差出人不明の招待状
その日私はある薬屋に来ていた。
「じゃあその薬、お願いします。代金はどのくらいでしょうか」
私の要望に合わせて店長の女性は透明な液体の入った薬を差し出してくれた。あとは代金を払うだけだ。
「代金はあなたがその薬の効果を実感出来たらそれに見合ったものを持ってきて。お金じゃなくてもいいわ。期限は……一カ月以内ね」
「分かりました。ここへは同じ方法で来れますか」
「もちろん」
「ありがとうございます」
私は礼をし店を去ろうとした。
「待って」
すると店長の女性が私を呼び止めた。
「一つ伝え忘れていたわ。あなたに商品を渡してそのまま逃げられたら困るから、あなたのことはずっと見張ってる。そのかわりお代を払うまでの身の安全は保証するわ」
「えっと、ありがとうございます……?」
見張られているという言葉に恐れるべきか安全が保証されているという言葉に礼をいうべきか私は迷った。
ひとまず用事を済ませた私は薬屋をあとにした。
太陽が輝きを増し夏も本番といった陽気の頃。
貰った薬を飲んで一週間が経つがいまだに効果は感じられずにいた。
(やっぱり私から行動しないとダメかな。でも課題やりたいから、友達と遊んでる場合でもないような)
私はバイトに行かず夏休みに入ってから毎日課題をしている。早く終わらせて残った夏休みの間実家に帰って家族と旅行に行きたいからだ。
(いや、そうやって理由つけてるからよくないのかも。このペースだと夏休みが終わる二週間前には課題終わりそうだし、一日くらい遊んでもいいよね)
意を決してスマホで友達に連絡しようとしたその時。
家のチャイムが鳴った。
「ん、誰だろう?」
アパートで一人暮らしをしている私は部屋を出て玄関へ向かう。
「はーい。……だれもいない」
外に出ても人はおらず、誰がインターホンを鳴らしたのか分からない。
「なんだったんだろ……あれ、なにかおいてある。なにこれ、アクセサリー? それと手紙。水瀬リズ様へ。私宛だ」
床には私の名前が書かれた紫色の封筒と腕輪とネックレスが置いてあった。私は手紙を黙読する。
『こんにちは! 先日魔法道具を購入された方むけに招待状を送らせて貰っています! 付属のアクセサリーをつけてこの地図が示す場所へきてください。お礼としてささやかな催しを開いています。是非お越しください!』
差出人の名前は書いておらず文末には紫の花のスタンプが押されていた。
「誰からだろ……もしかして、こないだ行った店の店主?」
魔法道具を購入したという文面に心当たりはある。先日行った薬局は不思議なチラシを使って向かった。いわば魔法というやつだ。そこで私は自分の望みを叶えられる薬を購入した。
「確認したいけど、代金を払う以外で来るなって言われたし……ここに向かえば会えるかな」
手紙の裏は地図になっておりここからそう遠くはない位置に目印がついている。
「……いってみるか。ちょっと怖いけど店主さん悪い人じゃなさそうだったし」
意を決した私は部屋に戻り準備を始めた。
きりのいい部分まで課題を進めたあとに準備を始めたので準備が終わり会場と思わしき場所にたどり着くころには夕方になっていた。
「この辺のはずなんだけど、何もないよね。お祭りっぽい感じもないし間違えた……?」
たどり着いた場所は山のふもとで全く人気がない。私は広場のような場所で一人辺りを見わたす。
「山の中じゃないよね。ここ登山出来る山じゃないし」
そう呟きながら山のほうへ足を進めた瞬間。
辺りの景色が変わった。
「えっ……」
慌てて周りを確認する。空はオレンジではなく紫に。人気のない山だったはずの場所には平らな土地に出店が並んでいる。私の目の前には沢山の人が往来している。
「どういうこと……私さっきまで山のふもとに」
その時私はあることに気づいた。往来する人々の中に明らかに人間ではない者が混ざっている。
(なにこれ。まるで魔法使いや悪魔がいる世界に迷い込んだかのような……)
「おや、お嬢さん。入口で立ち往生してどうなさったのですか」
突然後ろから人に話しかけられた。振り返ると燕尾服に身を包んだ血色の悪い初老の男性が怪訝な顔で私を見ていた。
「えっあの、気づいたらここにいて……何ですか、ここ」
尋ねたあとに男性の耳が尖っていることに気づき息を飲む。
「気づいたら? ああ人間界から来た魔女ですか。ここは魔女と悪魔の祭典会場ですよ。主に魔女と悪魔が出店を開いてアイテム同士を交換する祭りです」
「そ、そうですか」
「その手に持っている招待状がここへの入場手形です。その招待状を持っている人が指定の場所へ行くと勝手に魔界へ転送されるんです」
「へえー……」
混乱しながらもなんとか冷静になろうと私は何度も深呼吸をした。
「では私もそろそろ行かないと。祭り、楽しんでくださいね」
そういうと男性は去っていった。
ひとまず誰もいない場所で状況を整理したい。私は咄嗟に近くの店と店の間を通り木の裏に身を隠した。
「まずここにいるのは魔女と悪魔って言ってた。それと……私が持ってるこの手紙が招待状で、これのせいでここに迷い込んだ。つまり私はこれに招待されたってこと? あの店主に? でも店主さんパッと見た感じは人間だったんだけど……」
こないだ行った店の店主は茶髪で朱色の瞳をした女性だった。見た目に人間と違う部分はなかったはず。
「でもよくよく考えてみれば、あの店には不思議なチラシを使っていったし、渡された薬も普通の薬ではありえないような効果だった。じゃあやっぱり私は魔女の店で買い物して魔女の祭りに呼ばれたんだ」
ひとりそう呟いてやっと状況を理解出来た。
(薬が普通じゃないことも、手紙が怪しいことにもなんで気づけなかったんだろ。無意識に疲れがたまってたのかな)
最近は本当に毎日勉強しかしていなかった。友達も家族も自分の生活すらおろそかにして。
そんなことをしていたら、昔馴染みの友達と空気が悪くなって連絡が途切れた。
(それをなんとかするために私はあの店を頼ったのにまさかこんなことになるなんて……)
「お姉さん大丈夫? 体調悪いの?」
「わっ!!」
突然顔を覗きこまれ驚いて尻もちをつく。目の前にはうさ耳のある金髪の女性と角と星のタトゥーがある黒髪の女性がいた。
「あっ驚かせちゃった~? 一人で俯いてるからどうしたのかなーって思ってつい話しかけちゃった」
金髪の女性が優しい声色でそういった。
「あっえっと、ちょっと考え事してて」
咄嗟にそう言い訳した私は一つの違和感を覚える
(そういえば、おとぎ話で聞く魔女や悪魔って人間を襲う存在として書かれてるけど私今普通に会話出来てるよね……)
「えーなになに、よかったら聞かせて! 魔女同士今日は仲良くしましょ?」
「あーめんどくさかったら全然いいんで。この子お祭りで気分上がってるだけなんで」
「そんなのお互い様でしょー?」
二人が会話している間に私はまたひとつ深呼吸をして頭を回転させる。
(魔女同士ってことは私は魔女だと思われている……ならあの店の店主の居場所聞いてみるのもありかな?)
「あの、魔法の薬を売ってる人を探してるんです。この招待状をくれた人に会おうと思って」
意を決した私は恐れながらも二人に尋ねた。
「魔法の薬? だったらこの辺で一番有名なのはココアっしょ」
「でもこの招待状、雰囲気がココアちゃんじゃないわ~」
「とりあえずいってみれば。場所なら案内できるけど」
「あっお願いします!」
ひとまず手がかりはつかめたようだ。私は二人に頭を下げた。
「んーじゃあまた今度でいいから、なんかおごってよ」
「えっ?」
「私ただで動く魔女じゃないからさ。はいこれ契約ね」
黒髪の女性が指をならすと右手の小指に小さな星のタトゥーが刻まれた。
「じゃあ早速いきましょ~あっ私はルリシム。こっちはテルスね。あなたは?」
金髪の女性ルリシムが微笑んで自己紹介する。黒髪の女性テルスは気だるげにこちらを見た。
「えっとリズです」
こうして私は戸惑いながらも二人の魔女と行動を共にすることになった。
初めまして。物語を書く勉強をしている学生の灰根咲花です。小説家になろうを始めるにあたって試しで短編を投稿することにしました。
添削もなにもうけてないものですが出来は悪くないと思ってるのでよければ最後までどうぞ。