事実は創作より奇であった。
鈴華は走った。
相方柊花乃が待つ喫茶店に。
約束の時間までに余裕があったため少し寝ようと横になったまではいいが、気が付けば家を出る時間を大きく過ぎている。
いや、まだ間に合う。
想定時間はいつも30分程早めているためこういう時に私の日々の習慣に感謝する。
駅まで何とか駆けていくとギリギリ到着時間の電車に乗ることが出来た。
落ち着き息を整える。
周りからは好奇な目を向けられている。
朝から憂鬱だ。
汗を拭い、鞄の中を確かめる。
そこには確かに昨日仕上げたばかりのネタ帳が入っている。
何だかむず痒い。
これを今から人に見せなければならないのである。
私の複雑な感情など知ったことではないと言わんばかりに電車は無情にも目的地に近付く。
予定時刻の2分前に店に着いた。
中を見ると店外が見える窓側のボックス席で既にコーヒーを飲みながら待つ彼女の姿が目に入る。
私は中に入り真っ直ぐに彼女のもとへ向かう。
「お待たせ。」
彼女の向かいの席に座るとこれでもかと言うほどキョトンとしている。
「え?誰?」
彼女の第一声目がこれである。
ふと私は窓に反射する自分の顔を見る。
ノーメイクである。
急いでたことやネタ帳のことですっかり失念していた。
顔面バンギャ並みのゴシックメイクをした人がいきなり素顔で出てくるのである。
それは彼女にとって衝撃以外の何物でもないだろう。
「えっと、鈴華やけど。。。」
「え!鈴華なん!いやぁ、偉いべっぴんさんやん!」
彼女は驚きながら私の顔をまじまじと見る。
「逆に何でそんな可愛いのにあんなメイクしてん!?」
驚くところはそこなのか。
疑問を感じながらも私は話を進めようと店員を呼びコーヒーを頼む。
「ほんで、ネタは書けたん?」
彼女もその一連の動作から会話が途切れたため、本題へと写してくる。
「一応。読んで見て貰わんと何とも言えんけど。」
私は自身のネタ帳を彼女に渡す。
今冷静に見返すと文字通り相当殴り書きしていたのかノートの端々少し依れている。
「ほんまに書けたんや!難しくなかった?うちもこれ書いてみてん。読んでみて!」
彼女は渡されたノートを見て少し嬉しそうであった。
そして自身のノートを渡し、各々読書会が始まるのである。
彼女のネタ帳は相変わらず突拍子もないボケやギャグのようなものが詰まっている。
しかし、ツッコミの躍動感はまるで読み聞かされているかのようなものが多かった。
一方柊花乃は黙々と読んでいる。
こうも無言で読まれると少し緊張する。
彼女のネタ帳を読みきってもまだ彼女の方は終わらない。
私は緊張を誤魔化すようにコーヒーを啜る。
暫く待つと彼女はゆっくりノートを閉じ口を開く。
「これ、ガッツリ漫才やん。」
その一言に私は心臓が止まる錯角を覚える。
「ウチ、こういう漫才がしてみたい!!」
彼女は身を乗りだして私の手を握る。
「ただ、ボリュームはちょっと減らそう。何分想定何これ?ウチのツッコミ変えてもいい?」
彼女は捲し立てるように話を続ける。
「えっと、いや、ちょっと、まって、、、。」
「どないしたん?」
先程まで心臓が止まっていたため、急に色々言われても困る。
取り敢えず彼女に確認したいことがある。
「本当に、このスタイルでいいの?何て言うか、その、、、。」
私は喋りながら彼女のネタ帳に目を落とす。
彼女はその視線と質問で察したように自身の席へと座り直す。
「まぁウチが書いたものと真逆やもんな。」
彼女はあの時見せた寂しそうな表情を見せる。
「、、、ウチ、アカンねん。しゃべくりの漫才がしたいけど、どうしてもボケが思い付かへん。自分の言いたいことを書き連ねて、逆算するようにボケを置いてくと、気が付いたらこんなチグハグな物しか出来へんくて。」
その言葉で少し彼女のことを理解した気がする。
彼女のネタ帳がツッコミだけ冴えてる理由がここにあったのだ。
「ツッコミの言葉、好きにしてええよ。」
彼女はその言葉を聞くと、俯いていた表情が驚きの表情へと変わる。
「私もある程度トレースしてみたけど、まだまだ柊花乃のツッコミには近付けへんかった。だからある程度ゆとり持たして書いてみたつもりやから。」
「鈴華、、、。柊花乃って呼んでくれた。」
「いやそこかい!」
思わず私は自分でも驚く程の声を出していた。
周りが一斉に沈黙する。
やってしまったと思っているとその沈黙を破ったのが柊花乃の笑い声だった。
一頻り笑い終えると彼女は疑問を投げ掛ける。
「けど鈴華こんな喋れるん?今のところこんな感情的なところ見たこと無いけど。」
痛いところを突かれた。
それはそうだ。
感情的に書いてみた物である。
しかし私自身ここまで感情的に話した覚えがない。
一抹の不安があるものの私は彼女に拳を突きつける。
「まぁ、頑張るわ。」
彼女はフッと笑いながら彼女の拳と私の拳を合わせる。
まるで少年漫画にワンシーンのようだがその瞬間、
「お待たせしました!プリンアラモードです!」
頼んだはずの無い商品を店員がもってきた。
正直、いまこの瞬間が一番恥ずかしい。




