4.ハーレム要員は己だ!
『死因は精神的負荷によるショック死です』
「……は?」
『ですから、ショック死です』
「待て待て待てーい!! 太陽さん、貴方なに言ってんすか? 死んでる訳ないでしょ、さっきまであんなに叫んでたのに!」
『事実です。最後に叫んだ際に限界を迎えたようです』
太陽の言葉に頬が引き攣る。
俺はそっと近付いて、口元に手をやると呼吸している様子は無い。いやいやと頭を振り、少女の手首に手を当て脈を確認すると、何も反応は無い。
そんなまさかと冷や汗を流し、メインの胸に耳を押し当てると、何の鼓動も聞こえなかった。
「ガッテム!」
マジかよ!死んでんじゃん!俺のハーレム一号予定さんが!これじゃあ、モンスター倒した意味ないじゃん!
『倒したのは私ですけどね』
「うるさい! お前が早く倒していれば、この娘は助かったんじゃないのか!?」
『そう言われましても、ご主人様がもっと早くにお願いをして頂けたら、助けられたんです。私には、その娘を助ける権利は有りませんから』
「どう言う意味だ?」
『私の力は強過ぎるんです。その為、ご主人様から誠心誠意な態度でお願いされないと、力が使えないようになっているんです』
「まさか、そんな設定があったのか……」
『まあ、嘘なんですけどね』
「嘘かい!?」
太陽の迫真の演技に騙される俺。
人が死んでるのに、とことんふざけた奴で嫌いになりそうだ。
『残念ながら、私を嫌いにはなれませんよ。ご主人様が自分を嫌いにならないように、一部である私を嫌う事は出来ません』
「一部一部ってなあ、俺の一部なら俺の言うこと聞きやがれ!」
『ご主人様、ご自分の胸に手を当てて、よーくお考え下さい。ご主人様はこれまで、人の言う事を素直に聞いて来たことはありますか?』
「あるに決まってるだろう!」
『では、その時、どう思っていましたか? 俺に命令しやがって、歳上だからって調子乗んなよ、強いからってふざけんな、俺にだって力があれば、そう思ったのではないですか?』
「……だったら何だよ」
『その成れの果てが私です。ご主人様が力を持ったらこうなるという見本です』
俺はその回答に納得がいかなかった。
そんなに力を持っているのなら、俺は目に映る全ての女の子を救い、厳選したハーレムを作っているからだ。
『マジでどうしようもないですね』
「だまらっしゃい」
『私がそうしないのは、ご主人様が持っている欲望が無いからです。異性と遊んで性欲を満たしたいというものが無いのです。ですので、他人を見下す事でしか、私の楽しみはもう……』
「お前の方がよっぽどじゃねーか!」
その他人に、俺が入っているという事実が更に腹が立つ。
俺の一部だと言う奴が俺を見下す、一体なんて冗談だ。
『それもそうですね、ではこうしましょう』
太陽はそう言うと、二つあった太陽の内一つが消えた。
そして少女が起き上がった。
「うあーーーっ!?」
いきなり死体が動き出し、驚いて尻餅を付いてしまう。あと、ほんの少しだけちびった。
いや、まさか生きていたのかと思ってしまう。ここは異世界だ、死んでも生き返る世界なのかも知れない。はたまた、この世界の人は呼吸を必要とせず、体の作りも俺とは違うのかも知れない。
そうか、きっとそうだ。
幾らモンスターが凶悪でも、見ただけで死ぬなんてあり得ない。
だからここは、俺が助けたアピールして落としてしまおう。
「うおっほん! やあお嬢さん、危ない所だったね、モンスターはもう倒してしまったからもう安心さ」
「ご主人様、気持ち悪いんで止めて下さい」
「お前かい!?」
いや、分かってた。
流れからして、そうじゃないかと思ってた。太陽が消えて、少女が起き上がったのだ。つまり、そういう事だろう。
それに、少女から異性を感じられず、長年連れ添った親しみのような何かを感じてしまっている。
それでも、一縷の望みを賭けて夢を見たのだ。
可愛い女の子とのイチャラブ生活を。
「止めて下さい。マジでキモイです」
「うぅっ、女の子からの罵声なのに、全然嬉しくない」
多くの物語では、少女からの罵声はご褒美だと聞いていたのに、話が違うじゃないか。
「それよりも、あんたは、さっきまで偉そうにしていた太陽で間違いないんだよな?」
「太陽ではありませんが、先程までそう呼んでいた存在で相違ありません」
馬車の中だというのに、見事なカーテシーをして挨拶を披露する。
その姿を見て、素直に美しいと思った。
「名前、名前はなんて言うんだ? 太陽じゃないんだろ?」
「ええ、私はご主人様の一部であって、太陽なんて大それたものではありません。名前は特にありませんので、どうぞお好きにお呼び下さい」
「好きにってのが一番困るんだよ。そうだなぁ……サンってのはどうだ?」
「太陽だからサンですか?安直ですね」
「何だよ、嫌なのか?」
「いえ、分かりやすくてよろしいのではないですか。では、私めの事はサンとお呼び下さい」
「ああ、よろしくなサン」
「不束な者ですが、よろしくお願いします。 良かったですね、ハーレム要員一号が加わって」
「中身がお前じゃなかったらな」
自称俺の一部ことサンと握手を交わして、波乱の異世界生活が始まった。