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はじまり
外は雨だった。
私は、ため息をついて冷たい服に着替える。
この生活は地獄だ。ゆるい地獄。
結婚してからというもの、カラカラと笑っていた私の顔は、石像のような固さで温度を失っている。
早く誰かが私をお仕舞いにして、魂をどこか遠くの神聖な場所へ連れて行ってくれないか。
自分の始末さえ煩わしい。
そんな結露したアルミの窓から、ヒタ、ペタリ
ヒタ、ペタリと何かが足を忍ばせてきた
ような気がした
気がつくと、私は濡れて黒ずんだシソの葉のような、鶏のように水かきのある足を胸の谷間に見た。
ちょうどニワトリくらいある「それ」は、白い羽に包まれていた。
私は、自分の胸の上に立つ、得体の知れない生き物の重さを、どくどく脈打つ心臓で上げ下げしていた。
何かが、私の目の前に、いる。