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27.少々不快ですね

 姿勢を低くして疾走するアルミー。

 左右にステップを踏みながら狙いを絞らせず、敵との距離を詰めて行く。

 振り下ろされる太い棍棒。

 しかし、それに当たるほどアルミーは遅くはない。


「しっ!」


 小さく息を吐き出すと、棍棒を紙一重で避け豚顔のオークの喉元を短刀で斬り裂く。

 噴き出る血を回避して、次のオークへと疾走する。

 一体二体とオークを片付けて行き、三体目を始末しようとして、その必要はないと動きを止めた。

 目の前のオークに頭は付いておらず、力を失って倒れる。


 それをやった張本人であるサンを見て、アルミーはにっこり。


「アルミー、お疲れ様でした」


「たいしたことないよ、動きが遅くて楽勝だったから」


 Mランク相当のモンスターであるオーク。それを相手に楽勝と言えるのは、それだけアルミーの実力が高い証明だった。


「……凄い」

「うん、全然見えなかった」

「動きの緩急で惑わされるな」


 ライオネル一向は、アルミーの戦いを見て称賛の声しか出て来なかった。

 今のライオネル達では、オーク一体相手に勝てるかも微妙なところで、二体いれば間違いなく負けると断言出来た。

 それをアルミーは圧倒したのだ。憧れても仕方ないだろう。


「どうだった?」


 そんなアルミーは、ドヤ顔でライオネル達に尋ねる。先程の感想が聞こえていたにも関わらずである。もっと褒め称えろと、内心思っての言葉だが、そんなものは表には出さない。


「魔力操作が流石としか言いようがない」

「やっぱり、日頃の訓練の成果ですか?」

「攻撃の瞬間に魔力が高まったのは、部分的に腕を身体強化したからか?」


 しかし、返って来たのは称賛の声ではなく、真面目な質問だった。


「え? あっうん、そうだね。クワッ! と魔力を込めてグンッ! て力を入れると、スパッ! と切れるようになるよ」


 それにしっかりと答えるアルミー。擬音だらけで分かりにくいが、アルミーが割と天才的な感覚で魔力を使っているのは伝わった。


 そして、同じような天才は案外近くにいたりする。


「こうか?」


「っ!?」


 ライオネルが魔力を込めると、アルミーと同じように腕だけに魔力が止まったのだ。


「ま、まあまあじゃない? ねえ、サン」


 まさか直ぐに真似されると思っていなかったアルミーは、負け惜しみを言いつつサンを呼ぶ。

 アルミーは天才肌だが、何も最初から出来た訳ではない。それなりに努力して来たし、師匠の言いつけ通り毎日欠かさず魔力操作をして来たのだ。その努力を一瞬で無かったようにされたような気がして、狼狽えていたりする。


「そうですね、センスはあると思いますよ。ですが……」


 サンの手から純粋な魔力が飛ばされる。

 すると、ライオネルの手にあった魔力は霧散してしまった。


「あっ」


「まだ課題は多そうですね」


 アルミーの魔力操作ならば、この程度の魔力で揺らぐ事はない。そう言ってくれているようで、アルミーのプライドは守られた。


「それでも感覚は掴めた。これから頑張れば、アルミーみたいに戦えるんだよな」


「ええ、大変ですがきっとなれますよ」


「っ!? はい!」


 顔を赤くして返事をするライオネル。それをジト目でマイが見ていた。

 面倒なことにならなかったら良いなぁと願いながら、サンはため息を吐いた。


 日が暮れ始め、森の道が細くなり、無くなりそうな所まで到着する。

 そこには冒険者用の小屋が建っており、ここまで来た冒険者の休憩所となっていた。今日はここで一泊する予定だ。小屋にはモンスター避けの結界が張られており、Mランク程度のモンスターならば近寄らせない効果を持っていた。

 小屋の中に入ると、そこには誰もおらず、代わりに一体の死体が転がっていた。


 扉を開けたサンは、何も言わずに扉を閉めた。


「本日は野営をしましょう」


「うん、それが良いね」


 サンの提案に乗っかるアルミー。

 何も見てない。小屋の中には何も無かった。そう、疲れて幻覚を見ただけで何も無かったのだ。


「待って!? 今、死体ありましたよね!? 胸に刃物がぶっ刺さってましたよね!?」


「おい、これ殺人事件だって!? 騎士団呼んで来ないと! ってここ森の中じゃん!? どうすんのこれ!?」


「マイ、ルーク落ち着け、ここは冷静になろう。まだ何が起こったのかも分からないんだ。仮に殺人事件なら、犯人が近くにいる可能性もある。犯人を捕まえるんだ!?」


「貴方が一番落ち着いて下さい。面倒なんで無視したかったんですが、仕方ないですね」


「あっ、あいつ動き出したよ」


「え?」


 その声に反応する三人。

 アルミーが指差す方を見ると、胸にナイフが刺さった男が小屋から出て来た。


「まさか、グール?」


「ええ、元が人だとモンスター避けが通じない場合があります。グールの行動も生前の動きをなぞることが多いので、このグールも元は小屋を使っていた冒険者かも知れませんね」


「そんなっ!?」


「冒険者を続けるとはそういうものです。死にたくないなら、直ぐに引退しなさい。守るものがあるなら尚更です」


 サンは手を振ると、手加減した風を送りグールを後退させる。

 グールはその元となった者により力が上下するのだが、このグールは大して強くはないのを今の風で理解した。


「ではライオネルさん、マイさん、ルークさん、彼を倒して下さい。あなた方の実力でも、十分に戦える相手です。ただし、元が人だと躊躇すればやられます。油断なさならないように注意して下さい」


 サンの声はよく通るもので、急に振られたというのにライオネル達はその指示に何の疑問も持たずに、素直に従う。


 グールの肉体は腐敗が進んでおり、肉体の所々からウジが湧いていた。

 腐敗臭も相当なものなのだろうが、サンが風を送っており臭いは届かない。


「アイスランス」


 最初に動いたのはマイだった。

 呪文を唱えると、前方に氷の槍が出来上がる。それはアイスアローよりも大きく、頑丈で、飛ばせば比ではないほどの威力を発揮する。

 氷の槍に魔力を集中して、威力を上昇させる。


 それを危険と感じ取ったグールが動き出す。


 死んで肉体のリミットが切れているせいか、その動きは速い。

 狙いは脅威を感じたマイのようで、一直線に向かって行く。


「おおーー!!」


 そこにルークが盾を構えて立ちはだかる。

 ここから先には行かせないと、四肢に力を込めてグールの体当たりに耐えて見せる。

 そして、グールの勢いが止まったのをチャンスと捉え、大斧で脳天を破るために振り下ろす。


「ぬーー!!」


 しかし、グールはそれを読んでいたかのように動く。胸元に刺さったナイフを引き抜き、ルークの渾身の一撃を受け止める。

 そんな、ルークがそう声を上げるよりも早く、持っていた盾に衝撃が走る。


 ドンッと鈍器が当たったような感触が盾に伝わり、次の一撃で吹き飛ばされる。


「馬鹿な⁉︎ コイツは武闘家なのか!?」


 タタラを踏みバランスを保とうとするルークは、グールの拳を突き出した姿を見て驚愕する。

 重量はルークの方が圧倒的に重いのに、拳一つで後退させられてしまった。このグールが普通でないのを察するには十分だった。


「身体強化!」


 ライオネルが走り、アルミーの真似をして身体強化を使用する。

 そしてグールを両断せんと、剣を横薙ぎに振り抜く。

 ギッと金属音が鳴り、その感触が不発だと知らせて来る。グールのナイフがライオネルの剣を受け止めており、その腕に魔力が困っているのが見えた。


「身体強化も使えるのか!?」


 ライオネルと同じように身体強化を使っており、元の肉体のリミッターが切れているのも合わさったグールは脅威と言えた。


「グールの強さは、生前の肉体の強さに引っ張られます。彼は元Mランク並みの冒険者で、死後それほど経っていません。生前より強くなっているので油断なさらないように」


「生前って、知り合いなんですか!?!?」


「以前、街中と森の中で襲われたことがあります」


 そう、グールになっているのは、錬金術師ギルド長の孫に同行していた護衛の者で、出会って速攻サンに倒された人物だった。


 ええっ!? と驚きながらも、ライオネルはグールのナイフを受け止め、鍔迫り合いを開始する。

 力では圧倒的にグールが上だが、知性がないせいか動きに精彩さが欠けていた。そのくせ、身体強化はできるという謎仕様。

 それに違和感を感じながらも、ライオネルは剣を振る。


 二合三合と増えていき、十合を超えたあたりでライオネルは劣勢になる。

 理由は身体強化が解けたからだ。

 あくまでもアルミーの技を真似ただけで、自分の物にしたわけではない。それでも十合も待てば十分と言えた。


「くっ! ルークッ!」


「オラァーー!!」


 ライオネルが後方に下がりながらルークを呼ぶと、それに合わせてルークが盾を前にして突っ込んで来る。

 完全に虚を突かれたグールは、ルークの盾によって吹き飛ばされる。


「いまだマイ!」


「ええ! アイスランス!!」


 バランスを崩して倒れるグール。

 そこにマイの魔法が炸裂する。

 氷の槍はグールの腕と胴体を抉り取り、森の木を一本削り取って消滅した。

 そして、抉り取られたグールの方も無事ではなく、ジタバタともがいたあと力尽きたのか灰となり消えていった。


「お疲れ様でした」


「終わったんですか?」


「はい、あなた方の勝利です」


 サンが告げると、実感が湧いて来たのかヨシッと小さく拳を握り、そして安堵していた。


「正直申しますと、もう少し苦戦するものだと思っていました」


「そうなんですか?」


「はい、ライオネルさんが即席とはいえ身体強化を使うのは想定外でしたから」


 それを聞いて、使えなかったら一方的にやられていたかも知れないなと想像ができた。

 サンの想像を超えれたという事実が、少しだけ誇らしく思えたライオネルだった。




「ねえ、サン……」


「分かっています。これは少々不快ですね」


 アルミーを見ずに正面を向いて答えるサン。

 言いたいことは分かっている。グールがどうしてこのタイミングで現れたのかと、彼をグールにしたのが何者かということなのだろう。


 そして何より。


「覗き見はいけませんよ」


 空に向かって魔法を放ち、上空に居た鳥型のゴーレムを破壊した。


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