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28.違うよ!みんなついていけてないだけだよ!

 ぐつぐつと煮えた鍋には、採れたての鳥肉と森に生えている野菜やキノコが大量に投入されている。

 十分に火を通しアクを取り除いて、市場で購入しておいたスープの元を入れる。そして蓋をして、また十分ほど煮込めば完成である。


 器に具をたっぷりとよそい、パンと一緒に手渡す。


「こ、これがコカトリスのスープ!?」


「まさか、こんな所で高級食材を食べられるなんて……」


「俺たちも頂いて良いんですか?」


 ルークが驚き、マイが慄き、ライオネルが恐る恐る食事を受け取る。


「ええ、その為に狩ってきたのですから、食べないと言われても困ってしまいます」


 そう言いながらアルミーにスープを手渡す。


「サンって手料理も出来るんだね⁉︎」


「簡単な物ならある程度は作れますよ」


「簡単な物って、狩から下処理に調理するのを簡単って言って良いのか?」


 そう、パンとスープの素を除いた材料は全て、今し方サンが採取して来た物だ。

「少し離れます」と一言告げて森の中に入っていき、五分ほどするとコカトリスと野菜を持って帰って来たのだ。


 てっきり花を摘みに行ったものだと思ったら「本日の晩御飯です」と掲げ、コカトリスを締め、魔法で血抜きと羽根を取り、内臓を取り除いてしまったのだ。

 空中に浮かぶ解体ショー。

 残酷ではあるが、見入ってしまうほど素晴らしい手際だった。


「あの、サンさん」


「はい」


「良ければ、私に魔法を教えて頂けませんか?」


 そうお願いして来たのは、魔法使いのマイだ。

 マイか得意とする魔法の属性は水属性だ。水属性を必死に練習して、攻撃力の高い氷魔法を使えるようになっているが、魔法を使い熟せているかと言うとそうではない。

 今のマイが使っている魔法は、詠唱による魔法だ。

 本来、魔法を使うのに呪文や魔法名を口にする必要は無い。

 魔力を操り、凡ゆる事象を起こす。これが魔法の真髄である。そこに属性も詠唱もなく、ただ望むままに事象を操る神如き力。

 それが魔法である。


 しかし、昨今の魔法使いは詠唱や魔法名を唱えないと魔法が使えない。音で魔法の設計図を描き、魔力を送ることでしか魔法が使えないのである。

 これが今、一般的に広まっている魔法である。

 ハンスがサンの魔法を見て、錬金術師だと勘違いしたのも原因はここにある。

 無詠唱で全ての事象を起こせるのは、世界で見ても片手で数えられるくらいだろう。


 その事を知ってか知らずか、マイはサンに師事を申し出て来た。

 魔法使いとしての嗅覚がそうさせたのか、ただの気まぐれか分からないが、この判断はマイにとって幸運とも言えるものだった。


「良いですよ。この冒険の間、という条件は付きますが」


「はい!」





 小屋の中で一夜を過ごし、翌朝、軽く食事を済ませると早速出発する。

 ここからは隊列が変わり、先頭がサン、真ん中にライオネル達三名、最後尾にアルミーである。


 現れるモンスターのランクを考えるなら、まだアルミーが先頭でも良かったのだが、獣道になり目的地までの時間を考えるならサンが先頭が最適解だった。


 サンが歩く。

 獣道が広くなり、平坦な物へと変化する。

 新たな道の出来上がりである。


「……ねえ、サン」


「何ですアルミー?」


「サンが道を作ってくれるなら、私が先頭でも良かったんじゃ?」


「これは、私が先頭でないと出来ないんです。ええ、道を固めるのは凄く大変なんです」


「そっそうなんだ。わ、分かったから、うん、分かったから! そんなに近くで睨まないでぇー!?」


 間近で迫るサンに畏れをなすアルミー。

 別に間違ったことは言っていない、サンが最後尾だと道が固まるかどうか微妙な時間なのだ。

 その気になれば見える先まで道を引くことは出来るが、そんな私スゲーがしたいわけではないので力を押さえているに過ぎない。


 だからアルミーの指摘は間違いなのだ。

 そうだったらそうなのだ。


 気を取り直して、サンを先頭に進む。


 現れるモンスターは、姿を見る前にサンに始末されていく。


「なんかモンスター出ないな」


 なんてライオネルが呟いているが、魔力を感じ取ったアルミーとマイは、サンが何かしているのだと気が付いていた。

 まあ、その詳細までは理解が及ばないようだが。


「それは魔法の練習なのか?」


「話しかけないで、ただでさえ難しいのに歩きながあっ!?」


 ルークがマイに話しかけると、マイが浮かべていた水の塊が地面に落ちてしまった。

 練習の邪魔をされてルークを睨むマイ。

 それに対して悪かったよと愛想笑いを浮かべて、誤魔化そうとするルーク。


 今、マイがやっていたのは、昨晩サンに言われて始めた魔法の練習である。

 小さなウォーターボールを作り出し、それをひたすらに維持する。それを詠唱無しで使えるまで練習して、今度は形を変えていくという練習方法だ。

 純粋な魔力だけで魔法を発動する技術。

 サンはそれをマイに教えていた。


「マイさん、焦る必要はありませんので、今は冒険に集中して下さい」


「うっ、はい、そうします」


 サンに言われてしょんぼりするマイ。

 それをやーいやーいと楽しそうにしているルークの姿があった。


「……ガキ」


 若干キレ気味のマイに言われて、ルークはしょんぼりした。




 それからも、新たな道を作りながら進む一向。

 やがて現れるモンスターは、Lランクの凶暴なものへと変わる。

 だが、それでもサン達の歩みが変わる事はない。

 何故なら現れる前に、サンが始末しているから。

 モンスターが一向に気付いた瞬間には、その命は消えているから。


 だからだろう、アルミーから苦言が呈されたのは。


「ねえ、サン」


「何ですアルミー?」


「サーチアンドデストロイはいいんだけど、ライオネル達の勉強にならなくない?」


「……それもそうですね、では実演して見せましょう」


「え?」


 言うや否や「ガァーーーーッ‼︎」と雄叫びを上げて姿を現したのは一体の大きな鬼だった。


「オーガ!?」


 体長4mはありそうな、巨大なオーガ。

 体表は黒色で、強靭な肉体と暴力的な魔力を保有している化け物である。


 そのオーガが恐ろしい速度で接近して、一番脅威なサンを仕留めようと拳を振り下ろす。

 それをサンは、何でもないように避けてオーガの体に接近する。

 そして掌底を喰らわせ始末する。


 ぐらりと揺れて、横倒しになるオーガ。


「え?」


 その声が誰のものだったのか分からないが、一同がその思いを共にしていた。


「……あんた何やったんだ?」


 それはルークから質問だった。

 何が起こったのか分からなかったのだ。

 動きが速かったというのもあるが、気が付いたらオーガは倒れており何がどうなったのか、説明求む状態なのだ。


「何をと言われましても、掌底でオーガの内部を破壊したとしか言いようがないのですが……」


「それが分からないから聞いてるんだよ。どうやったら、掌底で倒せるんだよ。あれか、Fランクだからか!?」


 絶叫するルーク。

 その心は、Fランクだからってなんでもありじゃないんだぞ、無敵の人じゃないんだぞと訴えている。


 それに対してサンは少し困り顔になり、仕方ないですねと説明を始めた。


「まずはモンスターを用意します」


 そうサンが言うと、それに合わせたようにモンスターの雄叫びが上がる。


「次に魔力を掌に溜めます。このときは、魔力を激しく運動させて下さい。イメージとしては竜巻や花火のようなものでも良いです。可能ならば、モンスターの体に浸透するようなイメージも追加して下さい」


 モンスターが木々の隙間から現れる。

 そのモンスターはキラーマンティスという蟷螂のモンスターである。普通の蟷螂との違いと言えば、その大きさと鎌の付いた腕が六本あるくらいだろう。

 そのモンスターに殺気を飛ばして、恐怖で動きを止める。


「あとはモンスターの体に押し込む。すると内臓を破壊して絶命することが出来ます」


 掌底をキラーマンティスの体に打ち込み、その内部を一気にクラッシュさせた。

 悲鳴を上げることなく、口から紫色の液体を吹き出して倒れるモンスター。


 まるで当たり前のように一連の虐殺をやったサンだが、残念ながら誰からも共感を得られなかった。


「そうですね、この技はマイさん向きです」


「違うよサン! みんなついて行けてないだけだから! 説明が足りないとかじゃなくて、魔力云々から理解できてないから!?」


 お願いだから分かって、サン!

 必死に叫ぶアルミーの思いは、ライオネル一向も同じ思いだった。


「そうですか、難しいですね。私が見せられる戦いは、これと魔法くらいしかありません。申し訳ありませんが、学ぶ事はそれほど無いかもしれません」


「い、いえ、俺たちが勝手に着いて来ているだけですから。サンさんはお好きに戦ってくれたら……」


 戸惑いながらもライオネルは必死に答える。これまで知らなかった技術を見せられて、困惑して訳分からん状態だ。

 恐らく、説明されても理解できないだろう。

 だから、ライオネルにも知見のある武器の使用を提案する。


「あの、あれでしたら腰に付いている剣を使ってみてはいかがですか?」


「この刀ですか? 一応振れはしますが、人に教えるほど技量はないのです。モンスターを倒すのも、魔法か肉弾戦が得意なので」


「そ、そうですか。じゃあ仕方ないですね」


 武器より肉弾戦が得意って何だろうか?

 いろいろな疑問を残しつつ、サンさんは不思議だなぁと前向きに捉えて、ライオネルは全てから目を逸らした。





 更に森の奥へ奥へと進んで行く。


 昼間だというのに、薄暗い森。そこに一本の道が走り太陽の光を取り込んで行く。


 相変わらずのサーチアンドデストロイによりモンスターは葬られ、サン達の歩みを止める者は現れていない。


 そして、いよいよ目的地に到着する。

 そこは森の終わりの場所であり、到底登れないほどの高い崖になっていた。

 一応、崖の先にも森は続いているのだが、ここが中心地であり、崖の反対側は王都に繋がっていた。


 過去にはこの森を通す計画もあったそうだが、残念ながらこの森の強力なモンスターと、森の主を前に諦めるしかなかった。


 因みに森の主は崖の上に居るので、今回は関係ない。


「では、エリクス草を採取しましょう」


「採取って言われても、一体どこに生えているんですか?」


 到着したはいいが、辺りは草だらけでどれも同じに見えるのだ。この中から特定の薬草を探そうと考えると、それは途轍もない労力である。

 だが、サンは指を指して言う。


「そこにある物です」


「え?」


「この足元にある全ての草がエリクス草です」


「は?」


 そう言われて足元を見ると、それは何処にでも生えている草に見えた。

 葉っぱは大きく茎が太く生命力が強そうな草。ここまで来る道中でも見かけたような気がするのだが、あれは違っていたのだろうかとライオネルは首を傾げる。


「サンさん、ここに来るまでに同じ物ありませんでした?」


「ええ、生えていましたが、品質がイマイチだったので放置しました。殆どの冒険者は、道中にあったエリクス草を摘んでいたと思われますが、あれでは本来の効果を発揮できません。アレではメアリちゃんの病気は治せませんでした」


「分かりました直ぐに摘みます」


 妹の名前を出されて、ライオネルは早速エリクス草を摘み始める。それに倣うようにマイとルークも行動する。

 この三人が知っているのかは知らないが、今摘んでいるエリクス草は、ひとつで金貨十枚の価値がある。ここはその群生地なのだ。簡単に来れる場所ではないのだが、この場所が知られれば、バカな考えを持つ冒険者が出て来るだろうなと予想する。

 少しでも理性があれば、ここに来る危険を理解出来るのだが、金という魅了に取り憑かれた者は命さえもベットしてしまうのである。


 どこかで「ぶぇーくしょん!」とクシャミをしている直志がいたそうだが、それはどうでもいいことである。


 エリクス草を採れるだけ取ると、空の鞄の中に入れていく。

 やがて一杯になり帰ろうとすると、本来存在するはずのないモンスターが現れる。


 ズンズンと重い足音が鳴り響き、次々と木々が倒れて行く。

 まさかこの森の主が来たのかと警戒するが、足音があることから違うと判断できる。


「……逃げないとヤバくないか?」


「そうね、早く逃げましょうサン。……サン?」


 近付く足音を聞いて、早く逃げようとルークが提案する。それに同意したアルミーがサンに目を向けると、そこには誰も居なかった。



⭐︎



「最近はぶられている気がする」


「ほ?」


 腰を落として重りの付いた木刀を腰の位置から引き抜く。横薙ぎに払った木刀を上段に持っていき振り下ろす。

 所謂、抜刀術と言うやつだが、これはサンから刀を貰うと決まってからやり始めた鍛錬である。もちろん、望んでではない。


 昨日の夜に帰って来たドリーに「今度、刀貰うんだぜ!」と自慢すると「じゃあ、そっちの練習が必要だな」と鍛錬のメニューが変わったのである。

 余計なこと言わなきゃ良かったと、今では反省している。反省はしてもまたやる気はする。だって自慢したいから。


「俺だけ放置されている気がするんだ。メアリちゃんはどう思う?」


「わかんない」


 まあ、お子様には分からんだろうなぁこの疎外感。教室で寝ていたら、誰にも起こされなくて一人だけ取り残されたときのような寂しさがある。


 くっと過去を思い出して、木刀を振りながら涙が溢れる。


 なぁ佐々木よぉ、お前だけは友達だと思ってたのに何で置いて行ったんだよ。一緒にアニメの話ししたじゃないか、どのキャラが可愛いか討論したじゃないか。ロボットフェチの癖に、やたら胸の形には拘りやがって、俺の意見を全否定しやがった。今度、同じ状況になったら、絶対放置してやるからな。


「覚えてろよ佐々木ぃ‼︎」


「ササキって誰?」


 いかんいかん、話が脱線してしまった。

 俺って主人公だよな? 異世界転生した主人公だよな? それなのに、どうしてこんな地味に剣を振り続けているんだろう。

 もっと、こう、冒険に出て俺ツエーをやって俺スゲーをするはずじゃなかったのだろうか。

 それを、俺と関係のない所で、誰かがやっている気がするのは何でだろう?


 くやしい。

 俺が涙を流しながら剣を振っていると言うのに、そいつは今頃、持ち上げられて気持ち良くなっているに違いない。

 妬ましい。


「くっ、いつか俺も無双して俺ツエーやってやる!」


「オレツエー?」


 いかんいかん、また脱線してしまった。

 俺がはぶられているって話だ。

 どうして、俺だけはぶられているんだろうか?

 そもそも、はぶられているのだろうか?

 寧ろ、俺が周囲をはぶっているのではないだろうか?


 そうか、俺は主人公なのに心を閉ざしていたから周囲も心を開かなかったんだ。

 じゃあ、俺は身も心も解放すれば、真の力に目覚めて周りも持ち上げてくれるはずだ!


「そうか⁉︎ 俺は悟ったよメアリちゃん!」


「きゃーーーっ!?」


「なに⁉︎ どうしたのメアリちゃ……タダシさん、何やってんです?」


「なにって、切腹です」


 そう、俺は悟ったのだ。

 俺の中身を見てもらえれば、みんな俺を求めるはずだと。ついでに死の危機に瀕すれば、俺は覚醒するはずだと悟ったのだ。


 その後、強制的に気を失わされた俺は、短刀を引き抜かれて治療されて、正気を取り戻した。

 混乱した原因は、無い頭でいろいろ考えたからだと言われて死にたくなった。

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