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8.その暗殺者、アルミーと申す

 鉛色に鈍く煌めくその刃は、寸分違わずサンの心臓に向けて振り下ろされた。


 しかし、そんなものを食らう我らがチートではない。

 鋭い刃を左手の甲で逸らすと、短刀を持った手を掴み、巻き込むようにして褐色の少女を引き倒した。


「ふっ」


 そして拳を握り暴力的な魔力を込めると、その顔面を粉砕せんと振り下ろって!?


「ちょっと待てー!! 何殺そうとしたんだよお前は!?」


 明らかに致死の一撃を放とうとしたサンを羽交締めにして静止させる。


「離して下さい、やられる前にやる。これが鉄則です」


「待てって! 事情も分からないのに、殺してどうするんだ! 争いは何も産まない! 話し合って、和解の道を探そうぜ!」


「……本音は?」


「この子が可愛いから見逃したい」


「分かってはいましたが、改めて本人の口から聞くと、十割り増しでマヌケに見えますね」


 お前、俺の一部なんだから、それブーメランだからな。そう言おうとするが、そんな台詞は吐かせんとばかりに、褐色の少女から火が上がる。


「たぁー!!」


 火から逃げるように、サンは少女から手を離して下がる。

 そのすきに少女は跳ねるように起き上がると、炎を纏短刀に宿して、再びサンに襲い掛かった。


「危ないですね」


「きゃん!?」


 そして頭にチョップを受けて、炎は霧散して意識を失った。


 倒れた褐色の少女は目を回して倒れており、完全に意識は断たれているようだ。

 赤いショートヘアーに、白を基調とした民族衣装のような出立ち。容姿に幼さが残っているが、先ほど述べたように可愛らしい。胸の方は、これからに期待と言ったところだろうか。つまりこれは……


「ハーレム要員げっと〜」


「アホですか貴方は」


「真面目だ」


「なお悪いです」


 サンは何処からかロープを取り出すと、倒れた少女を縛り上げに掛かる。


「縛り方のリクエストしていい?」


「先にご主人様を縛るべきですかね?」


 かなりきつい目を向けられてしまう。

 そろそろ冗談は止めた方が良いかも知れない。マジで怒られそうだ。


「本気だったのでは?」


 そんな事はない、だからそんな目で見んなよ。


「それよりも、この子とは知り合いなのか? 魔女とか言ってだけど」


「いえ、初めて見る顔です。ミルローズ嬢の記憶にもありません。恐らく、人違いだと思われます」


「じゃあ、本人に聞くしかないのか……」


「エッチな拷問なんて考えてないで、扉を閉めておいて下さい。外から見られてしまいますよ」


 うおっほんと咳払いすると、そそくさと扉を閉めに向かう。すると、サンの言う通り、今のドタバタで他の客が顔を出しており、様子を伺っていた。

 うるさくしてどうもすいやせんと会釈をして、扉を閉める。


「さてと」


 ぐっと背伸びして、体をほぐす。


 俺も童貞卒業かー。


「寝言言ってないで、早く来て下さい。そろそろ目を覚ましますよ」


 なに⁉︎ と急いで向かうと、簀巻きにされた褐色の少女がいた。


「どうして簀巻き?」


「古来より、罪人は簀巻きにして死刑に処して来ました。市中引き回し然り、水中投げ込み然り、歴とした処刑方なのです!」


「殺さねーつってんだろ! なに処刑前提にしたんだよ!?」


「んっ、んん〜」


「おい、目を覚ましたぞ!」


「す、スライム焼き、おかわり」


「可愛らしい寝言ですね」


「安心しろ、俺もここで寝言かい!? なんて下手なツッコミはしないからさ」


「ブルチャバドバブ二人前で」


「何それ!食べ物なの!?」


「しっかりとツッコミましたね」


「……くっ、何だこの敗北感は!?」


 アホな会話を繰り返していると、少女はとうとうと言うか、やっと目を覚ました。


「……はっ!?オーク肉餡かけ包み焼きは私の物だっ!!?」


「今のは普通に美味そうな名前だったな」


「そうですか。では目覚めたようなので、尋問を始めましょう」


 俺の感想は適当に流されて、サンは簀巻きにされた褐色の少女の隣に座った。


「……はっ⁉︎ おのれ魔女め! 私からオーク肉餡かけ包み焼きを奪ったな!!」


「何の話ですか? まだ夢から覚めていませんか? 痛みで覚醒させて上げましょうか?」


 サンは少女が持っていた短刀を持ち、その顔に近付けると、ようやく事態を理解したのか起きあがろうと必死に足掻く。


「解放しろ! こんな事してただで済むと思ってるのか!?」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。 先ずは自己紹介をしましょう。私はサン、こちらのバカっぽい男性は直志と言います」


「普通に紹介出来んのか?」


「バカっぽいは否定しないんですね」


 多少自覚しているからな。


「それで、君の名前は?」


 俺が尋ねると、少女はプイッと上を向いて視線を逸らす。

 答える気はない、そうですか。

 これは、つまり……。


「早く答えた方が良いですよ。この男、貴女の体狙ってますから」


「ひぃ!?」


 わきわきと手を動かして接近する俺を見て悲鳴を上げる少女。

 俺はこのまま答えなくても構わない。寧ろそっちの方がいい。


「くっ、私は屈しない! 魔女の手先に何をやられても、私は屈しないぞ!?」


 ……流石だ。その期待に応えなくては男が廃るってもんだ。


「いいんですか?この男を喜ばせるだけですよ。名前を教えてくれたら、貴女の純潔は守られますよ」


「じゅっ、純潔⁉︎ 近付くな! この変態!!」


「その反応は逆効果です。更に興奮しています」


 大丈夫、優しくするから。お互い初めて同士、仲良くやろうぜ。


「ひーっ!! アルミー! 私の名前はアルミーですっ!!」


 バカめ、今更答えた所で立ち止まる俺ではないわ!


「止めなさいバカ、話が進まないでしょう」


 サンは俺の頭を絶妙な角度で叩くと、一気に正気に戻してしまう。

 凄い、俺の興奮がたった一発で発散してしまった。


「そんな感想はいりません。ではアルミーさん、どうして私を襲ったのでしょう? 私は貴女と面識は無いはずですが」


「ふん! 魔女め、それが貴様の本性か! 大人しいフリして、人を騙しやがって! 地獄に落ちろ!」


「何だよサン、そんな悪いことしてたのか?」


「自分の胸に手を当ててみて下さい、きっと心当たりがありますよ。先程も言いましたが、貴女とは面識は無いはずです。私が貴女に何かした記憶はないのですが、一体どこで何をしたのでしょう?」


「まさか忘れたのか!? おのれミルローズ! みんなの仇! 返せ! みんなを返せ!!」


 サンを睨み付けて激昂するアルミー。

 一体全体どうなっているんだ。サンではなく、ミルローズさんの名前を呼んだ所をみると、前の国関連の事なのだろうが、もしかして婚約破棄した王子からの追っ手だろうか。いや、それだと、ここまで怒りを露わにする必要はない。


 このアルミーの怒りは本物だ。アルミーはみんなと言っている。じゃあアルミーの身内の事だろう。アルミーアルミー言ってたらアルミ缶にしか聞こえなくなって来たな。コーラ飲みたいな。


「直志は思考するべきではないかも知れませんね」


「やかましい。それで、何か心当たりあるか? みんなって言ってんなら、大勢を不幸にしたんだろうし」


「心当たりは……多過ぎてどれか分かりません」


「おーい! マジかよ! どうしてそれでショック死してんだよ!?」


 モンスターを間近で見てショック死するような人が、沢山の人達を不幸にしたなんて想定外過ぎる。どんな神経してたら、そんなチグハグな人間になるんだよ。


「それはさておき、アルミーさん、もう少し具体的に教えて頂けると助かるのですが」


「ふざけるな! みんなを! 頭領を殺しといて、よくもぬけぬけと! 今すぐ殺してやる! この縄を解け!」


 身を捩り、必死に抜け出そうとするアルミー。だが、簀巻きにされた状態から、どう足掻いても脱出するのは不可能だった。

 だからジッと睨む、せめて視線だけでもと殺意を乗せてサンを睨む。


 だが、当のサンはどこ吹く風といった様子で、何かを思い出したように手をぽんと叩いた。


「ああ、貴女は暗殺ギルドの生き残りですね?」


 その言葉をアルミーは否定しなかった。ただ、無言で睨み続けている。


「暗殺ギルドって確か、あの?」


「そうです。聖女を暗殺する為に雇った、あの暗殺ギルドです。彼らはトップを頭領と呼びますので、思い出すことが出来ました」


 暗殺ギルド。以前、ミルローズが恋敵であるリリーナと支援者である教王を標的に依頼していたのだ。

 リリーナの暗殺には失敗したが、第二目標である教王はきっちりと始末しており、少なくとも半分の仕事は成功していた。

 そして、その見返りが騎士団の突入という、証拠隠滅の殲滅作戦だった。

 ミルローズは人を介して依頼しており、その介した者も処分していたので、そこまでやる必要はなかった。だが、暗殺ギルドが元々排除対象であったのもあり、念には念をの精神で徹底的にやったのだ。


「そうだ! みんなみんな居なくなった!お前のせいだ!」


 怒りに満ちたその声はサンに向かって放たれ、部屋中に響き突き抜けた。


 扉がノックされる。

 はいはいと出ると、他の客室の方々から五月蝿いと苦情を頂いた。あはは、すんませんと謝って部屋に戻る。


「声量落としてくれ、このままじゃ宿から追い出される」


「凄く空気読めてなくて素敵です」


「褒めるなって、照れるだろ」


「褒めてないんで安心して下さい。ですが、近所迷惑なのは確かですね。防音魔法を張っておきましょう」


 そう言って指をパチンと鳴らすと、部屋に透明な何かが走り、壁に張り付いた。


「さあ、これで大声を出しても安心ですよ」


「ふざけるな!」


「ふざけていませんよ? それよりも、一つお尋ねしないといけない事があります」


 サンは静かに、だが体から暴力的な雰囲気を漂わせて、しゃがみアルミーの顔を覗き込む。


「ひぅ!?」


 先程までの勢いは何処へやら。アルミーはサンの気迫に押されて、小さく悲鳴を上げる。

 分かる。気持ちは痛いほど分かる。

 先程までの無機質じみたものから、人を殺さんばかりの迫力は、側から見ている俺でも息を飲んでしまう。


「誰からミルローズが騎士団に報告したと聞きました?」


 真っ直ぐにアルミーの目を見て尋ねる。

 だが、俺はその質問に対して疑問を持った。暗殺ギルドに依頼を出したのがミルローズさんなら、自然とそう辿り着くのではないかと。


「それは違います。ミルローズは表に出た事はありません。断罪されたのも、証拠の捏造によるものです。一人で行っているので、決して名前が出て来る筈がないんです。第二王子も、捏造であるのがバレたら困るので、暗殺ギルドを使ったとは一切口外していません。ならば、誰がアルミーさんに告げたのか、これが問題になります」


「こじ付けで、アルミーを動かしたとかはないのか?」


「それは無いでしょう。暗殺ギルドは完全に無くなっています。わざわざ生き残りのアルミーさんを探して依頼する理由がありません。 森で襲われているので、命を狙われるのはおかしな事ではないのですが、国外まで手を伸ばして始末しようとするのは予想外でした。最悪、この体を捨てなくてはいけませ……いえ、それだけでは済まないかも知れませんね」


 サンは立ち上がり、俺を見て言う。


「ミルローズと一緒に居るところを見られた以上、この肉体が死ぬと、ご主人様が疑われてしまいますね」


 面倒な事になったと、困ったように笑うサン。

 だから俺は提案する。


「逃げれば良いんじゃね?」


 俺の心を読んでいるはずのサンが、少しだけ驚いた顔をする。そして頷いて、また困った表情で言う。


「そうですけど、逃げればテンプレ展開が逃げちゃうかも知れませんよ」


「それは困る。逃げるのは無しで行こう」


「前言撤回早過ぎません? まあ、どう動くかはアルミーさんに聞いてからで良いでしょう」


「わきゃ!?」


 俺とサンからジロリと視線を向けられて、驚くというより怯えるアルミー。

 いよいよ喋ってもらわないと困るので、最悪その頭を弄る所存である。


「脳を弄るのは魔法でいけそうですのでお任せを」


「改造人間って胸熱だよな」


「待って!? 待ってよ!? 喋る! 喋るから! それ以上近付くなー!!」


 何をされるのかを理解したのか、必死で叫ぶアルミー。


 ふふっ、冗談なのにこんなに怯えて可愛いな。


「本気でしたよね? では、きびきびと吐いてもらいましょう」


 先程までの勢いは何処へやら、完全に怯えたアルミーに質問を始めるのだった。

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