26.その場の勢いだね
Fランクであるサンが率いる臨時のパーティは、順調に森の奥へと進んで行く。
現れるモンスターがゴブリンやスライムから口の大きな噛みつき蝙蝠やツノ兎へと変わり、段々と強い種類のモンスターに変わっていく。
「はあ!」
ライオネルの剣が、ツノ兎を貫く。
「おおっ‼︎」
ルークの斧が噛みつき蝙蝠を叩き斬る。
「アイスアロー!」
マイの氷魔法が上空を旋回していた噛みつき蝙蝠を仕留めた。
三人はパーティを組んでいるだけあり、その役割が決まっている。また、相応に鍛えているようで、サンの目から見ても歳の割に高い実力を持っていた。
「なかなか良さそうね」
アルミーが上から目線で、三人をそう評価する。
「まあな」
その評価を得ても、三人は反論しない。
アルミーが年下とか関係なく、この森に入ったときに、アルミーの実力を見ていた。それは、三人からしたら凄まじいもので、純粋にその実力の高さを評価するしかなかったのだ。
「お疲れ様です。少し休憩にしましょうか」
「おお、やっとか」
かれこれ三時間歩き続けており、そろそろ休憩にしようとサンが提案する。疲れているのもあり、反対する者はいなかった。
ライオネル率いるパーティが一時的に加入したことで、冒険者ランクMであり実力も圧倒的に最強なサンがパーティのリーダーになっていた。
全てはリーダーの言う通り。
そうしないと、正義の暗殺者の刃が煌めくことになる。
疲れた〜と腰を下ろす三人。
そんな三人を他所に、周囲を警戒するサンとアルミー。
「あの、休まないんですか?」
マイが尋ねる。今は休憩の時間なのに、何で立っているのだろうという疑問からだ。
「ここは、モンスターが生息する森の中です。いくら道が敷かれているとはいえ、隠密に行動するモンスターはいます。休憩するにしても、最低でも一人は警戒をするようにして下さい」
そう言われた途端に立ち上がり、警戒しだす三人。
「大丈夫よ、今は私とサンが警戒してるから、休憩してて」
「すいません、気が付かなくて」
「気にしなくて良いですよ。野営に関しての知識は、冒険者ギルドでも教えているみたいなので、一度習っておくのも良いかも知れませんね」
「はい、そうします」
ライオネルが素直に頭を下げて、サンの意見に同意する。
本来なら、冒険者ランクSであるライオネル達に野営の知識は必要ない。そもそも、泊まりがけの仕事なんて受けられないのだ。だから、必要になるのはMランクからである。
ただ、先ほどの戦いを見るに、Mランクに上がるのはそう遠くないだろうなとサンは評価していた。
サンが手を振り、風の刃を飛ばす。
それは上空に上がり、迫っていたバトルホークという3mほどのモンスターを両断した。
「ここまで来ると、上空からの奇襲にも注意しないといけませんね」
「はい!」
一連の動きが、まったく目で追えていなかった三人は、サンの言葉に直立して目を輝かせて対応した。
その輝きは、尊敬する者に向けられる熱い物のようだった。
休憩を終えると、更に森の奥へと進む。
これまでの先頭はライオネル達に任せていたが、交代して索敵が得意なアルミーが担当する。
理由は、ライオネル達では力不足だから。
ある一定の場所から森の雰囲気が変わり、明るいはずなのに森の中が見えず、敷かれた道しか視界が届かなくなるのだ。
「ここからが、Mランク相当の冒険者が来れる場所になります。ライオネルさん達で、ぎりぎり生き残れるかどうかの危険度です。ですので、くれぐれも離れないようにして下さい」
「っ!? 分かった」
「は、はい!」
「ここからか……緊張するな」
サンの忠告に三人のなかで緊張が走る。
三人の実力はM−ランクで、ここから本当の意味で生死が掛かった場所に足を踏み入れる。
「緊張し過ぎないようにしてよ。そんなんだと、いざというとき動けないよ」
背後から伝わる緊張感に、アルミーが指摘する。それでも、この緊張は治らないだろうとアルミーは思っていた。
こういうのは、経験して慣れなければどうしようもないのだ。仮に慣れて油断しては元も子もないのだが、そこの塩梅もまた経験が必要になる。
ここからが、ライオネル達の本当に経験すべき場所になるのだ。だから、大切に育てるように、サンは指示を出す。
「ここからの戦いは、アルミーと私が担当します。指示がない限り、手を出さないようにして下さい」
「お、俺たちだって戦える! まだ、体力や魔力も余裕はあるんだ」
ライオネルは、まるで戦力外のような指示を受けて思わず言い返してしまう。
ここに来るのに、サンの指示が絶対だと言うのを忘れた訳ではない。それでも、男として誰かに守られているだけというのが許せなかったのだ。
それに対してサンは、出来る女らしくしっかりと返答する。
「ええ、ですから戦えると判断した場合は戦ってもらいます。それと、見ているのも勉強ですので、上を目指すならば私達の戦いを見て学んで下さいね」
ライオネルはどこぞの直志と違って、向上心があり努力を怠らない少年だ。ならば、ここで目指すべきものを見せてやるのが、一番の成長に繋がるだろう。
それをはにかみながら伝えると、ライオネルは照れたように視線を外した。
「……分かりました」
赤くなった耳を見て、サンはやってしまったかなと失敗を悟る。まあそれも、今後関わらなければ問題ないので、放置で良いだろうと判断した。
「では行きましょう」
サンの掛け声で、即席のパーティは森の奥に向かって歩み始めた。
⭐︎
俺が必死に剣を振っている隣で、メアリちゃんがほぉと言った様子で眺めている。
どうしたんだろうと視線を向けると、話しかけて来た。
「お兄ちゃんは何で剣を振っているの?」
「怖いお姉ちゃんに指示されているからだよ」
「何で怖いお姉ちゃんに指示されているの?」
「お兄ちゃんが悪ノリしちゃったからだね」
「どうして悪ノリしちゃったの?」
「その場の勢いだよ。男には引けないときがあるんだ」
「男って大変ですね、ところで怖いお姉ちゃんって誰の事ですか?」
「それはウリルルって言う巨乳お化けの……あっ、いつも美人で素敵なお優しいウリルルさんご機嫌よう」
「ご機嫌よう。おかしいですね、さっきまで機嫌が良かったんですけど、急にご機嫌が悪くなったみたいです」
「そうなんですか⁉︎ それは大変ですね、僕で良ければ相談に乗りますよ。先生は頑張り屋なので、色々と溜め込んでいるんでしょう。そう考えると、やっぱり僕では力不足そうなので、道場で休んでいた方が良いかもですね」
「大丈夫ですよ、ちゃんと解決策は知ってますから」
「そうですか、それは良かった。じゃあ僕は素振りの続きしますんで」
「その素振り、一万本追加です」
「待って下さい! 今の不意打ちだったじゃないですかー! 巨乳お化けとか言ったのは誠心誠意謝りますから見逃して下さいよー!」
口が滑っただけなんです。巨乳お化けとか言ったのは本心ですけど、悪気はなかったんです!
流石にこれは言わない。きっと殺されるから。間違って口を滑らせたりとかもしない、俺は反省する男だから。
「何だか小馬鹿にされてる気がするんで許しません」
「勘が良すぎる⁉︎」
そんな俺の反省は意味がなかったようで、ウリルルにあっさりと却下された。
「男って大変だね」
メアリちゃんの同情が心に沁みて仕方なかった。




