まずはお気軽にご相談を
「あの」
扉についた鈴が鳴りひびく。
――あぁ、今日も人が来た。
店主の女性はうんざり顔を微笑みの仮面で隠す。
「はい。いらっしゃい」
「ここに来れば死ねると聞いたのですが」
またこの手の発言か。
本当にうんざりする――まぁ、仕事だから良いんだけど。
「はい。死ねますよ。一瞬で」
「じゃあお願いしてもいいですか?」
随分と若い男の子だ。
まだ高校生にもなっていないんじゃないか?
それなのに死んじゃうなんて勿体ない。
――ま、仕事だから良いんだけど。
そんなことを思いながら店主は大鎌を振りかぶった。
***
「今日のお仕事おしまい――っと」
今日だけでもう数十人の命を奪った。
務めたての頃は一人として命を奪えずに泣いていたってのに……。
「食事も睡眠も医療も……全部が充実している時代だってのに、人の心は不健康なんだもんなぁ」
そんなことを呟きながら店のシャッターを閉めた。
「あーあ。明日も忙しくなるのかな。嫌になっちゃうよ、本当……つーか、まずはご相談をって書いているのになぁ」
シャッターには場違いなほどポップな文字で次のように描かれていた。
『数百年の実績を持つ死神が所属しています。まずはお気軽にご相談を』