表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャベリバ!  作者: 黒熊
12/15

私の邪魔をする物は何時だって私自身なのである。

それからの私たちは足取りが覚束無いままフェミレスに入る。

持っていたお茶や水では足りず、ドリンクバーを浴びるほど飲んでいた。

お互い落ち着きを見せて先にドリンクバーのおかわりを取りに行く相手に押し付けたい思いを抱えながらネタの内容について話し出す。

結果的に内容は削れず、幾つかのネタに分割することを柊花乃は提案してきた。

私が書いた内容を否定せず、全て採用された気持ちは少し嬉しくもあったため、ドリンクバーのおかわりは私が取りに行った。

そこから柊花乃が言いたいフレーズや分割したネタの内容を清書する作業が始まる。

この時、私は本当に楽しかったのである。

終始罵詈雑言が飛び交う場面もあったが、過去とは違い私も彼女に汚い言葉をぶつけていた。

そんなディスカッションが終わる頃、出来上がったネタは私の中で最高に面白いものが出来ていた。

まだまだ話し足りないが、翌日の授業のために解散することとなる。


いつ以来だろうか、こんなにも明日が楽しみなのは。

この日は相当疲れていたのと前日の徹夜が響き布団に入ると布団と一体化する感覚の中眠りに就いた。



…ーーー次の日。

早速朝からネタ見せの授業の登録のために用紙に柊花乃が名前を書いた。

午前中は他のコンビのネタを見てその評価を聞いて過ごす。

そして午後一発目からは私たちの出番である。

緊張しないわけがない。

しかし、昨日ほどの恐怖心は無かった。

一度やったことだからか、隣の柊花乃も緊張していたからか、理由は分からないがこの時の私は隣の相方を笑わせることしか頭に無かったのだろう。


「、、、噛んだら殺す。」


私は彼女だけに聞こえる声で呟く。

それを聞いて彼女も目を丸くしながら私にしか聞こえない声で呟く。


「喋りでウチに勝ってから言え。」


そして私たちの漫才は始まるのである。


柊鈴:どーも―。ロックンロールガールですぅ。

柊:いやぁ頑張っていきましょう言うてますけども。

鈴:いやぁ私はブスの気持ちが知りたいね。

柊:いきなりビックリするくらいの数の人間に喧嘩売りますやん!何々どないしてん?

鈴:いや私って可愛いやないですか?

柊:自己評価高過ぎて怖いけども。

鈴:だからよぅブスに苛められとったんですよ!

柊:せめてブスって言い方止めなさい。そんなんやから苛められんねん!


教室の空気が変わった。

正直他のコンビを見ていたがここまで喋りで引き付けていた人は少なかったからである。

先程まで緊張で強ばっていた相方の喋りとは思えないほど躍動している。


聞いて欲しい。私の思っていることを。

いや、喋りたい。

この地球の裏側まで聞こえる声で。

私に纏わり付く全てを薙ぎ倒す。

この喋りで。この声で。

隣にいる柊花乃が少し楽しそうだった。

それだけで私も嬉しくなる。

「人を笑わせる」とは、こういうことか。

ギンジの顔が浮かぶと、私は無我夢中で喋り出す。

初めてギンジに連行された放課後の時のようなわくわくが止まらない。

きっと今、私は笑えているのであろう。


喋りたい。もっと。もっともっと。


後半になるにつれて教室から笑いの声が漏れだしてくる。

その声が、少しずつ私を肯定する。

最後の柊花乃のもうエエわと言う声が笑いで書き消されているのを聞くと、私は初めてやりきった感情に満たされていた。


今きっと私は笑っているのだろう。

柊花乃が私の顔を見ると笑顔で返してくれた。

しかし、幸せな時間はすぐに終わるのである。


講師の男が口を開く。


「いやぁ面白いね。なかなか喋れてるし女性コンビでここまでべしゃれるのも少ないから貴重だと思うよ。」


誉められている。

柊花乃それを聞くと「ありがとうございます!」と深々と頭を下げていた。

私は呆気にとられて頭を下げるのが遅れてしまった。


「けど、内容がちょっとピーキー過ぎるね。」


内容がピーキー過ぎる?

いったいどういうことだろう?

講師の男が続ける。


「正直君たち二人ともビジュアルは最高にいいと思う。だからこの内容だと面白いより先に妬みが先行しちゃうんじゃないかな?あんまり万人受けしないと思うんだよなぁ。」


言われている内容が頭に入ってこない。

受けてたじゃん。

それを言いそうになってか私は少し前屈みになっていたのだろう。

柊花乃が私の手を掴むまでそれに気が付けなかった。

この時、柊花乃も同じ思いだったようだ。

彼女の握る手の力強さがそれを証明していた。


私と柊花乃はもう一度「ありがとうございました。」と頭を下げることしか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ