。
「エエやん!私も新しく書いてみるからさ、一緒に書いておもろい方やろうよ!」
彼女のネタ長を見て分かったことがある。
それは彼女の言葉に嘘がないのである。
思ったことが直接言葉に出るように、表情が心と直結しているのである。
あのネタ帳には彼女の全てが書いてあったように感じた。
屈託なく笑う姿を見て、ギンジがいつも私にいう言葉の意味を少し理解した。
「どうやって書くか教えて欲しい。」
初めて彼女の顔をまじまじと見ている気がする。
彼女も目があったことに驚いているのか目を丸く見開く。
そして少し考えた後にノートの方へと視線を向ける。
「正直、さっきも言ったけどウチの作るネタってありきたりやし、突拍子もないところで一発ギャグみたいなんいれてもうたりしてあんまり受け良くないんよね。」
そう言う彼女の自信のノートを見つめる目が少し寂しそうな表情をしている。
「けど、私のおもろいってこういうのなんやなって書きながら思うんよ!自分で思ったことを自分に当てる手紙を書いてる気持ちになって、それが周りの人に面白いと思って貰いたいなって思うねん。」
さっきの表情とはうってかわって楽しそうな顔で喋っている。
正直意味不明に詩的だが、彼女なりに一生懸命伝えようとしているようだ。
「ゴメン意味分からへんよなぁ。とにかく、自分のおもろいと思ったこととか、言いたいこととかノートにそのまま書いてくイメージかな?」
なるほどという思いと笑えない私には難しいのではないかという思いが綯交ぜになる。
自分がおもろいと思ったこと、自分が言いたいことを文字にする。
それが面白いに繋がる。
言いたいことなら山程ある。
例えば今は、
「ドリンクバーっておかわり出来るの?」
既にオレンジジュースがなくなっているコップが柊花乃の笑い声で少し揺れていた。




