魔術塔最上階からのおまじない
魔法塔の最上階の推しが返ってきました。
あれから百年後のお話です。ゆるふわ設定です。
この学園には、それはもう高い魔術塔がある。
その最上階には誰か住んでいるらしいと言う噂だ。魔術塔は凄く高いからそんな噂を鵜呑みにして上がろうなんて人は居ないんだけど、私はそれにまつわる二つ目の噂を聞いてしまった。
『あそこには縁結びの妖精が住んでいるらしい』
いや、嘘くさい。実に嘘くさい。そもそも妖精って存在があやふやだし、それが住んでいる?あんな所に?あり得ないあり得ない。そうよ、普通に考えて、ガセネタ。あんな所まで真偽を確かめに行くまでもないわよね!
「…………はぁ、はぁ…来ちゃった、わ、よ…」
実際途中までの扉や空間はシンプルだったのに、この先では人の気配がする気が…。扉も重厚だし。なんか入っちゃ駄目な威圧感すら感じる。
ううん!何此処まで登って来ておいてびびってるのよサレン!女は度胸ってお母さんも言ってたじゃない!でも、でも万が一良くない物が封印されてるとかだったら、どうしよう。
「……らね?そうなの、それで……」
中から女の人の声が微かに聞こえた。え?本当に誰か住んでるの?こんな不便なところに?
「…そうであろう?して、そなたは…」
ん?男の人の声もする。妖精さんは夫婦?だとしたら、縁結びの妖精だって噂は本当だったのかもしれない!私は逸る気持ちを抑えながら、扉を控えめにノックしてみた。
「はーい!どなた?」
扉は見た目と異なりあっさりと開いた。
目が合うと美人と言って良いだろう、なんならとても綺麗な女の人が私を見てふんわりと微笑んだ。
「此処に来たと言う事は、恋でお困りね?」
ズバッと確信をついてくる美人のお姉さんは思わず動揺した私にクスクスと笑顔を向ける。
「そう言う噂が流れているんでしょう?私達も何も知らない訳じゃないのよ、セス!お客様みたい」
私の手を取るとお姉さんは部屋に招いてくれた。
そうなのだ。私は、恋で困っている。見込みのない恋をしているのだ。
セスと呼ばれた人を見ると、それはもう、可愛い、お人形さんみたいな男の子だった。
「あれ?妖精さんはご夫婦じゃ?」
「やだ!お似合いのご夫婦なんて照れてしまうわ!」
お姉さんはとても嬉しそうにそう言った。
え?ショタコン?お姉さんショタコンなんですか?
「これ、落ち着けミラージュ。お客様が戸惑っておる」
「え!?ごめんね?何年前かのお客様にはご姉弟ですか?って言われちゃって」
すみません、私も最初はそう思いました、とは絶対に言わないでおこう。
その上ショタコン疑惑を抱いていることは胸に秘めておこう。
「こんなにらぶらぶな姉弟が居てたまるかの、全く。最近の若者は人の話を聞かない」
「らぶらぶかな?私達らぶらぶかな?」
「我ら程仲の良い夫婦はこの国に居らんじゃろう?」
「セスったら!嬉しい!」
妖精さんなら、年の差とか気にしないのかもしれない。うん、きっとそうだ。もしかしたらちょっとしか年の差も無いのかもしれない。固定観念にとらわれてはいけないってお母さんも言ってたよね、うん。
「それで、そなたは何に困ってこの塔を登ってきた?」
「恋の相談でしょう?私達縁結びの妖精らしいのよ、セス。人って面白い事考えるわね」
男の子は何も知らないようで、妖精?とか首を傾げて、お姉さんはそうなの、妖精さんらしいの、とか仲良く話している。
「あの、実は…!」
このままでは永遠にいちゃいちゃされる気がして、私は自分の恋の悩みを相談する事にした。
「好きな人に嫌われている?」
「…………はい。目が合うと直ぐに顔を逸らされてしまって。授業とかでお話し出来る機会もたまにあるんですけど、絶対目を合わせてくれなくて」
「へぇ、若いのぅ」
「セス!駄目よ、サレンちゃんは本気で悩んでるんだから。こんな所に登ってくる程、本気なのよ」
「ミラージュお姉さん!」
「あら、何だか良い響き」
「我面白くない」
「やきもち?」
「そうじゃけど何か?」
「私にはセスだけよ。ふふっ。それでその男の子とはクラスメイトなのね?」
実は、それだけではないのだ。
「…………婚約者、になったばかりなんです」
「まぁ婚約者!懐かしい響き!思い出すわ、あの断罪劇を…セス格好良かった」
断罪劇!?何それ怖い…いや、何処かで聞いた事がある様な?百年くらい前に高位貴族の男性を何人も手玉に取った男爵令嬢が卒業式で騒ぎを起こしたとか何とかかんとか。
「我は今も格好良いじゃろ?」
「勿論よ!」
即答が凄い。本当に仲良しなんだなぁ。
「良いなぁ、私も、仲良くしたいな…」
どうして私と目も合わせてくれなくなっちゃったんだろう。婚約する前はちゃんと目を見て話してくれていたのに。私が何かして、嫌われちゃったのかな?それともクラスメイトなら良かったけど、婚約者としては見られないって事かなぁ。
「サレンちゃん…泣かないで?ごめんなさい、私、ちょっと久しぶりのお客様に浮かれてしまって」
しょんぼりとしてしまったミラージュお姉さんに慌てて涙を拭った。
「いえ!望みの無い恋に、ちょっと苦い気持ちが溢れてしまいました。すみません!」
「……………ほんに、望み無いのかのぅ」
セスくん?が顎に手を当てて何か考え込んでいる。
「だって、目も合わせたくないなんて…きっとそうでしょう?」
セスくんは、ふむ、と小さく頷くと、私に向かって手を出した。
「久々にはしゃぐミラージュを見せてくれた礼をしよう。そなたにこれから魔法をかける、此方を見てごらん」
魔法?昔の人は凄い魔法使えたって聞くけど、セスくんはまだ子供だよね…。あ、妖精さんなんだった。だとしたら本当に何かおまじないをかけてくれるのかもしれない。
私は頷くとセスくんを真っ直ぐ見た。
「そなたの目に魔法をかける。そうじゃな、五秒あれば十分じゃう。見つめた相手が五秒目を逸らせなくなる魔法じゃ」
もう良いよ、と言ってセスくんが手を下ろす。
隣で狡い、見つめ合っちゃって、とむくれているミラージュお姉さんの顎に触れるとセスくんはクスクスと笑いながらお姉さんにキスをした。
キスをされた、目の前で。何だか無性に恥ずかしい。思わず目を逸らすと、きゃっと小さいお姉さんの悲鳴にまた咄嗟に顔を上げる。
そこには大人の男の人が居て、お姉さんを膝に抱き抱えていた。
「そなたの恋が上手くいきますように」
そこからはよく覚えていない。
魔法はしばらくで解けるから早めに試すと良いよ、と言う声だけが頭に残っている。
五秒、目が逸らせなくなる魔法。
今なら、どうして目を逸らすの?と彼に聞けるかもしれない。
そんな勇気を貰って、私は彼を、ロードを探した。
もう放課後。居ないかもしれない。けど、今が良い。確かめるなら、勇気がある今。
教室まで戻ると放課後なのに、ポツンとロードが外を見て居た。
誰かを待って居るのだろうか。もしかしたら誰かを想って居るのかもしれないし、外に居る誰かを見て居るのかもしれない。
それを、ちゃんと確かめるんだ。
私はこっそりとロードの後ろに近付いて……。
「わっ!!!!」
「はぁっ!?」
大きな声を出すとロードがびっくりして後ろを振り返った。ロードと目が合う。いつもなら逸らされてしまう視線。
ロードの目が大きく見開く。もしかしたら逸らせない事に動揺しているのかもしれない。
私は意を決してロードに話しかけた。
「ロード、私の事、嫌いなの?だからいつも目を逸らすの?そんなに私の事が嫌いなら、私……」
婚約が解消出来ないか、聞いてみても良い。そう続けようとしたら、私は気付いた。ロードの顔が赤い。夕焼けのせいだけじゃないと思う。明らかに赤い。
五秒経ったのか、ロードは勢いよく顔を逸らした。いつもなら傷付いた。もう婚約解消しようって続けた。
でも、ロード、耳まで、真っ赤なんだ。
「赤面症なんだ!格好悪いだろう!?」
と言う事は、今、ロードはドキドキしているの?
「……全然格好悪くない。嬉しい、良かった」
「は?え、なんで泣いて…」
「だって、私、ロードに嫌われてると思ってたから…」
「嫌いな女に婚約申し込みなんてしない!!」
「ロードが申し込んでくれたの…?知らなかった。なんか無理矢理結ばれたものかと思ってた」
「違う、ごめん、違うんだ。俺、この通り赤面症で、格好悪い所、お前に見せたくなくて…ごめん、泣くなよ、その、笑った顔が好きなんだ」
「やっぱり年頃の男子だったのぅ」
「良いなぁサレンちゃん。私も久しぶりにセリアスに魔法かけて貰いたいなぁ」
「好きな女に魔法かけてあれこれなんて野暮だと最近気づいちゃったからミラージュには魔法かけてやらぬよ」
「何それ狡い!」
「狡いものか。魔法などかけずとも、我そなたにメロメロじゃもの」
「……………やっぱり、狡い」
魔術塔の最上階には、縁結びの仲良し夫婦が住んで居る事は、私だけの秘密にしておこうと思う。
百年後の夫婦はどうでしたでしょうか?
読んで下さってありがとうございました。
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