第2話 挫けそうな心
「あっ・・・なっ…..」
「ただ必ずしも成功するとも言えませんし、移植後のリスクなど・・・それに他にも障壁もありまして・・・」
「適正のドナーが見つかること、タイミングがあうこと」
「そして費用に関しては先に少しだけ支払う必要もあったりと・・・」
「・・・いや、それでもお願いしたいです」
「…可能性を信じたい」
「だから、、、先生!どうかどうかお願いします!」
今のままではどうしようもない状態。
このまま眠るように死んでしまうかもしれない妹。
そんなのって・・・
残された家族を失いたくない。
返答は即答だった。
「・・・そうですか・・・わかりました」
「そうしたら、心臓移植に向けて進めていきましょう」
「お願いします…」
「ただ正式な手順を踏むためにも、時間がかかりますので、改めてお時間をいただきます」
「その際に同意書などの紙面に記載などが必要になりますので、必要なものが揃うまでお待ちいただければとです」
「はい・・・」
「あっ先生…に先に必要な費用ってどれくらいなんでしょうか・・・?」
「そこらへんも申請を出してその時の状態などによって変動してしまいますが・・・」
「おそらく300~500万円は必要になってしまうかと思われます…」
「・・・そうですか」
確定ではないもののとんでもない金額…
派遣社員の翔太にはどうしようもない。
貯金はあるが、こんなお金ある訳ない。
何かアテがあるわけでもないけど、返事をした。
「…わかりました」
その後のことはあまり覚えていない。
300~500万円・・・しかもこれはあくまで、先に必要な金額で手術費や入院費など考えるともっといくだろう。
まだ30歳にもいってない者にはとてつもない金額。
頭を色々駆け巡ったけど、答えは出ない。
借入も、大手の企業に勤めているわけでもなく、正社員でもない。
どうしたらいいのか・・・
闇バイトなどもよぎるけど、こんな金額稼げるわけもない。
いっそのこと自分の臓器提供と引き換えにとも考えた。
けど日本では脳死後もしくは心臓が停止した後にしかできない決まりがある。
…海外で臓器売買でなんとか費用を・・・
いや、そんなこと出来るわけがない。
ツテがあるわけでもないし、そもそも海外に行った事もない。
「・・・どうしたら」
気づけば妹の病室まで1人戻ってきた。
そこには先ほどと何も変わりのない光景。
口には呼吸器系のパイプが入れらたまま目を瞑っている妹。
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
心電図の音だけが正確に響いてる。
そんな痩せほそった妹を見て、思わず駆け寄り手を握った。
グッ……
もちろん反応はない。
「・・・」
走馬灯のようにこれまでのことが思い浮かんだ。
いつも慕ってくれていた妹。
2人一緒に頑張って生活していた日々。
僕の誕生日になけなしのお小遣いを貯めてプレゼントしてくれたケーキと感謝の手紙。
それ以外にも、いっぱいいっぱい・・・
「にぃに!いつもありがとう」
満面の笑みでいつも言ってくれていた。
「・・・あゆみ」
挫けそうになっている自分がいた。
問いかけても返事はない。
握り返す反応もない。
「・・・にいちゃん…」
ピッ・・ピッ・・ピッ・・
「・・・あゆみ?」
ピッ・・ピッ・・ピッ・・
またこれまでと少し違う心音に変わった気がした。
グッ……
再び手を強く握った。
反応はない。
ピッ・・ピッ・・ピッ・・
けれど、心音がまた少し変わったと感じた。
それは、あゆみが反応してくれたんじゃないかって。
だから・・・
「あゆみ、にいちゃんなんとかするから!」
「もう、大丈夫。だからあゆみも頑張ろうな」
ピッ・・ピッ・・ピッ・・
それは気のせいだったかもしれない・・・
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
病室を出た時にはこれまでと同じになった心音が病室に響いていた。
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