手がかりを求めて
「ねえ、リズはどこからきたの?」
「えっと人間界です」
「やっぱりね。なんか仕草がすごい人間っぽい。一緒に暮らしてるとうつるよねそういうの」
「あはは……」
なんとか二人に話を合わせながら進んでいくとやがて出店が途切れ始めた。
私のすすむ先には西洋風の建物が並んでいる。おそらくは住宅街だろう。
「そうそう。明日もお祭りに参加するならリズもなにか交換できる魔法道具持ってきて一緒に買い物しましょ~!」
「それいいね。なにもなかったら最悪人間でもいいから。連れてくるの大変だろうけど」
「か、考えときますね」
そして二人と話しているうちにやはりここで人間だとばれたらまずいことが分かった。出店に小さくなった人間を並べている魔女を見かけたし、二人との会話からも明確だ。
「見えてきたよ。あれがココアちゃんとそのお兄さんの店『ブラックダイヤ』」
ルリシムが指さした先には灰色の煉瓦で出来た店があった。
「ココアいるー? あれ、兄貴しかいない感じ?」
テルスに続き店内に入るとそこには壁際一面に沢山の棚が並んでおり正面には机と椅子があった。
この風景は私が一週間前行った『薬局カエデ』に酷似している。しかし椅子に座っている人物はあの時の店主ではない。黒髪の若い男性だ。
「ココアはさっきからリベノムの店と祭典会場と人間界をうろうろしてて今どこにいるかは俺も分からん」
「なら祭典会場でさがすわぁ~ありがとうお兄さん。それでね、リズがココアちゃんに用事があったみたいなんだけど」
「それは丁度いいな。俺もお前を探すようにココアに言われたんだ」
「えっ?」
店主の兄らしき人物の思いもよらぬ発言に私は目を丸くした。
「なんか話長くなりそうな感じ」
「あらそうなの? じゃあ私たち先に祭典会場にもどってるわ。また明日会いましょ~」
「あっうん」
ひとまず二人と別れることが出来た私は少しだけ安心した。ここを出たあとは一人で隠れられる。
でも一つ気になるのはやはり目の前にいるこの男性がなぜ私を知っているのか。
「あの、どうして私を探してたんですか」
いつでも逃げられるよう扉の傍まであとずさりしながら私は尋ねた。
「俺も詳しくは分からない。ただココアに『紫色の封筒を持ち、白色のネックレスと腕輪をつけた人物にアイテムを渡してくれ』って言われただけだ。どう見てもお前だと思ったんだが」
「ココアさんって薬局カエデの店主ですか」
「そうだが」
「だったら、この手紙に見覚えはありませんか。私、この手紙の送り主に招待されたみたいで」
私は封筒から手紙を取り出し文面を見せる。
「これはココアの字じゃないな。送り主は俺も分からん」
男性は手紙を一目してそう言った。
(この手紙を送ったのは魔法道具を買った店の店主じゃない。だとしたら誰? 私が魔法道具を買ってることを知ってる魔女ってことだよね)
そういえば私は店主に見張られていると言われた。魔女たちには特定の人間を探せたり監視できる力があるのだろうか。
「ひとまずこれを受け取ってくれ。向かい側にある宿屋で泊まれるくらいの金と指輪だ」
渡された袋には見たことのない黒い石と赤い宝石のついた指輪が入っていた。
私は袋から指輪をとりだし自分の右手にはめた。
「それともう一つ……そのネックレスと腕輪、なにがあっても絶対に外すな」
厳しい目で冷ややかに告げられ私は身をこわばらせる。
「わ、分かりました……」
私はそれだけ言い足早に外にでた。
店の外に行きひとまず深呼吸する。向かい側の宿で泊まれるだけの金と言われたのでその宿の様子を伺う。中は人ではない者が受付をしていること以外、普通の宿屋に見える。とりあえず外にいるよりはましかもしれない。
宿屋の扉を開けようとしたその時、私のスマホからメールの通知音が鳴った。
「誰だろう……えっミルだ」
メールの送り主は友人のミルだった。夏休みに入る前少し言い合いになって以降気まずくなって全く連絡を取っていなかった。
『勉強で忙しい真面目なリズへ。そろそろ課題終わった? 勉強以外のことがしたくないなら私の課題手伝ってくれない?』
少し当たりが強いような気もするがミルから連絡がきたことに私は安堵した。出来ることなら今すぐメールにいいよと答えたい。私だって友達を無くしたい訳じゃない。
でも到底信じてもらえないだろうが今の私は人間界にいない。帰る方法も聞きたいが知らないこと自体怪しまれると思い誰にも聞けずにいる。
断りたくはないが嘘もつきたくない。信じてもらえるかは分からないがひとまず私は今の自分の状況を正直に話すことにした。
『ごめん。行きたいのは山々なんだけど、すぐには厳しい。今私見知らぬ場所から出られないの』
メッセージを送るとすぐに既読がついた。
『見知らぬ場所ってどんな場所? 写真か動画送れたりする?』
その問いかけに私はすぐに周囲の風景を動画で撮った。西洋風の街並みも、不思議な形をした月も、宿の中にいる人の会話も、詳細が伝わるようにかつ怪しまれないように撮った。
『なにこれすごい。まるで絵本の中の世界じゃん! どうやって行ったの?』
『不思議な店で買い物したあと、不思議な招待状が家に届いてそれに従ったらここに来た。でも出口が分からないの』
『なるほどね~こんな場所にいるのちょっと羨ましいけど出れないのは困るよね。分かった、私も出る方法探してみるよ!』
案外ミルは私のことをすぐに信用してくれた。今の私にとっては非常に助かる。
『ありがとう。とりあえず私が貰った招待状の写真送るね』
その後私は手がかりになりそうなことをミルに伝えた。ミルからの反応を待つ間に私は宿屋で部屋を借りることに成功した。
読んでくださりありがとうございます。この話は五話完結を予定しています。毎日夜19時を目標に上げようと思います。