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5章-6 沙の国の巫蠱

 新たな来訪者らが玄室の中心へと()を進めると、招かれざる侵入者の三人は直ぐに身構えたものの、(まじな)い師然としたその幼子は〝案ずるでない〟と事も無げに言い放つ。



「ミっ、ミレス様、何故ここに…………」


 英雄消失の動揺が拭い切れなかったガヘラスは、大男の方に問い掛ける。


 しかし(きょ)()の重装騎士はそれに応ずる事も無く、今はもう誰も捕らえず、一つに結ばれただけの魔人(ネフィリム)の鎖を、娘子と共に静かに見上げた。


 〝ミレス〟と呼び掛けられたその大男は、胸に拳を構え、軽く会釈し、追悼の意を示す。



「白き英雄、イヴニス様の加護は今後も変わらない…………それは本当に間違いないのですな?」


 天命(オーダー)騎士(ナイト)はそう問い掛ける。


(しば)しは不安定じゃろうて。ただ、それも数日限り。(ぬし)は今後新たな呪痣(じゅし)の処遇に頭を悩ますかもしれんが……寧ろ変わるのはその程度。少なくとも〝(わらわ)()る限りでは〟な」


 そうして彼等二人はそれぞれに光の鎖を眺めながら、淡々と会話を取り交わす。



「まぁ仮に消えていたとて、見ての通り全くの手遅れじゃがの……くく」


 幼子は長い袖で口元を覆い隠しながら、冷めた笑いを噛み殺す。



 ミレスが(いか)めしい視線でそれを()(とが)めると、彼女は悪びれもせず、


「時には(かい)(ぎゃく)も必要じゃろ? 日々に彩りが無くなるぞよ?」


 と、余裕綽々でそう応じていた。


 (しゃく)(どう)色に(めか)されたアイラインの下から、赤く(つぶ)らな瞳でしっかりと批難する男を見返している。




「そも、我が国の沽券に(まつ)わる一大事。(わたくし)()はそうした折、(けい)(ちょう)な戯れに興ぜられる程の大器ではございませんので、どうかご(かん)(じょ)願いたい」


「……まぁ、安心せよ。今後は(おの)が手ずから〝()(ごう)〟を作り出す事もなかろうて」


 そう(さと)された大男は、自らを戒めるように強く拳を握り締め、先程まで英雄を捕らえ続けていた白く輝くそれを複雑そうな面持ちで見詰めていた。




 レルゼアはこの二人の不可思議な遣り取りに疑念を抱く。


 ミレス大将軍(・・・)は厳格ながら、仁義や礼に(あつ)く、下々の者に対する敬意も(いと)わない事は知っている。


 だがこの接遇は、明らかに目上に対するそれでしかない。


 この国でかの大将軍より上の、しかもこのような幼子など存在したであろうか。




 しばらく訝しみの視線を送り続けていると、


「――――久しいの、レルゼア。(いや)今は(・・)まだ、初対面だったかの」


 (いたい)()な少女は尖晶石(スピネル)を思わせる真紅の瞳を(きら)めかせ、そう彼に応じる。



「さて、と。(ぬし)(おの)が目にして、もう満足したであろ? こんな辛気臭い所からは()く去らねば、早々に気が滅入るぞよ?」


 隣の重装騎士に向けて気易くそう告げると、彼女は(きびす)を返し、既に小さく歩み始めていた。



「あー、そうそう……レルゼアとそこの(おな)()よ、二人は共に(わらわ)の元に(たも)れ。血気盛んな男の方は……そうじゃの、(ぬし)の手下故、好きに処すが良い」




 * * *




 怪しく(けし)(むらさき)仄光(ほのひか)る玄室から、深き土の階段へ。


 そして再び暗渠(あんきょ)網を経て外に出ると、地上は既に(よい)の口だった。


 出迎えたのは武装した複数の騎士らに加え、()(ぶか)にフードを被った体格の良い黒装束の男が二人。


 沈んだ様子のガヘラスは、ミレス大将軍と共に去っていく。



 そうしてレルゼアとリテュエッタの二人は帰路にも就けず、謎めいた幼子と共に頑強な客室(キャビン)付きの馬車に乗せられてしまった。


 ――――向かう先は、城砦庁舎(グランパレス)


 先の護衛騎士らと黒装束の男達は、先導する(ほろ)馬車に乗ったようで、無言のまま到着を待つ。


 その後も騎士らに挟まれ、半ば連行されるような形で歩き、やがて南塔の最上階、〝天来の間〟と呼ばれる美しい客室に迎え入れられた。




 そこは足音が全くしない程の深い毛並みをした絨毯に覆われ、秀逸な金銀細工で飾り立てられた迎賓の間。


 レルゼアも噂に聞く位で、実際目の当たりにするのは初めてだった。


 黒装束の男二人はこの妖しい(まじな)い師然とした少女の付き人だったようで、幼子は彼等を一旦部屋の外へと下がらせると、主賓の座に鷹揚(おうよう)と腰掛ける。


 同伴してきたイヴナードの騎士達は深々とした会釈と共に退出し、結果、レルゼアとリテュエッタのみがこの謎めいた童女(どうじょ)と対峙する事となった。




「さて……と。(わらわ)に問いとう事がたんとある、といった(かお)付きじゃの?」


 その不貞不貞(ふてぶて)しくも小柄で愛らしい態度を見ていると、まるで大きな人形が椅子の上で演技をしているようにも感じられてしまう。




 二人が様子を窺いつつ押し黙っていると、女給仕が陶製(とうせい)の茶器を三つに差し出し、まだ湯気の立つくすんだ液体を注ぎ、音も無く去って行った。


 絢爛(けんらん)(ごう)()なレース生地の敷かれた卓上は、直ぐに温かく(かぐわ)しい香りで満たされ、少女は緋色の液体を遠慮無く安穏と(すす)っていた。



 ガヘラスから聞き及んでいた国賓とは〝ナズィヤの為政者〟という事だったが、(まこと)に信じ(がた)いものの、これまでの状況から察するに、それは恐らく彼女の事だろう。


 ただいずれにせよ、国賓待遇にしては圧倒的に護衛が少なく、無防備に過ぎる。


 しかも、まさかこれほどまでに年端もいかない子供だったとは。




「これ、()(らち)な事を(のたま)うでない。(わらわ)(ぬし)より幾何(いくばく)か年上ぞ?」


 彼女は宙に浮いた足をふらふらと揺り動かしながら、悪戯っぽく微笑む。


 まだ一言も発していないというのに、かつて冥府神と出会った時と同じく、まるで心の声を聞かれてしまっているかのような受け答えだった。



「失敬。うら若い容姿と伝え聞いていたが、まさかここまで幼い(・・)とは――」


 この見た目で自身よりも年上だなんて、魔女の類か何かであろうか。


 冗談を言っているようには思えなかったものの、何処か本心とも思えず、(けむ)に巻かれているようだった。




「相変わらず率直に無礼よの、(ぬし)は。くれぐれもその(ぜっ)()で、身を滅ぼさんようにな?」


 そう(かこ)ちつつも、彼女は終始楽しそうな笑顔を絶やさない。


「……私は貴女にお会いした事が無いと記憶している。その話しぶりと良い、私の事をご存じなのだろうか」


 困惑し続ける彼に対し、眼前の国賓と(おぼ)しき者は、事も無げに言い放つ。



「何ぞ()(まつ)な事……(わらわ)が色々と聞き出す前に、騎士たる(ぬし)は改めて名を名乗るのじゃろ? ならば、教えて(たも)れ?」



 彼女の祖国、ナズィヤ王国は〝(すな)の国〟と呼ばれる程に荒瘠(こうせき)だったものの、豊富な鉱石資源や武力などにより、強力な国家としての地位を保ち続けている。


 中でも特に重要視されていたのが、占星術だった。


 かつては浮蝕に侵された行商の大帯(マーチャント・ベルト)を迂回する商人団(キャラバン)などが僅かに(たむろ)する地。


 そこに少しずつだけれど確固たる国家が築かれていったのは、強大な力を持つ占星術を()として未来を予言していったからだといわれている。


 また荒瘠(こうせき)ながらも浮蝕は殆ど生じなかった事が幸いし、その歴史は人の世界(テリス)の中でも恐らくオルティア大教国に次いで長いとされていた。



 なお、正式にはナズィヤ()国だったが、一般には〝ナズィヤ国〟と呼ばれる事の方が多い。


 というのも王はただの傀儡(かいらい)で、実際は〝ナズィヤの巫蠱(ふこ)〟と呼ばれる最高位の占星術士が、全ての(まつりごと)を取り仕切っていた。


 つまりこの(まじな)い師然とした幼子は、恐らくナズィヤの巫蠱(ふこ)本人、即ち実質的な国家元首と言って差し支えない。




 なおイヴナードでは、廻し子を上手く維持し続けるため、出来るだけ公平公正な指針が必要で、その役割を占星術が担っていた。


 建国当初は大賢者グリムクロアの持つ広範な知識のよって執り行われ来たようだが、埒外(らちがい)の技術や新しい知識を取り込むべく、時折国外から占星術士が(しょう)(へい)されるようになっていた。


 必然的にその最高位であるナズィヤの巫蠱(ふこ)も対象となったが、これだけ高貴な術士となると、数年に一度、余程の機会に限られていた。



 ただ彼女によると、今回イヴニスの消失に(まつ)わる混乱を未然に防ぐべく、異例中の異例として、自ら望んでこの騎士国を訪れたのだという。


 直前までは真の来訪目的は伏せ、日中は厳戒態勢を敷かせる。


 そうして到着するや否や〝お忍びの物見遊山〟として、敢えて人払いをしたらしい。




(……それではまるで、我々が侵入し易いよう、裏で手を引いていたという事ではないか――――)


 更に深まる訝しみから、レルゼアは自然と眉根を寄せ、意図せず彼女の事を()め付けていた。


「この国の(もたら)す〝飯〟は大いに美味いでの。延々(まど)っておったら、ナズィヤが飢餓に喘ぐ事になってしまうじゃろうて。(わらわ)にとってこの国の民草は、差詰め騎士というより〝農奴〟じゃの」


 彼女は冗談(めか)してそう添えると、(あか)い茶を最後まで飲み干した後、カップの底に沈んでいた桜桃(チェリー)の果肉を(つま)み、楽しげに()んでいる。


 先の地下での発言と同様、この国の加護は今も全く問題ない。言外にそう告げているようだった。




「だが……ナズィヤの巫蠱(ふこ)よ、幾ら貴女が占星術に長けているとはいえ、我が名を存じ上げていた事に加え、まるで実際お会いした事があるようなその物言い――」



「――――〝(あたか)も、未来そのものが()えている、そうとしか思えない〟」


 レルゼアが続けようとした心の中の一字一句を、彼女は先んじて読み上げていた。




 遠く響く鐘の音が、本格的な夜の訪れを告げている。


 彼等は黙したままでしばらく目線を交わしていると、その音は街の(あか)りの方へと溶け落ちて行った。


 先に口火を切ったのは、ふと窓の外に目を遣った巫蠱(ふこ)の方だった。



「そろそろ腹が減り始めておるし、続きは(ゆう)()の後か、明日(みょうにち)にしたいところじゃが……それではまあ、(ぬし)らの方が落ち着かんじゃろうて」


 言葉とは裏腹に、不服そうな様子は全く感じられず、彼の方へと視線を戻す。


 そうして声の調子を一段と落とし、問い掛けてきた。




悪魔の血統(レヴァレント・イヴィル)…………聞いた事はあるかの?」


 レルゼアは少し間を置いて静かに頷くが、リテュエッタは首を横に振っていた。



「…………(まばた)き程の未来が()えるいう、忌み嫌われた古の部族。仄聞(そくぶん)程度には」


 それを聞いた巫蠱(ふこ)は、複雑そうな柔らかい笑みを浮かべると、人差し指の先を軽く唇に当てながら囁くようにして告げた。


「先の(わらわ)の従者、(かお)を見られんように成るたけ心掛けておる奴等がそれ(・・)じゃ。月並みには、(ぬし)の述べた通りじゃろうて…………決して、逆らわんようにな?」




 その部族は〝魔法〟の残っていた太古から既に存在したといわれており、かつてはそんな(おぞ)ましい(いみな)では無かったらしい。


 ただ今となっては、何かしらの暴力に頼るしか生きる(すべ)が無く、窃盗や暗殺、賭博といった裏稼業を生業とする者が多い。


 そのため、いつしかそう呼ばれるようになってしまったという。



 レルゼアは今まで辟易するほど伝承の類――封じられた祖国の英雄、奈落の底、果ては冥府に座する神まで目の当たりにして来た。


 だから今更その存在を(つまび)らかにされたとて、全く動じる事はなかったし、寧ろ竜髄症の方が珍しい位に、よくある噂として、かの部族は知られていた。




 一般的に知られている事は、彼等の持つ神通力のような力は、感覚や直感の延長に近く、瞬時の判断が支配的な行為では無類の強さを発揮するという事。


 例えば、白兵戦や狩猟などがそれに当たる。


 ただその力は自らの意思と無関係に〝今〟と〝少し先の未来〟を同時に(・・・)感じ続けてしまうものらしい。


 だから、生まれて直ぐその感覚に慣れないと、呼吸すら覚束(おぼつか)ず、そのまま死を迎えてしまうという。


 また精神への負荷が常に大きく掛かってしまうようで、知育が抑制されていく。


 具体的には、どれほど努力を重ねても読み書きすら身に付かない者が多く、平均寿命は三十前後とされる。


 (ひっ)(きょう)、人より動物に近い生き方の方が適しており、その稀有(けう)な能力から、時の権力者の隠れた手駒や子飼いとなっている事が多いともいわれていた。




 また生まれながらにして能力を発現しない者も間々(まま)あり、そうした時は一般の人間と何ら変わりの無い生涯を遂げるのだという。


 ただどれだけ他の血を取り入れようと、その力が代々失われていく事は無い。


 (しか)して人々からは忌み嫌われ、やがては社会から隔絶された民となっていってしまった。



 ナズィヤではこの部族が(かね)てから相当数蔓延(はびこ)っているらしいという噂が、あらゆる地域で(まこと)しやかに囁かれていた。


 そしてこの騎士国に於いても、僅かながら先の地下水路――灰市街(グレイアブス)にも棲息しているという。




「そして――――この妾も(・・)な。内緒じゃぞ?」


 国家元首たる彼女は、幾何(いくばく)かの(うれ)いを帯びて打ち明けた後、(いとけな)く微笑む。


 流石にそこまで聞くと、レルゼアは少なからず驚きを隠せなかった。



 年齢と容姿の乖離、極端な幼さは別として、既に長く生きているという事実に加え、知能や知識が常人のそれに比べても随分高く感じられる。


 単に特性を発露しなかった(・・・・・・・・・・)というだけなのだろうか。


 そうはいっても、殆ど〝()(なた)の世界では生きられない〟とされた人種が、今正にナズィヤの頂点に立っているとは。



「…………仮にそうだとして、先の話とどう繋がってくるのだろうか。申し訳無いが、私には全く理解が及ばないし、想像も付かない」


 何となく、本当に何となくぼんやりと嫌な予感が押し寄せてきて、じっとりと手が汗ばんで来る。


 幼女の外観をした彼女は、突然小さな右手を彼の方に(かざ)すと、最初に人差し指だけを立て、ゆっくりと一つ一つ指を開いていった。


 ……一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。


 シャンデリアに照らされた卓上の指の影も、同じように増えていった。




「それは、一体どういう……」


 殆ど独り言のように呟くが、巫蠱(ふこ)は答えないまま、その手を下ろす。


 〝五倍〟、即ち(まばた)き五回分程の未来まで視えてしまうという事だろうか。


 それとも星の導きによって、五回の邂逅(かいこう)が既に()えているという事かもしれない。




 術士の男は手癖で顎に縦拳(たてけん)を当てて考え(あぐ)ねていると、ここぞとばかりにリテュエッタが横から口を挟んだ。


「……ほんの少しじゃなくて、五日(・・)くらい先まで()えちゃうって事? だったりして」


 悪魔の血統(レヴァレント・イヴィル)の仔細を知り得ない少女の発言は、レルゼアからしてみれば、常軌を逸した(・・・・・・)示唆だった。



 幼い外見ながら大いに年長者である彼女は、純真無垢な娘の言葉を優しく否定するように、無言で首を横に振る。



 黒髪の娘は引き続きうーんうーんと唸りながら考え続けており、レルゼアもまた微動だにせず思考の海に沈んでいた。


 そのか細い(かん)(じゃく)を縫うようにして、風も無いのに卓上に据え置かれた燭台の火が微かに揺らめいた気がする。




 巫蠱(ふこ)は微笑みながら、しばらくの間二人の答えをじっと待ってくれていたが、騎士たる男はとうとう耐えきれず、大きく嘆息しながら白旗を()げる。


「――駄目だ。皆目見当も付かない。そろそろ教えてはいただけないだろうか」


「……なんじゃ、もう降参かえ?」


 彼女はほんの少し口を尖らせて、(そら)(うそぶ)いた。




「そこの(おと)()よ、実は良い線じゃった。何の事はない。五日ではなく……五年(・・)じゃよ」


 レルゼアは無意識に立ち上がりそうになっていた自分に気付くと、自らの胸に手を当て、何とか動揺を抑え込む。



 この者は、この一時(ひととき)で、今から五年も先までを同時に生き続けているというのか?


 (まばた)き程の未来でさえ、想像を絶する事というのに――――。




 隣の少女はその答えに得心(とくしん)したようで、〝凄い!〟などと呟きながら、あれこれ素朴な空想を巡らせていた。


 (よわい)を含め、一方的に(たぶら)かされているだけかもしれない。


 けれど、もし真実だとすれば、これまでの言動と全て合致しているのは明らかだった。



 どういった目的で、何のために我々に接触してきたのか。


 そもそもこの者は、一体我々に何を求めているのか。




 知らぬ間に、レルゼアは再び彼女の事を一層(けわ)しい眼差しで射抜いてしまっていた。


「これ、相変わらず(・・・・・)化け物を見るような目で(わらわ)(すが)めるでない。全くこれだから、(ぬし)という(やから)は、毎度毎度失敬な…………」


 袖で顔を覆い、恥じらうような素振りを見せるが、裏に見え隠れするそれは完全に楽しんでいる時の表情だった。




 リテュエッタは小首を(かし)げ、殊更(ことさら)状況を掴めずにいる。


 一方のレルゼアは、その禍々(まがまが)しいまでの異質さを理解出来てしまったが故に、未だ大きな混乱から抜け出せないでいた。


「――――つまり、これから五年間で、私は貴女に……巫蠱(ふこ)に拝謁する機会が度々ある……と」


 ゆっくり噛み締めるように、核心の言葉を口にする。




「フィーカ」


 小さき妙齢の少女は、人差し指の先を再び唇に当てながら、愛らしく囁く。


(わらわ)真名(まな)じゃよ。(ぬし)からはそう呼ばれんと、居心地悪うて仕方ない。()く心に刻んどくれ?」


 悪魔の血統(レヴァレント・イヴィル)(おろ)か、今となってはただ〝巫蠱(ふこ)〟としか呼ばれなくなった彼女の本名を知る者など、指折り数えられる位しか居ない。


 年の割にいつまで経っても(こころ)()が垢抜けない童女(どうじょ)は、〝この名も内緒じゃぞ?〟などと(おど)けながら、小さく破顔してみせた。

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