友達はBarにいる2
「ちょっと!急にカウンター席貸せって言われても困るわよぉ。」
開口一番に文句を垂れるオネェ口調の男がいる。
ギンジだ。
私達はその後騒ぎすぎたこととドリンクバーのみの注文の滞在が長すぎたためかファミレスからご注文のフリをした圧力をかけられてしまった。
結果的その圧に負けて退店するも、課題が山積みである。
筆頭に上がるのはスケープゴート用のネタである。
案としては柊花乃作ったネタを面白く改編すること。
私が1から書いてしまうといつの間にか怨み辛みが表に出てきてしまう。
なので消去法でそうすることとなる。
柊花乃自身も少し複雑な感情を抱いていた。
私ならそれなりの物を書けると踏んでいたこともあり、まさか自身が面白く思ってないネタを採用されたことに喜びと不安が綯交ぜになったような表情を浮かべている。
そして更にネタの練習。
試しに柊花乃の漫才を読み合わせてみたが、如何せん私が乗り切れない。
あの時の状態をレアとするなら、どれだけ読み合わせてもミディアムにしかならないのである。
その状態の解析とネタを書く場所の確保、一瞬にしてギンジの顔を思い出す。
そこで「端っこのカウンター席貸して。」とメッセージを送り私たちはギンジの店に向かう。
すると開口一番に文句を垂れるオネェ口調の男がいる。
ギンジである。
「全く、今日たまたま暇だったから良いものの普段なら子供は入店お断りよ!」
時刻は既に20時を回っていた。
この時間からお金を使わずにゆっくりたむろできる場所はもうここしか無いだろう。
しかし私とてこの時間にこのバーに来たかった訳ではない。
何故なら、
「あー鈴華チャーン。お久しぶりっす~!」
この女性がいるからである。
私はこの女性が苦手だ。
好意を向けてくれるのは嬉しいが絶妙に距離が近いのである。
実際この挨拶と共にいま私の肩に手を回し、身動きが取れなくなってます。
「また背が大きくなったでしょー?」と嬉しそうに言われるもののこのハグは解けることを知らないようだ。
「こーら、酔っ払い。鈴華ちゃん困ってるから。」
ギンジが彼女を引き剥がすとごめんなさいね。と小声で謝ってくる。
何でも新作のカクテルを試飲していたようだ。
一方彼女は酔っ払い扱いが気に食わなかったのかギンジに食って掛かっている。
ちなみに彼の保身のために言っておくと平日の中日のため今日はたまたま暇だったようだ。
普段は引切り無しにお客さんが訪れているそこそこ繁盛店、いや、かなり儲けているようだ。
落ち着いた雰囲気の店に彼はカウンター設備を中心に厨房としても活用できるように広めに確保し自分が現地で気に入ったワインを置く大きなセラーにその他お酒の種類も豊富である。
そこまでカウンター内に拘るのは熊さんの影響である。
料理人を目指していた彼の元で長年料理とバーテンダーとしての修行をし、過去には「美味しい料理とお酒が楽しめる店」として何かの雑誌に載ったらしい。
ちなみにギンジに無理矢理見せられたので知っていた。
そして更にはギンジに引っ付いているあの女性、優花さんが只者ではない。
緑髪に全身タトゥーだらけの彼女はギンジの元でバーテンダー見習いとしてバイトしているが、過去にバーテンダーの世界大会で日本代表に選ばれている。
これも彼女に何かの雑誌を無理矢理見せられたので知っていた。
更に過去にはボトルジャグリングの地方大会で優勝したらしいがこれは本当か嘘か定かではない。
なぜこんな経歴の彼女がギンジのバーで働いているかと言えば、それは謎である。
強いて上げるのであればギンジの彼女だからであろう。
とにかく彼女のお酒とギンジの料理でこの店はえらい繁盛しているのである。
「あのー、えっと~、、、。」
後ろから申し訳なさそうに柊花乃が顔を出す。
この騒動にこの雰囲気、さらには顔面だけで厳つい二人が急に現れれば萎縮するのは当然である。
「あら、ごめんなさいね騒がしくて。貴女が鈴華ちゃんの相方さんかしら?」
急に標的が自分に向けられ柊花乃は萎縮しながら簡単に自己紹介をする。
「話は聞いてるわぁ。この子無口の癖に拘りが強いから面倒でしょう?」
「煩いよギンちゃん。あとオレンジジュース。」
私は親のように振る舞う友人を押し退けてカウンターに座る。
そしてお客様用にギンジが買ってある煙草を1ケース手慣れたようにガメル。
「本っっ当可愛くないんだから。ほら上がって。」
ギンジが小言を言いながら柊花乃を迎え入れている。
柊花乃恐る恐る私の隣に座って煙草を吸おうとしている私の耳に小声で話しかける。
「なぁなぁ、あの人ってもしかして鈴華の彼氏さんなん?」
「ちゃうよ。友達。ちぃさいころからの。」
「え?でも結構歳はなれてるよね!?」
彼と私の見た目で言えば其れは当然な疑問である。
それを友人と言えば変な勘繰りが起こるのも無理はない。
私は煙草に火を着けるながら答える。
「まぁ紆余曲折ある人生やったんで。って言うか彼女あの人やで。」
面倒な質問を遠ざけると共に話題を別の方に振る。
これが私の処世術である。
そして指差された本人は試飲中のカクテルを盛大に吹き出す。
彼女の弱点は恋愛トークである。
「えぇ!?お付き合いされてるんですか!?」
「あ、えっと、その、いやぁ何て言うか、、、。」
さっきから言葉がでない彼女に柊花乃があれよこれよと質問責めにしている。
いい気味だ。
ギンジが2人分のオレンジジュースをカウンターに置くとやれやれといった様子で彼女の吹き出したカクテルだったものを拭き片付ける。
優花さんが柊花乃の言葉攻めに負けて煙草をコンビニに買いに出た。
私がガメタ分の補充である。
柊花乃は名残惜しそうに優花さんを見送ると私に向き直る。
「ってか鈴華って煙草吸うん?」
「学校でも結構吸ってるよ。」
「うせやん!ウチ見たこと無いで!」
「そう言えば柊花乃がウンコ行ってる間に吸ってることが多いかも。」
「おい!ウチも乙女やぞ!ウンコ行ってるとか言うな!」
「だって柊花乃のトイレ長いやん。絶対ウンコやん。後乙女もウンコします。」
「まぁウンコの時もあるけどそうちゃうねん!ウンコに行ってる話をするな言うてんねん!」
「あんまりウンコ長いもんやから影でウンコウーメンズ言われてんのに。」
「いや誰にやねん!呼び出せそいつ殴り倒したるわ!って言うかなんで複数形やねん!あと誰がおんねん!」
「私達ぃ次世代アイドル~♪ウンコウーメンズぅ~♪」
「次世代先取り過ぎやろ!なんやそのクソアイドルグループ!」
「ウンコだけにな。」
「糞ほど上手無いからな!シバキ回すぞアホンダラ!」
遠くで男の笑い声が聞こえてくる。
正確にはカウンターを挟んだ向こう側からだが、徐々に大きくなる笑い声が私達の意識を現実に戻す。
そこには爆笑してるギンジの姿があった。
「あんた達なんの話してんのよ。」
笑いすぎて出た涙を縫いながら「それもネタなの?」とまだ笑いながら問いかける。
この男、それ程ウンコが好きだったとは思わなかった。
「でも鈴華ちゃんのこんな姿が見れるとは思わなかったわ。良い相方見付けたのね。」
何時ものようにギンジが私の頭をグシャグシャに撫でる。
鬱陶しいとばかりに彼の手を払い除けるも、どこか彼は嬉しそうだ。
「えー鈴華可愛いところあるやーん!」
その姿を見て私の弱みを握ったかのようにニヤニヤと見つめてくると彼女も私の頭を撫でようと手を伸ばしてくる。
それに気付いた私は意地でも触らせまいと伸びる彼女の手首を掴み抵抗する。
「痛い痛い痛いッ!可愛無い!可愛無いでッ!」
二人で暴れてると、それを見てギンジは楽しそうに笑ってる。
「はぁーもうおっかしい。ところであんた達何しに来たのよ?タダ飯食いに来たわけじゃないんでしょ?」
そう言えば場所の提供だけで目的を話してなかった。
「ネタ書くの。」
私はひどく端的に今回の目的を話す。
「ここでぇ!?」
「迷惑?」
「いやまぁ今日は予約もなにも無いから良いけど。飛び込みのお客さんとか来られたら流石にねぇ。」
まぁ先程までウンコであれだけ騒いでたのである。
そりゃ迷惑に決まってる。
ここで畳み掛けるように今日までのこととネタを書く理由を話す。
「、、、なるほどねぇ。」
ギンジはご自慢の山羊鬚を引っ張りながら考え込んでる。
「容姿だけでやったアカンなんてこのご時世考えられます!?」
柊花乃は私以上にこの事で怒っているようだ。
「まぁ相手が言いたいことも分からなくはないからねぇ。ムカつくのは事実だけど。」
「そうでしょう!?ホンマ腹立つでぇ。」
柊花乃は熱くなった体と思考を収めるように出されたオレンジジュースを一気飲み干していた。
「てかネタ書くなら鈴華ちゃん家でやれば良いじゃない。」
「それは絶対に嫌。」
「えぇ!なんでなん?」
「私の領域に一歩たりとも踏みいることは断じて許さぬ!」
「いやどこの武将やねん!」
「そう言えば私も引っ越しの手伝いで一回行ったきりね。」
嫌である。
私の空間に私以外の人間がいることが許せないのである。
「んー!わかった!こうしましょう!」
悩み抜いた末にギンジは手を叩いて提案する。
「私にそのネタ見せてちょうだい!」
「「はぁ!?」」
私と柊花乃は同時に驚く。
「いいじゃない減るもんじゃないし♪その代わり今日は貸し切りにしてあげるわ♪」
私と柊花乃お互いに顔を見合わせる。
珍しく柊花乃の方が嫌な顔をしている。
例え自分の知り合いでなくても身内の前だけで漫才をするのに抵抗があるようだ。
しかし、私は知っている。
この男は一度言い出すと絶対に曲げないのである。
私に許可を取らずに海外を連れ回す男だ。
「その代わりここの支払いとご飯ギンちゃんの奢りね。」
私は大きなため息と共に渋々席を立つ。
「ホンマにやるん!?」と柊花乃は驚きながらも私の後に続く。
私だって恥ずかしくない訳ではない。
ただ知らない人よりギンジの前の方が緊張しないのである。
羞恥心を薙ぎ払うように両頬を平手で強く叩く。
気合いも高まりいざ始めようとしたその時、
「ただいまっすぅ!ってなにか始まるんすか?」
観客が一人増えた。
なんともタイミングの悪い人である。




