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3.ヒロイン候補は金髪縦ロールでお願いします

 大きな鳥のモンスターを倒した俺は、いそいそと服を着て身支度を整える。


『倒したのは私ですけどね』


 太陽が何か言っているが、俺がお願いした結果なので、俺が倒したと言っても問題ないはずだ。それに、こいつは俺の一部だと言っているのだから、やっぱり俺が倒したで間違いない。


『素晴らしい開き直りですね。似合っていますよ、その服装も性格も』


「どういう意味だ。 それよりも、これからどうするんだよ? 服と靴以外、何も用意されていないぞ」


 これでは、ここがどこで、どこに行けば良いのかも分からない。


『さあ、好きにすれば良いのではないですか?』


「好きにって言われてもなぁ、道を進むにしても、どっちに行ったら人に会えるかも分からないしな」


『そうですね、向かって右に進めば、歩いて2日ほどで町に到着します。左に進むと、何かのイベントに遭遇します。さあ、どっちが良いですか?』


「なに、その選択肢? そんなの決まってんじゃん」


 俺は呆れたように太陽に言うと、左に向かって歩き出した。


 道はお世辞にも良いとは言えない。所々、凹凸があり、整備された道に慣れた俺には少しばかり歩き難い。

 周囲を見渡せば、草原が広がっており、長閑な風景が広がっている。遠くには山が見え、木々がポツポツと生えており、その本数は進むほどに多くなって行く。


 そして歩くこと一時間、こりゃ騙されたかと思っていたら、薄暗い森の中で盗賊に襲われている馬車を発見した。

 馬車の護衛と盗賊が戦っており、護衛の方が劣勢に追い込まれているようだった。


「おいおい、本当にイベント発生してんじゃん。しかもテンプレだ! こりゃやるしかないな!」


 盗賊に襲われている装飾過多な馬車、そんな使い古された展開を俺が見逃すはずがない。

 しかし、意気揚々現場に突っ込もうとする俺を太陽が止めた。


『待って下さい。行ったとしても、ご主人様では返り討ちに会うのが関の山です』


「なに言ってんだよ、俺にはチートがあるんだろ? モンスターに勝てなくても、盗賊くらいに負けはしないだろ?」


『普通の盗賊一人なら勝てるかもしれませんが、複数人の、しかも訓練された兵士が相手では勝ち目はありません』


「なぬ? 兵士とな?」


 盗賊の正体を太陽が空から教えてくれる。

 上空から見下ろして偉そうだが、しっかりと情報をくれるのは有り難い。


「てか、俺って盗賊に負けるくらい弱いの?」


 盗賊が兵士って事よりも、寧ろそっちの方が気になる。俺のチートはそんなに弱いのかと。もしかしたら、使い熟すのに時間が掛かるタイプのチートなのかもしれないが、それはそれで面倒くさそうだ。


『弱……くはないですよ。今回は諦めて隠れていた方が良いでしょう』


「何だよ今の間は、それに隠れるなんて出来ないな。なにせ、か弱き女の子が襲われているかも知れないから!」


 そう、馬車には女の子が乗っているかもしれない。違っていても、あの派手な馬車なら権力者の物に違いない。それだと人脈を構築して、人脈チートするチャンスじゃないか。


『待って下さい、新たなチャレンジャーがエントリーしました』


「はあ?」


 太陽の言葉に足を止めると、盗賊達に向かって大木が降って来た。

 いや、降って来たのではない、もの凄い力で投擲されたのだ。

 その投擲された大木は、一気に五人の盗賊を巻き込んで押し潰してしまう。


「ひっ!?」


 いきなりのスプラッタシーンを見せられて、俺の口から悲鳴が漏れる。その上、他の物も出そうになり、口元を抑えた。


 一体何が起こっているんだと見ていると、森の中から、5mはありそうな大きな肉体を持つモンスターが姿を現した。


『あれは、トロールと呼ばれるモンスターです。頑丈な肉体と怪力の持ち主で、高い再生能力も備えています。間違っても戦おうと思わないで下さいね。間違いなく死にますから』


 俺は太陽の忠告を聞いて、ブンブンと頭を上下させた。

 あれは無理だ。見れば分かる。生物として敵う相手ではない。テンプレをこよなく愛する俺だが、今立ち向かっても勝ち目はミジンコほども無いのは嫌でも理解してしまう。

 あれに勝つには、チートを使いこなせるようになって、装備に身を固めてからの話だ。


 それに、残った盗賊や馬車の護衛達は、トロールを見るやいなや逃げ出してしまった。

 分かっているのだ。

 アレには勝てないと、普通の人間が勝てる相手ではないのだと。


 新たなチャレンジャーであるトロールに無双されて、その場にいた人は全て逃げ出した。いや、馬車の中には、まだ人が残っていたようで、二人の女性が姿を現した。

 一人はメイド服を着ており、馬車から飛び出すと脇目も振らずに走って逃げて行ってしまった。

 そしてもう一人は、


「待って! 置いて行かないで!」


 ドレスを着た少女が、走り去って行くメイドに手を伸ばして助けを求めていた。


 少女は美少女と言っても過言では無く、長い金髪を縦巻きにしている。モンスターに襲われたからか、若しくは盗賊に襲われたからか分からないが、腰が抜けているように見えた。


 てか、これはチャンスではないですか?


「あの、太陽さん」


『太陽ではないですが、何ですか?』


「あの女の子助けたいんですけど、どうにかなりません?」


『出来ますけど、助けてどうするんですか? まさか、ハーレム要員に入れたいとか言いませんよね?』


「……はははっ、まさかー、ただ助けたいだけですよー」


『棒読みで分かりやすいですね。まあ、ご主人様の思考を読んでいる私には、嘘は通じないんですけどね』


「おっおーい⁉︎ 何サラッと爆弾発言してんだ! 俺の思考読んでんのかよ! マジで怖いわ!」


『先ほどから言っている通り、私はご主人様の一部なので、思考は読み取るって言うより流れて来る感じですね。それよりも良いんですか? あの娘、襲われそうですよ』


 太陽に言われて馬車の方を見ると、トロールが馬車に向かって歩き出していた。先程、声を出したのが悪かったのだろう、モンスターに見つかってしまったのだ。


「太陽! 早く助けてくれ!?」


 焦る俺は、そう太陽に呼びかけるが、返って来る返答は、


『お願いするなら、それなりの態度ってものがありますよね?』


 なかなかにクズなものだった。


「なに言ってんだ!女の子が死にそうなんだぞ!?」


 そんな事している暇は無いと言っているのだが、太陽は呑気に光輝いていた。いや、それは前からだな。


『ですから、お願いを態度で示して下さい。私が満足すれば助けてあげても良いですよ』


「そんなの後でも良いだろう!あの娘が死んでもいいのか!?」


『ええ、ご主人様が無事なら、他はどうでも良いです』


「おまっ!?」


 そこでようやく気付く。

 この太陽は、俺の一部と言っておきながら、全く独立した意識なのだという事を。

 俺だったら見捨てない。

 あんな美少女がピンチなのに、傷心した少女を助けて惚れられて良いことしたいのに、ハーレムの第一号候補だというのに、最悪裏切ったら監禁していろいろしてやりたいのに、あとあと、人の生命をなんだと思っているんだ!


『ガチクズですね、見捨てるのが救いのような気さえしてきましたよ』


 聞こえない聞こえない、少しだけ本心が出ただけだ。


 そうこうしていると、トロールは馬車を掴んで持ち上げようとしていた。中には未だ少女がおり、悲鳴が聞こえて来る。


 流石にまずいと、太陽に向かって頭を下げる。


「お願いします太陽さん! あのモンスターを倒して下さい! 邪な考えは捨てますので、どうか俺の嫁をお助け下さい!」


『勝手に嫁にしないであげて下さい、あの娘が気の毒です。ですが、まあ良いでしょう、ご主人様の意思には、逆らえませんからね』


 太陽がそう言うと、勢いよく風が吹き荒れ、頭上から不可視の刃が飛ばされる。

 その不可視の刃は、トロールの足を切り落とし、腕を斬り落とし、首を斬り飛ばした。


 ゴロゴロと転がる頭は、馬車の中にいる少女と目が合い、更に大きな悲鳴が上がる。

 どうやら少女には刺激が強かったようである。


 俺は隠れていた木陰から出ると、少女が怯えているであろう馬車へと向かう。

 何もやましい気持ちはない、少しだけお近づきになれたらなーと思っているくらいだ。更にその先を想像して、ウキウキとしているなんて事もない。少女の無事を願って、足が速くなっているだけだ。


 トロールの無惨な成れの果てを蹴飛ばして、馬車に向かって髪を掻き上げる。


「やあ、お嬢さん。危ない所でしたね、俺が来たからもう大丈夫ですよ。さあ、俺の胸に飛び……あれ?」


 頼れる俺を演出していたのだが、少女からの期待していたリアクションが無い。どうしたんだろうと馬車の中を見ると、少女は気を失ったのか倒れていた。


 まあ、あんなデカいのに襲われたら、仕方ないかと納得する。

 俺も間近で見たら、失禁する自信がある。

 少女からのご褒美は、目が覚めるまで我慢するしかないなと思っていると、太陽から驚きの情報が入った。


『ご主人様、ご主人様』


「なんだよ?」


『その娘、死んでます』


「……は?」


 ただ、気を失っているだけかと思っていたら、少女は既に亡くなっているらしい。

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