「主人公がヒロインをいじめる話」
私――赤月 望は休み時間に同じクラスの夜鳥 瑠那に声をかけた。
夜鳥はおびえをあらわにする。
彼女はおとなしそうな出で立ちだ。
ウェーブのかかった赤髪に、丸いメガネ。
色白で小ぶりな鼻、身長は私のほうが高いためか上目遣いの状態になる。
「おい! 夜鳥、トイレ来いよ」
「ひっ、赤月さん……! でも、あたしはクラス当番があるから……」
「そんなのいいでしょ、あたしの言うことが聞けないの?」
「……はい」
夜鳥がしょんぼりと黒板消しを置き、あたしに連れられてトイレへとゆく。
教室を出るときに背後でクラスメイトの声が聞こえた。
「夜鳥さんかわいそー」
「赤月のやつ夜鳥さんばかり標的にしてるよな」
「なにがあんなに気に入らないんだろうね」
「いっつも無理やり引き連れてどこかにいってるよな」
「そのくせに他の人が夜鳥さんに手を出そうとしたら怒るよなー」
「わけわかんないよな」
「昔は二人とも仲良かったのにどうしてこうなったんだろうね?」
みんな勝手にいろいろと言ってくれるわね……。
†
「そ・れ・で、昼はさんざんにやってくれたわね?」
夜。
私の部屋にやってきた夜鳥さんに私は頭を踏みつけられていた。
土下座の姿勢のまま、後頭部に足を置かれ、そのまま足に力を入れられてるから、額と指が床に挟まれていたい。
「あのあとクラスメイトの前で動物の鳴き声の真似だったかしら。いろいろとネタを持ってきたけど、よくネタが尽きないわね」
「……漫画をよんでいろいろと勉強しているの」
「へぇ……その割にはあたしを辱める方向にばっかりプレイが進んでるようだけど」
「それは趣味です」
「やっぱりあんたの趣味じゃねーか」
足に力が入る。
痛い痛い、中身出ちゃうでちゃう。
いやだって、夜鳥が恥ずかしがってる姿が可愛いのもあるけど、あんまり痛みを与えたりするのもかわいそうだから、つい恥ずかがらせる方向に行っちゃうの……!
「まったく……、やっぱりこの方法やめない? あんたが嫌な奴扱いされるよ?」
夜鳥があたしを踏むのをやめて、ベッドに座る。
あたしも夜鳥の横に座った。
そこには恥ずかしそうに眼をそらして、髪をいじっている夜鳥の姿がいた。
頬を赤らめており、大変かわいらしい。
「やめない。夜鳥のサキュバス体質がばれたら大変だもん」
サキュバス体質。
魔物――サキュバスの血を引いている夜鳥はその魔力で周囲の人間を狂わせて、無意識に好意を向けさせてしまう。
その発動条件は周囲の人間が夜鳥に意識を向けるか、夜鳥が意識を向けることで発動する。
そのせいで小学校のころ、体育会の組体操で全校生徒と先生、保護者で夜鳥を求めて大乱闘が起きたことがあった。
「それはそうだけどさぁ。……でも、あたしが魔物の血を引いてるのはあたしの問題だから赤月が自分から悪もの扱いされるのをみるのもつらいもんがあるんだぜ?」
「でも、やだ、夜鳥を取られたくない。私は夜鳥のことが好きだもん」
「赤月……」
サキュバス体質の封じ方として誰かのものであると強く意識させると不思議なことに能力が発動しなくなる。
詳しい理由はわからない。
が、だから、こそいじめっ子といじめられっ子形式で私は夜鳥が自分ものだと周囲にアピールしていた。
恋人関係だと二人ともども意識の対象になってしまうのか、能力が発動してしまうみたい。
「でも、おしおきはまだ終わってないぞー」
「うう、優しくして」
「普段の行いを省みような」
「夜鳥が意地悪だよう」
夜鳥に目を閉じさせられる。
うう、なにされちゃうんだろう、これ……
確かに犬の鳴き真似させたり、コスプレさせたりいろいろとしたけれど……!
どきどきとしている私の唇に柔らかい感触があった。
目を開ける。
甘い香り。夜鳥の顔が目の前にあった。
驚く私の身体から力が抜ける。
夜鳥の背中をとんとんとたたくが全く拘束がとけない。
やばい息が苦しい、視界が歪んできた。
ふらふらとなったところで、やっと夜鳥の口が離れた。
「ふーんだ、赤月のくせに生意気よ」
拗ねたように夜鳥が顔をそむける。
非常に可愛らしい……けどサキュバスの能力で吸精され力が入らず、私はベッドに倒れた。
「もうだめ……」
「え、なに、もう終わったと思ってるの?」
上半身に夜鳥がのしかかる。
彼女の柔らかい感触を強く感じる。
やばい、近いってレベルじゃない。
柔らかくて暖かくてうれしいけど、今は力を取られたからきつい……!
「まだ夜は始まったばかりよ。今夜は寝かさないわ」
「お、お手柔らかにぃ……!」
私、朝日を拝めるかな……。