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31.一件落着

 サン達は領都アルマニアに帰って来ると、その足でメアリを迎えに行った。


「お兄ちゃん!」


 メアリはライオネルを見ると、一直線に向かって飛び付いていた。

 サンは直志の目を通して、メアリが大人しくしているのは知っていたが、肉親がいなかったのはよほど寂しかったのだろう。盛大に抱き付いて甘えていた。


「ただいまメアリ、元気で良かった」


 ベッドから起き上がれないほど病弱だったメアリが、年相応の子供のように走り回っている。それが嬉しくて、感動してしまったのだ。

 だが、病気が完治しているわけではない。サンの魔法により、一時的に治っているだけである。とライオネル達は思っている。


「それでは、薬を調合してお持ちしますので、明日の昼に冒険者ギルドでお会いしましょう」


「はい、よろしくお願いします」


 そう言って別れようとしたのだが、去っていくサンとアルミーをライオネルが呼び止める。


「待ってください!」


「はい?」


 どうしたんだろうと振り返る二人。

 呼び止めたライオネルは、真剣な表情をしてサンとアルミーに向けて言った。


「俺達とパーティを組んでくれませんか?」


 急な勧誘にアルミーだけでなく、マイやルークも驚いている。それは何の相談も無しにされたのもあるが、サンとの実力が違い過ぎて、足手纏いにしかならないと自覚しているのもあったからだ。

 確かに、サンとアルミーが仲間になってくれたら心強い。これからの冒険者生活も充実したものになるだろう。だから反対する理由はないのだが、少しくらい相談してくれと思っていた。


 そして、その誘いに対するサンの返答は、


「申し訳ありませんが、私たちはすでにパーティを組んでいますので」


 やんわりとした断りの言葉だった。


「……そうですか、他に仲間が。……その仲間の方は男性なんですか?」


 どういう質問だと思いながら、そうですと答える。


「……その人は強いんですか?」


「ザコよ」


 何故かアルミーが代わりに答えた。それも即答で。あんた達でも、楽勝なくらい弱いわよとその瞳は物語っていた。


 予想外の返答に「えー…」となるライオネル一向。サンとアルミーの仲間なのだから、それなりに強いと思っていたが、どうやら違うようである。

 ならばと思い、ライオネルはもう一度誘う。


「なら、その人も一緒にというのは……」


「それは辞めた方がいいですね、いろいろと台無しになりそうですから」


 だが、その誘いも断られて、ではまた明日と言って去っていくサンとアルミーを見送った。


 次の日、冒険者ギルドで無事に薬を受け取り、メアリの病気は完治した。



⭐︎



「くそっ! 金蔓がひとつ消えやがった!」


 そう悪態を吐くのは錬金術師の男だ。

 魔力血栓症の少女を魔力過多症候群と偽り、一時的な効果しかない薬を処方していたケチな錬金術師でもある。


 今回も、薬を売り付けようとしていたのだが、


「メアリの病気は完治したようなので、もう大丈夫です。これまで、ありがとうございました」


 そう言って断られてしまった。

 金蔓であるライオネルの両親は事故で亡くなっているが、元貴族だったこともあり、かなりの蓄えを持っていた。そこに目を付け、優しい顔で近づき、全てを奪い取る予定だったのだが、それが出来なくなってしまった。


「ゴードンにどう言い訳するか考えないと……」


 この錬金術師が金を必要としているのは、錬金術師ギルドの会長の息子であるゴードンへの献金をしているからだ。

 次期錬金術師ギルド会長候補としてゴードンとトプリンクが争っている。今はトプリンクが優勢ではあるが、数々の悪事をでっち上げて評判を落とすのに成功していた。

 この調子でいけばゴードンが会長になり、その勝ち馬に乗った男も錬金術師ギルドの幹部になれるはずだった。


 他に似たような金蔓はいるが、ライオネルほど金払いの良いところではない。


「くそ! 誰が治療しやがったんだ! あと少しなのに、俺の計画が台無しじゃないか!」


「それは大変ですね」


「大変なんてもんじゃない! これまでの金がすべて無駄に……誰だ?」


 この部屋には錬金術師の男ひとりしか居なかったはずだ。それなのに話しかけられ、声の方を向くと金髪縦ロールの少女が立っていた。

 突然の現れた少女。普通なら驚きそうなものだが、少女の雰囲気と存在の希薄さに驚けなかったのである。


「どこから入って来た?」


「そこの扉からです」


 少女は向かい側にある扉を指さして、普通に入って来たと主張する。そして、それはあり得ない。その扉は鍵を掛けている上、誰かが近付けば、アラームが鳴るようにしているからだ。

 そこでようやく恐怖する。

 目の前の少女が異常だと気付いたのだ。


「な! 何の用だ⁉︎ 誰かからの差金だ!」


 バタバタと動き、錬金術に使用する工具が作業台の上から落ちる。


「落ち着いて下さい、貴方に尋ねたいことがあり参っただけなのです」


「それなら普通に来れば良いだろ! トプリンクか! 彼奴からの差金か⁉︎」


 男は怯えながらも扉に向かって移動する。そして、扉から出ようとするが微動だにしなかった。


「な、なんで!?」


「この部屋に結界を張りました。私の許可なく部屋から出ることも入ることも出来ません。ではお話しをしましょうか」


 その日、ひとりの錬金術師の男が消え、その男が見ていた患者の病が完治したという奇跡が起きた。

一旦終了となります。

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