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9.ワタシアルミー!セイギノアンサツシャナノ!(壊)

 残念ながら、アルミーに質問して分かった事は殆どない。

 暗殺ギルドは完全に消滅しており、アルミーしか残されていなかった。そもそも、アルミーも訓練中の身だったようで、仕事をやっていなかったようである。


 んで、肝心のアルミーに教えた人物だが、


「フード被ってたから分かんない」


 そんな得体の知れない人物の言葉を信じたのかとツッコミたくなった。だが、サンがアルミーの額に触れると何かに気付いた。


「むっ、これは……どうやら思考誘導の魔法が掛けられているようです」


 それほど強い魔法ではないようだが、アルミーは操られていたようだ。

 サンが手を振ると、パリンと何かが割れた音がした。どうやら魔法を解除したようである。


「人を操るような魔法は、強力であればあるほど、掛けられた人物に負担が掛かり複雑な命令が出来なくなります。アルミーさんに使われたものは、弱い部類でしたが、効果が強ければ廃人になってもおかしくありませんでした」


 それだけ恐ろしい魔法なのだと言う。


 恐らくアルミーに魔法を掛けたのは、フードを被った人物。男なのか女なのかも分からない得体の知れない人物。

 まるで物語の黒幕のような存在に、俺のテンションが爆上がりした。


「節操なさ過ぎです」


「だって明確な敵じゃん! 宿敵だぜ宿敵! これから修行して強くなんないとなぁ、困ったなぁ、どんだけ強くなるんだろ俺っ!」


「伸びしろしかないのは認めますが、決して強くはないので驕らないで下さいね」


 結局分かったのは、得体の知れない人物の存在と、アルミーは被害者だということだけ。

 サンは他に魔法が掛けられていないか調べていき、胃腸が荒れている以外は特に問題はないようだった。


「胃腸は治してやんないの?」


「食生活の問題なので、ここで治療しても同じ状態になるでしょう。治すだけ無駄です」


「あ、あの、トイレ、貸して」


 何かを思い出したように、もじもじと頬を染めながら言うアルミー。

 俺はやれやれ仕方ないなぁと、簀巻きにしたロープを解いてやる。ここで漏らされても困るからな。だってアルミーを包んでる布団、俺のだから。


 解放されて立ち上がったアルミーは、そそくさとトイレに駆け込み、用が終わると再び布団の上に寝転んだ。


「……何やってんだお前?」


「このお布団気持ちよかったから。さあ、もう一度包むんだ!」


「アホの娘がいますね。どうします? 聞きたい事も聞けたので、追い出しても問題ないのですが」


「ちょい待ち。魔法が解けたからって、ミルローズさんが復讐の対象なのは変わらないんだろ? 恨みはないのか?」


 そう尋ねると、アルミーをん〜と腕を組み渋い顔をする。

 さっきまで殺気を放ってたのに、今はその面影がない。思考誘導の魔法を解いたからだろうか、それだと仲間の恨みを忘れる理由がない。可能性があるとしたら、サンが新たに魔法を……。


「やっていませんからね。どちらかと言うと、暗殺ギルドでも裏切れないように掛けていたというのが濃厚ですよ」


「二重に掛けられていたと?」


「あくまで可能性の話です」


 改めてアルミーを見ると、未だに悩んでいる様子だ。きっと自分の中で気持ちの整理が付いていないのだろう。悩むのは仕方ない。やがてスヤスヤと寝息を立て出したのも仕方な……。


「おい!寝てんじゃねー!」


「あたっ!? 仕方ないじゃん、寝ないでここまで来たんだから!」


「んなもん知るか! それでどうなんだよ? まだサンを狙うつもりか?」


「その前に質問。サンってミルローズのことだよね? 何で偽名使ってるの?」


「それは……」


 痛いところを突かれた。というより、アルミーの前だというのに、気にせず喋ってしまった。

 サンは元々始末するつもりだったので気にせず喋ったようだが、アルミーに思考誘導の魔法が使われていたと知って行動を改めている。

 どう説明しようかと悩んでいると、サンが答えた。


「貴女のような人に狙われない為です」


「うっ、狙われるようなことしたのが悪いじゃん」


「それとは関係なく、森で一度襲われていますので、念のためです」


「ふーん、まあいいや。私はもう狙わないから安心して。なんだが頭がスッキリして良い気分。これって魔法が解けたから?」


「ええ、思考誘導の魔法は過度なストレスを感じるので、そのストレスから解放された影響でしょう」


「そっか……うん、ありがと」


「いえ、問題ないなら良かったです」


 悲しそうに、それでいて嬉しそうに微笑むアルミー。彼女が暗殺ギルドでどのような扱いを受けて来たのか、俺には想像も付かない。きっと辛い目に遭って来たのだろう。そこから解放されたのだ。これからの人生は、幸せに生きて欲しいと思う。

 そんな俺の気持ちを知ってか、アルミーは身の上話を始めた。


「私ね、小さい頃は良い所のお嬢さんだったんだ……」


 その話はとても辛い? ものだった。


 幼少期のアルミーは、王都の裕福な家庭で育った。多くの使用人を抱えており、何不自由なく過ごしていた。

 毎日美味しい物を食べて、習い事をして、昼寝して、サボって、遊びに出掛ける日々だったそうな。


 そんなある日、不幸な目に遭う。

 ある一冊の本と出会ってしまったのだ。

 その本のタイトルは《世直し暗殺者》

 何とも物騒なタイトルだが、興味が惹かれたアルミーはさっそく手に取り、立ち読みを開始してしまった。


 そしてハマってしまう。

 全6巻ある《世直し暗殺者》を購入して自分の部屋で毎日、毎日、何度も何度も繰り返し読む。

 悪徳商人を断罪する暗殺者、悪徳な貴族を始末する暗殺者、国を転覆させようとする者を倒す暗殺者、果ては世界を救う暗殺者。どの話も魅力的で、アルミーの心をガッチリと掴んでしまった。


 そして、何度も読んだせいで、幼いアルミーの中で一つの決意が生まれる。


 将来、暗殺者になろう!


 そこから、どうやったら暗殺者になれるかを考えた。本を教材に訓練を始めたが、それでは限界がある。

 じゃあ、どうしようとなり、


 そうだ! 分からなかったらプロに聞こう!


 と閃いた。


 思いついたら即実行のアルミーは、暗殺されそうな人を探した。すると、自分の親がヒットした。だが、待てど暮らせど暗殺者が現れることはなかった。


 何で来ないの!?そう激昂するアルミーはより一層訓練に励む。

 髪留めを抜いて刺す。そして即座に髪に直す。

 人体の急所を学び、秘孔を学び、やがて祖父のマッサージから針まで出来るまでに成長していた。


「アルミーは将来、マッサージ師かのう」


 祖父からのそんな戯言は無視して、毎日厳しい訓練の日々を過ごす。

 そして10歳になった次の日、遂に来た。

 暗殺者が来たのだ。

 それは全身黒ずくめで、正に暗殺者に相応しい出で立ちをしていた。

 体のラインからして女性だ。その動きはしなやかで、音も立てずに屋敷に侵入していた。お隣に。


 おかしい、お隣は善良な人だったはずだ。

 家みたいに、困った人から金を巻き上げて働かせるような事はしてないはずだ。

 きっと間違えたんだ。

 そう思ったアルミーは暗殺者を追い掛ける。そこ違いますよ、こっちですよと教えて上げようと走った。

 その動きは黒ずくめの暗殺者と遜色なく、ひょいひょいと隣の屋敷に侵入してしまった。


 急いで向かい屋敷に侵入すると、そこには、護衛に追い詰められている暗殺者の姿があった。

 このままでは、護衛の凶刃により正義の暗殺者がやられてしまう。


 それはダメだと煙玉を取り出して、護衛に投げ付ける。煙が充満し、視界が効かなくなった隙に、暗殺者の女性の手を引っ張り安全な場所まで誘導した。

 最初、女性は訝しんでいたが、経緯を説明すると納得してくれた。そして、


「私を弟子にして下さい!」


 これがアルミーと師匠との出会いだった。



「それから4年間訓練したんだけど、仕事を一回もさせてもらえなかった。そのうち、暗殺者って正義じゃないんじゃないかって思ってたら、いつの間にか暗殺ギルドに忠誠誓ってた」


「いろいろぶっ飛んでいますが、気付いたあたりで思考誘導魔法を掛けられてますね」


「将来の夢辺りで話聞くの止めてたわ」


 聞かなきゃよかったアルミーのどうでもいい回想話。

 ここまで同意も同情もまったく出来ない話も珍しい。途中から脳が話を聞くのを拒否していた。


「とにかく、もう暗殺者は終わり。これからは真っ当に生きて行きます!」


「そうか、それは良かった」


 俺はそう同意して、アルミーが暗殺者の道から抜け出せた事を喜ぶ。フリをする。

 これでアルミーとは終わり、こんな面倒な子と関わる事はないだろう。

 あとはアルミーが、黙って部屋から出て行くだけだ。それで終わりなのに、アルミーは余計なことを口走った。


「そう言えば、体を捨てるって何のこプギャ!?」


 一瞬でアルミーの背後に移動したサンが、手刀でその意識を刈り取った。


「サ、サンさん、一体なにを?」


 いきなりの暴挙に怯える俺。

 アルミーが襲い掛かってきた時も驚いたが、アホな空気からピリついた空気への変化に、付いていけないでいた。


「さあ、バラしますか」


「な、なにを?」


「決まってるじゃないですか、これです」


 そう言ってアルミーを片手で持ち上げて見せた。

 そうか、バラすのか、バラすってなんだ? 秘密をバラすのか? いやいや、秘密を知るほど仲良くないじゃないか。じゃあ何を?


「ですから体で「ちがーう!いきなり何やってんの!?もう終わりだったじゃん!俺付いて行けてないよ⁉︎」


 俺の思いが届いたのか、サンはぽんと手を打った。


「アルミーさんは私達の会話を聞いていました。その中に、私が体の乗っ取りが可能だという情報が混ざっていたのですが、実は、宗教的にも国の法律でもアウトな内容なんです」


「それを知ったアルミーを消そうと?」


「That’s right」


「マイガッ!? 他に方法はないのか?流石に人としてダメな気がする」


「安心して下さい。ご主人様は最初からダメです」


「やかましい! それで何かないのか?」


「方法はありますが……失敗すれば死ぬよりも辛い状態になります」


「それは一体……」


「記憶を消すというものです」


「ん? それって危険なのか? 安全な方法のような気がするけど」


「魔法で脳を弄る訳ですから、失敗すれば廃人になります。漫画やアニメのような、特定の記憶を消すなんて便利な能力ではありません」


「……それでも試そう。命を軽く扱うなんて俺には出来ない! 俺はこの子が幸せになって欲しいんだ! その為になら俺はなんだってする!」


「…………」


「なんだよ」


 俺の熱弁を聞いたサンがジト目で見て来た。まさか俺の熱い思いが伝わらなかったのだろうか。


「いえ、言いたかった台詞が言えて満足そうだなと思いまして」


「ああ、大満足だ!」


 俺の中の厨二心が歓喜の声を上げている。やっと、やっとそれっぽい台詞が言えたと。

 とは言え。


「それでもやろう。このままサヨナラじゃ、幾ら何でも目覚めが悪い」


「……どうなっても知りませんよ」


 サンは渋々といった様子でアルミーをベッドに寝かせると、フウーと息を吐き出して魔法を行使する。

 右手を掲げるサン。その手から光が溢れ出し、凄まじい力を感じる。

 部屋がガタガタと揺れ、棚の上に置いていた荷物が床に落ちる。記憶の改変とは、余波だけで周囲に影響を及ぼすほどの力が必要なのかと戦々恐々とする。


 そしてこの力を流し込まれたら、そりゃ廃人にもなるわなとも思った。


「安心して下さい。リスクを下げる為に回復魔法も併用しているので、これ程の影響が出ているだけです。では行きます」


 サンは右手をアルミーの額に当て、力を流し込んでいく。

 光が一際強く輝き、そしてアルミーに流れ込むようにして消失した。


 ふうっと一仕事終えたサンがため息を吐く。その表情はどこか嬉しそうにはにかんでいる。どうやら成功したようだ。


「ご主人様」


「なんだよ?」


「失敗しました」


「ワタシアルミー!? セイギノアンサツシャナノ!?」


 アルミーの目がギョロリと開き、甲高い声で自己紹介をした。


 それから30回記憶改変の魔法を使い、ようやく成功した。

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