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25.子供に触れちゃだめですよ

「お姉ちゃん、だれ?」


 ベッドで呼吸を荒くして横になっている少女はメアリと言い、ライオネルの妹である。

 魔力過多症候群という病に侵されており、放置しておくと、自身の魔力が原因で肉体の形を保持できなくなるという、恐ろしい病を患っていた。


「私はサンと申します。貴女のお兄さんの知り合いですよ」


「お兄ちゃんの……。お兄ちゃんはどこ?」


「今はいろいろと準備をしています。安心して下さい、メアリの病気はもう直ぐ治りますから」


「お姉ちゃんはお医者さんなの?」


「違いますけど、メアリの病気の治し方は知っています。一時凌ぎですけど、今はこれで我慢して下さいね」


 サンはメアリの額に手を当てると、回復魔法を流し込み、その体に宿った異物を除去していく。

 その感覚が心地良かったのか、メアリは穏やかな顔になり落ち着いた呼吸を取り戻す。そして、サンによる治療が終わると寝息を立てて、熟睡していた。


「まったく、誰がこんなことを……」


 サンは悪態を吐くと、メアリの布団を直して部屋から出た。


「どうだった?」


 扉の向こうには、アルミーとライオネル一向が待っており心配そうにしていた。

 仮にもFランクという、最終ランク冒険者が診てくれるのだ。もしかしたら、完治させる方法が分かるかも知れないという期待が高まっていたのだ。


「一時的にですが、病状を和らげることは出来ました。ですが、あくまで一時凌ぎに過ぎません。完治するには治療薬が必要でしょう」


「完治? メアリの病気は治らないって……」


「私はエアールブ大公国の出身でして、メアリの患っている病は、あちらでは治療可能とされています。その治療薬の作り方も知っているので、安心して下さい」


「……本当に?」


 サンの言葉を信用しきれないライオネル。

 本心では期待していたが、実際に治療法があると分かると狼狽えてしまうのだ。


「ええ、本当です。ただ森の奥に行くのに、変わりはありませんが」


「本当に、本当に治るのか、メアリが、元気に……」


 嬉しさの余り震えるライオネル。

 それを察したマイとルークが良かったねと、感動した様子でライオネルを慰めていた。


「明日から、私とアルミーで森に向かいますので、薬が出来るのは早くても三日後になります。それまでは、他の薬は飲ませずに待っていてください」


「薬を?」


「はい、治療薬の働きを阻害する恐れがありますので、他の薬は控えて下さい」


 そこは強い口調で忠告する。

 まともな薬ならば、飲ませても別に問題はない。まとも、ならばの話しだが。


「では行きましょうかアルミー」


「うん」


 サンの呼び掛けに返事をしたアルミーは階段を降りていく。

 その二人の後ろ姿をライオネルが呼び止める。


「待ってくれ! 頼む、明日、俺も連れて行ってくれ!」


 その言葉に振り返ったサンは、何言ってんだこいつ、とその顔を見る。

 ライオネルの顔は真剣そのもので、冗談を言っているようなものではなかった。

 ならば、だからこそ言わなければならない、足手纏いだと、邪魔にしかならないと現実を突き付けなければならない。


「それは出来ません」


「足手纏いなのは分かってる。それでも、着いて行きたいんだ。頼む!」


「……それは、独りよがりで他人を犠牲にしてまで行いたいことなのですか?」


「えっ?」


「仮に貴方がモンスターに襲われたとします。それを救う為に、私達は動かなければなりません。それは私達が敵に背を向ける行為となり、隙を与えてしまいやられる可能性があります。たった一人を救う為に、他が犠牲になるんです。貴方はその覚悟があるのですか?」


「それは……」


 サンが言ったのは極論でもなんでもない。明日、向かう場所はそういう所なのだ。

 ぶっちゃけ、サン一人なら鼻歌を奏でながら無双可能な場所だが、アルミー含めライオネル達からしたら死地と呼ぶに相応しい場所だった。

 そんな危険な場所に行くのだ。相応の覚悟を持って来てもらわなければ困る。

 最低でも俺を置いていけくらいは言ってもらわなければ、連れて行く気はなかった。

 ライオネルの反応を伺う。何も答えれずに悔しそうにしており、期待した返答は得られそうもない。そう思ったとき、別の所から声が上がる。


「私達も行きます! ライオネル一人では無理でも、私達も一緒ならいいでしょ?」


 魔法使いのマイである。


「ライオネル一人で危険なら、俺達が行って戦力アップすれば問題ないだろ!?」


 それに続くように戦士ルークも声を上げる。


「駄目だ! 危険過ぎる⁉︎ 二人を巻き込む訳にはいかない!」


 パーティメンバーの提案を否定するライオネル。自分は良くて他人は良いのかと問いたくなるような言葉だが、ここはどう転ぶのか見てみようと傍観を決め込むサンとアルミー。


「私達はパーティなんでしょ? パーティは運命共同体って言ったのはライオネルじゃない」


「一人じゃ無理でも、俺が力を貸してやる。それに、ひとりで突っ走ろうとするな。最初に言っただろう、俺達を頼れって」


「二人とも……」


 拒絶するライオネルに、優しく諭すマイとルーク。

 仲間思いの良いパーティなのだろう。信頼して、互いに支え合い、共に成長するのを望んでいる。正に理想のパーティと言えた。

 きっと、どこぞの直志が見たら、嫉妬で狂って死んでいたかもしれない。そんな光景が目の前で繰り広げられている。


「すまない! 今回ばかりは力を貸してほしい! サンさん、俺達も行きます。きっと役に立ってみせます。連れて行って下さい!」


 ライオネル達は三人揃って頭を下げて、サンにお願いする。

 その熱い思いは十分に伝わった。

 アルミーが「足手纏いが増えただけじゃん」と至極真っ当なことを呟いているが、サンも「ですよねー」と思っているが、それでも連れて行こうと決めた。


「分かりました。明日の昼前から出発しますので、三日分の準備をしておいて下さい」


 サンの返答に頭を上げる三人。その顔は喜んでおり、はい!と元気よく返事をした。

 ところで、この三人は重要なことを忘れてやしないだろうか、とサンは心配になった。


「ときに、ライオネルさんが居ない間は、どなたがメアリの面倒を見るのですか?」


「あっ」




⭐︎




「はい、父から話は伺っています」


「すいませんが、メアリのことよろしくお願いします」


「よろしくおねがいします!」


 ある日、というか俺の延長を決めた次の日に、サンが少女を連れて道場に来た。

 一体何だろうと、そちらを見に行きたいが、突き一万本を言い付けられており見に行くことが出来ない。

 興味本位で、少しでもサボると、追加の一万本が待っているので絶対にサボれないのだ。


 恐ろしい。

 早くここから連れ出してくれないだろうか。

 一人で鍛錬をするのはしんど過ぎる。いや、何人でやってもきついんだけどね。

 それでも、一人で一万本やるより二人で五千本やった方が楽なのは確かだ。三人なら3,333本で残りの一本は仕方ないから俺がやってやろう。四人なら四分の一、五人なら五分の一と少なくなっていく。


 もしや、これは……


「そうか⁉︎ 今こそ分身の術を使うべきだ!」


「様子を見に来たらこれですか。現実逃避し過ぎて、夢と現実の区別が付かなくなって来てますね」


「サンさん!?」


 突然のサンからのツッコミに、思わず体が振り向いてしまう。

 ようやくか、ようやくこの地獄から解放されるのか……。


「期待しているところ申し訳ありませんが、違いますからね。三日間ほど、メアリを預けに来ただけですから」


「メアリ?」


 その疑問に答えるように、サンの背後に隠れている五歳くらいの女の子が顔を覗かせた。


「えっ? もしかして隠し…」

「そんな訳ないでしょう。知り合いの妹でして、これから森に向かう用事があるので、こちらで預かってもらえるようドリーさんにお願いしたんです」


「えっ!? 俺も行きたいんですけど!」


「直志は引き続き、道場で鍛錬です。これから行く所は、直志では何もできずに死ぬような場所ですので、連れて行くわけにはいきません」


「そこで、俺が覚醒するかも知れないじゃん⁉︎ 連れてってくれよ!」


「無理です。大人しくしといて下さい。お土産買って来てあげますから」


「子供じゃないんだよ! そんなんで誤魔化されるか⁉︎」


「それもそうですね……では、しっかりと鍛錬を積んだ暁には、この刀を差し上げましょう」


「なぬ!? 刀とな!?」


 サンがどこからか、ぬっと取り出した物は反りがある片刃の剣。

 それは間違いなく刀だった。


 欲しい。

 喉から手が出るほど欲しい。

 絶対に絶対の絶対に欲しい。

 主人公が使う武器の代表格である刀。

 つまり、俺が使うべき武器なのだ。


「欲しいですか?」


 分かりきった事を尋ねるサン。

 俺は首が取れんばかりの勢いで上下させる。今なら、土下座に足まで舐めれるかも知れない。


「それやったら、絶対に渡しませんからね」


「イエスマム!」


「では、大人しく鍛錬に励んで下さい。それと、メアリとは仲良くして下さい、良い子ですので」


 メアリと呼ばれた少女は、金色の髪を肩まで伸ばしており、年相応に可愛いらしい顔立ちをしている。

 ただ、その顔に既視感を覚える。

 メアリとは初めて会ったはずだが、不思議だ。まるで前世から知っているかのような……。


「……メアリはウリルルに預けておきますので、くれぐれも近付かないようにして下さい」


「おい、俺を危ない奴みたいな目で見るな。知り合いに似てるなって思っただけだからな」


 つーか、サンなら俺の考え読めてるだろうが。


「念には念のためです。メアリを傷付けるわけにはいきませんから」


「まだ五歳くらいの子供をイジメたりしねーよ!」


 まったく、俺を何だと思ってるんだ。子供を虐める趣味なんてないし、今の鍛錬で毎日疲れて相手する余裕もないんだよ。

 そう言うと、か細い声が聞こえてくる。


「……五歳じゃないもん」


「え? なに?」


「わたし、八歳だもん!」


 その声はメアリからのもので、悔しそうに涙目で自分の歳を告げた。


「あっごめん、間違えてたなら謝るよ。メアリちゃんは八歳だね、もう覚えたから。お兄ちゃんの九つ下だね」


 ごめんごめんとメアリの頭を撫でようとする。この行為は、子供を慰めるものだと思う。少なくとも、俺はそう思う。しかし、そう思わなかったウリルルにガシッと掴まれて、止まってしまう。


「子供に触れちゃダメですよ」


「え? 何で?」


「汚れちゃいますから」


「先生! それって酷くないっすか⁉︎」


 なに⁉︎ 俺ってそんなに汚いの!?


「少なくとも汗に塗れてはいますね」


「仕方ないじゃん! ここ道場なんだからさ⁉︎」


「いえ、ウリルルが言いたいのはそう言う事ではなく……」


「あー言わなくていい!言わなくていい! だいたい察したから! 俺の心を抉るようなことは言わないで!」


 ただでさえ疲れているんです! これ以上、俺を追い詰めないで!

 その願いが届いたのか、仕方ないですねとサンは呟いて、


『直志が危険人物に見えるからですよ』』


 と、わざわざテレパシーを使って告げてきた。きっとこいつは、俺を追い詰めないと気が済まないんだろうなぁと思いましたマル。

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