日常
中学生のころから温めていたお話です。
このまま書かないと腐ってしまいそうだったので公開します。
腐っていないだけで、かなり熟成されていそうですが……
ピピピピ、ピピピピ
起床アラームが鳴る。まだ眠っていたいという欲望をなんとか引きはがし、俺はベッドから体を起こした。 早朝5時15分、これでも他の受刑者よりも遅い起床だろう。
しょぼつく目をこすりながら自室を出て共同スペースに向かう。するとそこにはすでに朝食を終え、テレビをつけっぱなしにして、談笑しているルームメイトがいた。
「よぉ、またずいぶんと遅いじゃないか多々良君」
「朝食は取らんくてもええんか?」
「あ、どうも」
口々に言葉を投げかけてくる彼らに、
「おはようございます、網走さん。いつもこのくらいですよ」
「おはようございます、加古川さん。僕はカロリーゼリーで十分です」
「おはよう、麓君。二人から聞いてると思うけど、僕が計器チェック担当の吉備多々良です。よろしく」
と、順番に挨拶を返す。
そしてカロリーゼリーを手に取り、玄関に向かって歩を進める。
「皆さんそろそろ出発しましょう。起き抜けで言うのも何ですが、遅刻はシャレになりませんから」
俺の言葉に続いて3人が腰を上げる。やはりというべきか、その足取りは重い。誰も望んでこの仕事をやりたがらないのだから仕方がない、我々がやるしかないのだ。そう自分に言い聞かせて俺は玄関の戸を開けた。つけっぱなしのテレビは、最近頻発している事件を取り上げていた。
俺の名前は吉備多々良18歳。一応公務員だ。より正確に言うと準公務執行者というくくりで、国や地方自治体の仕事の内、内容が危険である場合や人権を保障できない恐れのある仕事を任される無期懲役の受刑者だ。いくらここが人権国家日本だからと言って、国民全員の国民全員の権利を尊重していたら国が回らない。そうして国の厄介ごとを押し付けられるのが、俺達準公務執行者というわけだ。
そうやって歩いて行くうちにプラントが見えてくる。すり鉢状に露天掘りされた地形に、おびただしい量の配管がその中心にある一つの巨大な建物へと収束している。これが巨大発電施設「イーコール」だ。近年見つかった新エネルギーを扱う施設で、発電時の熱や光エネルギーへのロスが限りなくゼロに近い事からこのイーコールという名がつけられたそうだ。
と言っても、俺がこの施設について知っていることなどほとんどない。さっきの話だってここに初めて来たときに、現場のお偉いさんから自慢げに聞かされたに過ぎない。真偽だって曖昧だ。この新エネルギーの扱いを死んでも構わない俺たちに任せている時点で信用に足らない。
「いつ見てもでけぇよな。よくこのくそ狭い国でこんな土地を確保したもんだ」
と網走さんが声を漏らす。
それもそのはずだ。このすり鉢状のプラントは某自動車メーカーのように市を丸ごと飲み込んでいるのではないかという規模感なのだから。
プラントの端に着いた俺たちは用意されている自走車両に乗り込む。無論この車両もイーコールからの電力で動いている。
音もなく扉が閉まり、滑るように動き出した車両の中で、俺たちは今後の予定を確認しつつ防護服に着替える。
「今日の僕たちの担当は58階D区画、わかっているとは思いますが今日は半年に一度の上層清掃、機械類の整備が業務に含まれます。後、60階付近は最も炉心に近いから細心の注意を払ってください」
「「了解」」
実際、計器や機械類は俺の管轄なので大変なのは俺だけなのだが、形式上の注意喚起を行う。
業務前のこの空気感が嫌いで何とか気を逸らそうとしているだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇
僅かな慣性と共に車両が止まり、ドアが開く。ここまで来ると人通りもだんだんと増えてくる。俺たちと同じこのプラントを清掃する受刑者達だ。ニュースになっていないだけで終身刑という判決を受けている人は多いようだ。
見知った顔もいれば全く見たことのない奴もいる。
それぞれ必要なものを受け取って持ち場に向かう。
この時はまさかあんなことになるとは思ってもみなかった。
この後すぐに異世界転移までのエピソードを公開します。
少々お待ちください