表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄球王女  作者: シエテラ
24/33

4章 くろがねのきょじん 007



 討伐作戦の流れとしては。

 王宮外苑から隊列を組んだまま北上し、王国と公国の間に存在する平原へと向かう。

 そこで公国側の軍隊との合流を図り、真っ直ぐに黒鉄(くろがね)の巨人がいる黒い光の地域へと進軍していく予定になっている。

 分断されたここら地域の端っこで決着を付けられたならば、被害を最小限に抑えられるだろう。


 だがもちろん、色々な状況が予想されるので、考えうる限りの軍の編成と展開は、頭の良い人達が考えてくれているらしい。

 私は言われた通り、王女専用の小隊へと組み込まれる。


 この作戦の肝は、シオンによる、あの灼刀(しゃくとう)と呼ばれた赤く光る剣での一騎掛けだ。

 それ以外の人々は、シオンを補佐したり、黒騎士らの出現に備えたり、黒鉄の巨人をあわよくば罠(詳細は聞かされていない)にハメたりして、援護的な要素が求められる。

 急拵えの連携ではあるが、公国側は早くから、シオンを中心としたこの展開も予想していて備えていたらしい。公国主導のおかげで、王国側の準備はスムーズに運んでいた。


 シオンひとりでは失敗する気がするなんて、よくも考えずに言い切ったもんだ、私は……

 なんでそんな事を思ったのか、少し恥ずかしい気分にはなっている。

 私が配属された部隊も後ろの方だし、そんなに期待されてない感じは、ビシバシ感じた。

 ーーしょうがないよね。王女だし。戦うの素人だし。でも、黒騎士や黒魔獣が出てきたら、前に行こう……倒せないことはないだろうし。それで、一人でも衛兵や兵士の人達が無事なら、そっちのがいい。


 遠くから、『ボェェェェェッ』と管楽器のホルンの音が聞こえた。

 音のする方を見ると、赤い狼煙(のろし)が上がっている。公国側の合図なのだろう。

 各部隊長たちは、一斉に前進の号令を出して。いよいよ、討伐作戦の開始である。


 私はというと、馬が引く荷車に乗っていた。

 これもかなり苦肉の策なんだけど。私は鉄球を()()()()()

 が、鉄球を持った私は非常に()()ので(悲しい事だよ……)、騎馬には跨がれないのだ。馬が潰れてしまう。


 歩くからいいと言ったが、そしたらキャロラインに「それはいいですね。シルヴィニア様が着く頃には、きっと戦いも終わって、なんの危険もなく済みますし」、と真顔で言ってきたので。

 技術部の人に泣きついて、どうにかして貰ったのだった。装備といい、ほんとありがとうございます。


 まぁ、輸送用の荷馬車の(ほろ)を外しただけなんだけどね。

 だもんで、今私は二頭の馬が引っ張る裸の荷車に、あの鉄球を携えて立っている。そしてその周りを、王女専用の騎馬部隊が取り囲むようにして布陣を敷く。

 その中にはもちろん、キャロラインとゴメスの顔ぶれも混じっている。

 中隊規模のその中央に、私たちの部隊が組み込まれるようにして、一軍は前進を始めた。


 周りには騎乗している部隊しかいない。歩兵部隊は、すでに先行し街の大通りへと出ているだろう。

 今はもう日は昇っていて、気温の上昇を肌で感じた。今日は晴れだろうから、昼に向けてジリジリと、夏らしい気温へとにじり寄っていくはずだ。


 外苑を抜け、私たちの部隊は市街地へと入っていく。


 すると、街の大通りにはたくさんの住民が列になって、私たちを見送るような格好で、一斉に声をあげているのだった。

 みんなの希望を乗っけて、私たちは行く。決して失敗できない作戦へと……


 気になる事が一つあるとすれば、国民のみんなで一斉に『鉄球王女っ、鉄球王女っ』、と大合唱をしていた事だ。

 きっと集めるのにかなりの労力を割いたであろう生花の花吹雪は、とても綺麗で、それが街の大通りを埋め尽くす光景は、めちゃくちゃすごかったんだけど。

 その花吹雪を見事に邪魔するような鉄球王女コールは、マジでやめて欲しかったな。

 気持ちは伝わるからいいんだけどさ。


 街を抜ければ、騎乗している部隊は徐々にスピードをあげて、集合予定の平原へはそんなに時間を要しない。

 歩兵部隊は追い抜かれるが、平原に集合する訳ではなく。一足先に巨人の方向へと進んでいくのだ。

 斥候を兼ねた行軍調整というやつらしい。

 

「シルヴィニア様、我々は出来うる限り、考えられる最高の方法を、これまで準備してきましたが。やはりそれは、予測にすぎません。どうか、あなたも気を緩めることのなきようお願い致します」

「はい、先生……肝に銘じます」


 キャロラインは、二人乗りの馬の後部から。私がいる荷車へと近づいて、注意点を話す。

 部隊は、今のところ調子良さそうに過程を踏んでいる様に思われるが。とはいえ、油断はするなよ、というキャロラインの心配性な性格は汲み取れる。

 横目には、黒騎士に襲われ、シオンに助けられた森が見えた。遠巻きに見ると、意外と小さい森のようだ。もう少しで、公国側との集合場所に着く。

 

 やはり遠くには、そびえ立つ黒鉄の巨人が、どうしても視界に入ってしまい。その度に、未だ慣れない緊張感には襲われる。

 私は手に持つ鉄球の柄を強く握りしめ、ピクニックなどではないと。再度、自身の心に刻みつけた。

 荷車の床は鉄の合板になっていて、私のブーツと合わさってカチカチと鳴る。


 そういえば……この作戦における指揮系統って、どうなってるんだろう。

 国の序列でいえば王国なので、必然的に王女の私という事になるんだろうけど。私自身には、誰も何も言ってきてはない。公国の軍事力が、この作戦の割合の相当を占めるはずだから、やっぱり公国が主導してるんだよね、きっと。


 まさか、うすうす気付いてはいたんだけど。

 王女は戦いに参加しただけで、もうその役目を終えていて。あとは怪我をしないように、後ろ後ろへと追いやる感じなのではないだろうか。

 周りを並走している衛兵達を、順繰りに見ていく。

 

 うぅ、見ても分かんないよ。みんな兜かぶっているし。

 顔が見えるのは、一人馬に乗るゴメス爺やくらいだろうか(というか、いつもの執事服だけど大丈夫なのかな)。しかし、爺やのその表情からは、特段変わった様な気配は感じない。

 変な事といえば、緊張感がないくらい……かなぁ。まぁ、考えても仕方がないので、私は考えるのをやめる。


 空を見上げれば、天気の良さはピカイチ。

「あふぁ〜……」

 私は思わず欠伸(あくび)を漏らす。起きるのが早かったから、流石に眠い。


「はしたないっ!」

 キャロラインはすぐさま、自身の甲冑の手袋を脱いで。それを私の頭へと命中させる。

「あでっ」

 まさか、遠隔でチョップが飛んでくるとは。そして、騎乗中、走行中であるのにもかかわらずその命中率ね……さすがです。


 周りの衛兵たちは、見て分かるくらいに肩を揺らして笑っている。絶対に笑っている。馬に揺られるがゆえの震えじゃない、アレは。


「いけない、いけない……よしっ」

 私は、頬を少し叩いて眠気を逃す。

 遠くの平原には、公国の旗を掲げた多くの人々が見えてきた。

 遠目でも分かるくらいには、軍隊のそれである。


 また、『ボエェェェッ』とホルンの音が響き、私たちは公国と合流。

 ここで、一時の休憩となった。

 お馬さんへの食事補給や。衛兵、兵士の休憩も含まれる。

  

「ねぇねぇ先生。やっぱり、大勢で動くって、すごく大変なんですね」

 荷車を一本の木の側に寄せて、その木に寄りかかって、私は木陰を利用し休憩していた。

 隣には、兜を脱いで同じく休憩するキャロラインが、タオルで首元を拭っている。

 全身鎧だし、そりゃ暑いよね。


「そうですね。しかし、やはり公国軍の練度は非常に高いと思います。我ら王国も見習う所ばかりで、この戦を終えたら、少しそこらへんも考えないといけないですね」

 キャロラインは、いつも王国の為になる事を探している。

 私は頭が下がる思いで、えへへとはにかむ。


 周りは、馬を休める人々や、自分自身も休む人々。この後の準備に余念がない人々と。それぞれで、この一時の休憩を過ごしている。

 あとは所々に、簡易的な天幕が貼られていて。その中では指揮官クラスの人々が、この先の予定の確認や、ここまでに起こったイレギュラーなりをまとめて、対策などを立てて忙しそうに動いていた。

 と、そんな最中。


 三頭の馬が、こちらにやってくる。

 遠目でも分かるが、先頭を走るのはシオンだ。

 パブロリーニョ公国、第一公子の。ファルシオン・ヴァン・パブロリーニョである(ようやく、フルネームを覚えた)。


「おぉ〜い、シオン〜」

 私は手を振って、シオンを呼ぶ。

 

 パカラッ、パカラッ、パカラッ。

 三頭の馬は私とキャロラインの前で止まる。


 どうしたんだろシオン。何か用事かな……?

 木に寄りかかるのをやめて、私も数歩、そちらへと歩み寄った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ