23.設定てんこ盛り系美少女ウリルル
「先生、ありがとうございました」
「はい、タダシ君も良く頑張りましたね」
「それもこれも先生のおかげです。お世話になりました」
「はい、じゃあ、袈裟斬り一万本やりましょうか」
「先生、ありがとうございました。だから、俺を帰して下さい〜」
銀髪爆乳エルフ美少女僧侶イン癒しボイスという、てんこ盛りな設定のウリルルは、俺に死刑宣告をして剣を振らせようとする。
もう、かれこれ十日目となる道場での日々。
毎日体が動かなくなるまで鍛えさせられ、動かなくなってもウリルルの回復魔法で回復させられるという鬼畜仕様。
俺に明日はあるのかと問う地獄の日々を送っていた。
一度は、遂に終わりの日がやって来た!とテンションが上がった時があった。
そう、一度だけ待ちに待ったサンが俺を迎えに来たのである。
「直志はどんな感じでしょう?」
「正直、ちょっと……」
「では延長をお願いします」
というやり取りがあったのが三日前。
何やらゴタゴタがあったらしく、俺に報告をするつもりだったようだが、何故か延長して去ってしまったのだ。
「はーい、まだ千回ですよ。へばらないで、しっかりと一振り一振り意識してね」
いや、おかしくね?
連れて帰ってよ、俺をこの地獄から解放してよ⁉︎
そんな怒りの感情を込めて剣を振る。
最初はぶれぶれだった剣筋も、それなりに鋭いものになって来ており、今の実力はアルミーにも負けないものになっていた。(願望)
「あっ限界そうですね、回復魔法かけますね。じゃあ次は横一文字一万本頑張りましょう」
銀髪の悪魔(僧侶)が俺を地獄から、また別の地獄に突き落とす。
一応言っておくが、一度だけやってられるかと反発した。だが、その瞬間にウリルルは地面を強く踏み込み、割ったのである。
そう、足を強く踏んだだけで、地面が割れたのだ。
こりゃあかん、逆らったら殺される。そう悟ると、俺は腹這いになり、完全降伏を決めたのである。
「ひっ!ひっ!ひいー⁉︎」
「変な声出すと体力削られちゃいますよー。ちゃんと意識して、一振り一振りを大事にして下さいね」
笑顔のウリルルの手には、無骨なメイスが握られており、数人の血を啜っているような悍ましさが宿っていた。
きっと、弱音を吐いた奴らをそのメイスで撲殺してきたに違いない。
恐ろし、死にたくない。次も転生出来るならワンチャンなんて思わなくもないが、ここで死にそうになっても、無理やり悪魔(僧侶)の手により回復させられそうなので意味はない。
「おう、今日も頑張ってるな」
「お父さんお帰りなさい」
ドワーフのドリーが役所から帰って来た。
元Fランク冒険者という肩書きを持ちながら、役所で働いている。所謂、公務員というやつだが、サン曰く、最高ランクの元冒険者がやるような仕事ではないそうだ。
元高ランクというだけで、多くの所から声が掛かり、その中から最も条件が良い所を選べば良いのだが、ドリーは何故か安定の公務員を選んでいる。
別に公務員が悪い訳ではないのだが、寧ろ羨ましいのだが、そこのところを、以前、尋ねてみたことがある。
訓練が辛すぎて尋ねた内容だが、その流れでウリルルの話も聞いてしまった。
⭐︎
ウリルルの出身地は、今は亡きアルルプルス国という小国だった。
アルルプルス国は北国というのもあり、一年の殆どが雪に覆われていた。
雪国というのもあり農作物の栽培は難しく、国民の食料を賄うのは不可能だった。その為、食料の殆どを輸入に頼っており、多くの外貨が必要な状態だった。
そんなアルルプルス国の産業は、主に鉱山に依存していた。
アルルプルス国の鉱山には豊富な資源が眠っており、採掘を行い加工して輸出していたのである。その中でも取り分けて高額なのが、魔法鉱石と呼ばれる魔力の塊のような鉱物だった。
魔法鉱石は魔道具の燃料にもなれば、錬金術の素材にもなり、果ては戦争の道具としても活用できる優れ物だった。
小国ながらも、それなりの力を持ったアルルプルス国だが、特徴がもう一つあった。
それは、伝説のドラゴンが彼の地を守っているというものだ。
俄には信じ難く、眉唾物の噂話と捨てるには無視できない出来事もあった。
それは、アルルプルス国に災害のようなモンスターが襲い掛かったとき、ドラゴンが現れてモンスターを滅ぼしたり。隣国に攻め入れられた際、ドラゴンが姿を現し戦争を終結させたということが、実際に起こったのである。
ドラゴンに守護された国、アルルプルス。
その国が、守護していたはずのドラゴンの手によって滅ぼされたのである。
冒険者として活動していたドリーは、パーティメンバーと一時的に別れ、ドラゴンを一眼見ようとアルルプルス国に来ていた。
比較的、暖かい時期に来たつもりだったが、日が翳ると凍えるように寒くなり、寒さに弱いドワーフとしてはかなり辛い国だった。
アルルプルス国に到着したドリーは、現地の冒険者ギルドに向かい、早速ドラゴンを一眼見るための方法を尋ねた。
だが、そこに居る者全てが「分からない」「知らない」といった反応をする。
そこに、ドリーを警戒するような感情は見て取れず、本当に知らないのだと理解した。
「無駄足だったか」と思いながらも、一週間ほど方法を探り歩いた。その結果分かったのは、この国がピンチになるとドラゴンが姿を現すというものだった。
そりゃ無茶だと諦めて明日帰ろうと思っていたドリーは、この時の決断を後悔する。
もっと早く帰っていれば、冒険者を引退せずに済んだのにと。
それは突然だった。
王城が爆発し轟音を上げながら崩壊したのだ。
この国の象徴である美しい白亜の城が、見るも無惨な姿になっており、誰もがその光景を信じられずに唖然と見ていた。
そして、白亜の城を破壊した存在が姿を現す。
城と同じように、白いドラゴンが空へと舞い上がったのである。
ドラゴンは一度旋回すると、鉱山に向かって攻撃を開始する。
強力な魔法で、ブレスで、その爪で、牙でこの国の主要産業を破壊尽くしてしまう。
そして、また戻って来る。
王城のあるこの町はパニックになり、大勢の人々が悲鳴を上げながら必死に逃げ出す。荷物は無く、ただ己の命を守る為に多くの人がこの国から逃げ出したのだ。
そんな中でも立ち向かう者はいる。
フル装備に身を包んだドリーである。
ミスリル製のフルプレートアーマーはドワーフの名工によって作られ、その手に持つバトルアックスはアダマンタイト製の伝説の武器の一つだ。
そして、それを扱うのは冒険者ランクFという人外の強さを誇るドリー。
逃げる人々に、ブレスを放とうとするドラゴンをバトルアックスが襲う。
ドゴッと鈍い音が響き、横倒しになるドラゴン。
その衝撃で、ドラゴンの身から鱗が落ちて地面に落ちるが、今の一撃が与えたダメージはそれだけだった。
「あーこりゃヤバいな」そう呟いたのは、バトルアックスを振り抜いたドリーだ。
奇襲による全力の一撃。
その攻撃の結果がこれでは、勝てないと悟ったのである。そして、攻撃を仕掛けた以上、ドラゴンは逃がしてはくれないと理解していた。
そこからは、ただただ時間を稼ぐだけの立ち合いに以降する。
勝つことも生きることも諦めたドリーは、少しでも多くの人が逃げられるように立ち回る。
ドラゴンの爪を受け、牙を避け、ブレスを掻い潜り、魔法から逃げ回る。
時折、接近して攻撃を加えるが、それほどのダメージは通らない。
これを出来るだけ続けようと考え実行しようとして、それは早々に失敗する。
倒壊する建物に、少女が取り残されているのを見てしまい判断を誤ってしまった。
バトルアックスの一閃で窓を破壊して、即座に少女を救出すると、ドラゴンの尾をくらってしまったのだ。
本来なら、少女を見捨てるべきだった。
その方が、多くの住人を逃すことができ、多くの命を繋ぐことが出来たのだから。
建物に勢いよく叩き付けられ、ドリーは血反吐を吐き出す。負傷しながらも、腕の中にいる少女は無傷であり、守り抜いたのだと安堵する。
それでも、このままではドラゴンに殺される。
だから、最後に足掻いてやろうと決心する。全心全力の一撃で、ドラゴンを倒そうと力を限界まで込める。
冒険者ドリーの一撃は、ドラゴンのアギトを砕き肉の一部を切り取った。
恐らく、これがドリーの限界だったのだろう。それ以上は進まず、ドラゴンの爪によってミスリルの鎧ごと切り裂かれたのである。
深い傷を負い、薄れていく意識の中でドラゴンを見る。
その目は先程までの凶暴なものではなく、慈愛に満ちたものに変わっていた。
次に目覚めると冒険者ギルドの病室だったそうな。
そして、その隣には助けた少女の姿があった。
あの後どうなったのか、助けてくれたギルド職員に聞くと、ドラゴンはこれ以上の被害を出さずに去って行ったそうだ。
そして少女だが、残念なことに両親は亡くなっており天涯孤独の身になってしまった。
ドラゴンに受けた傷が原因で、冒険者を続けられなくなったドリーは、これも何かの縁だと思い少女を引き取った。
こうして天涯孤独の少女ウリルルは、ドリーの娘となった。
「ドラゴン、倒してないやん」
きっとその言葉は吐いちゃいけなかったんだろうなと、ウリルルの鋭い眼光を受けて悟った。




