明日から家が無くなります。
食卓に置かれたピザとその他サイドメニューと山葵のチューブを2人で囲みながら、私は今日までに起きたことを母に伝える。
「、、、なるほどね。どういうわけでなりたいかは分かったわ。」
母はピザを摘まみながら私の話を聞き逃すまいと聞いてくれている。
「けどあんたに出来るん?口数少ないし冗談とかもあんま言わんやん。」
その通りである。
適材適所と言う言葉に習うなら、私に一番向いてない職業な気がする。
「、、、けどやってみたいんやんな?」
「うん。」
弱々しいながらも母の言葉に相槌をうつ。
「そうかぁ。芸人かぁ。ってか芸能界に入るんやったらモデルとかのがええんちゃうん?せっかくそんなに可愛く産んだったのに。」
「それは、ちょっと、、、。」
注目されることが好きではない。
芸人を目指す上で矛盾があるのは理解しているためにその言葉を言うことが出来ない。
「そう言う好奇な目で見られたくはないかぁ。」
親っていうものは鋭い。
特にこの母親はこっちがいう前に理解を示してくれる。
長年一緒にいても流石に今の核心を突いた言葉には驚きを隠せなかった。
「よっしゃわかった!やるからには死ぬ気でやり!」
「けど、生活とか、、、。」
「お金のことは気にしぃな。何のために私が働いてる思てんねん!」
そう母が言うと食べ掛けのピザの耳を頬張る。
「、、、ありがとう。お母さん。」
「但し条件があります!」
無償の母の愛を感じ胸の内が熱くなった瞬間、母のトマトソースまみれの指が私の前に突きつけられる。
「じょ、条件、、、?」
「何の実績もないあんたが目指すなら養成所とか行くんやろ?」
「一応、そのつもりだけど。」
母は突き付けた指に突いたソースをシャブリながら答える。
「学費は出したる。けど、明日から貴女には独り暮らしをしてもらいます!」
「ひ、独り暮らし!?」
流石に母がバグったのかと思った。
社会経験どころか高校中退の私が?
「安心しぃ。家賃くらいは仕送ったるよ。けど、生活費は自分で稼ぎなさい。それが母からの条件です。」
テーブルにはピザの空箱と少し残ったポテトと山葵のチューブ。
自分の頭を整理するかのように徐に立ち上がり山葵のチューブを冷蔵庫に直す。
母と離れて生活する?
それは不安どころか嫌である。
しかし自分に見える一筋の光に近い物、可能性、将来への不安。
頭が痛い。しかし芸人になるとはこういうことなのかもしれない。
芸人だけじゃない。未来に進むとはこういう事なのだろう。
いつかは来る巣立ちの瞬間、覚悟がなかった訳ではない。
「お母さん、やるよ、私。」
きっと声は震えてる。
何で決断できたのかも分からない。
きっと冷蔵庫に入ってる明日の晩御飯に嫌いな漬物がでそうだったからかもしれない。




