表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

2.誰もチートは肉体に宿るとは言ってない

「はっ!?」


 目を覚ますと、そこは木の下だった。

 そこは知らない天井じゃないのかとツッコミたかったが、残念な事に一人で言っても虚しいだけである。


 俺は起き上がると、木に手を付いて頭を抑える。別に苦悩しているフリとかではない、ただの立ちくらみだ。


 暫くすると立ちくらみも治り、周囲を見渡した。

 俺が居る木から100メートルも歩けば、道らしき物が伸びているのが見える。


 よしそこまで行こうと思い、歩き出そうとして重要な事に気が付いた。


「俺、全裸やん」


 まさか生まれた姿で異世界に放り出しますかね、神様よう。確かに異世界では生まれたばかりかも知れないが、このままだと露出狂として逮捕されてしまう。

 いや、ここは異世界だったな。

 もしかしたら全裸がスタンダードな世界の可能性もある。服を着ている方が恥ずかしい的な世界観とか。


『そんな訳ないでしょう、早く服を着て下さい。木の根元に置いてありますから』


「誰だ!?」


 急に近くから声が聞こえて来たので、驚き周囲を見渡す。しかし、そこには誰もおらず、上空に太陽が二つあるだけだった。


「なんだ、気のせいか」


『いえいえ、気の所為ではありませんよ。私はここにいますよ』


 声は上から聞こえてきており、空を見上げても大きな鳥が飛んでいるだけだった。

 何だろう、鳥を見ると不安な気持ちになるのは。


『それはトラウマですね。転生前に襲われた恐怖が、心に刻まれたようです』


「また聞こえた⁉︎ どこだ! どこに居る!? 姿を見せろ卑怯者!?」


『ですから、ここに居ますよ。ご主人様の上に、さっきから太陽と思ってる。そう、それが私です』


「お、おお、太陽が喋ってる」


『……驚きの割には、反応がたんぱくですね』


 二つの太陽のうち、一つが俺に向かって話しかけて来る。もしかして、この声の主は神様の一人なのかも知れない。

 一応拝んでおこうと、土下座してへへ〜と頭を下げておく。


『何やってんです? 私は神様ではありませんよ』


「じゃあ何なんです? 貴方様は天にまします方ではないのですか?」


『違いますよ、強いて言うならご主人様の一部です』


「一部?」


『はい、一部です。神様が、ご主人様に入りきれなかった力を固めて作り出したのが私です』


 ふむふむと太陽の一つの説明を聞くと、神様は俺にチートを与えようとしたようだが、これ以上力を注入すると、俺の魂が破裂しそうだったので、俺のサポート役として太陽を作り出したそうだ。


「そうか、じゃあ頭を下げなくて良いんだな?」


『頭を下げる発想が出て来るあたり、ご主人様がサラリーマンになったら大成しそうですね』


「褒めるなよ、照れるだろ」


『……褒めてないですよ。それはもういいので、早く服を着て下さい。モンスターがご主人様をロックオンして急降下してますから』


「へ?」


 俺の一部だと言う太陽から視線を外し、背後を見てみると、先程の大きな鳥が俺に向かって急降下して来ていた。


「うおおぉぉーー!!」


 絶叫して木の影に隠れると、鳥が通過すると同時に、木の上半分がへし折れた。

 バキバキと折れる木は、俺の方に倒れて来るので、急いでその場から退避する。


 大きな鳥を見ると、旋回してまた向かって来ようとしている。このままでは、俺は鳥の餌になってしまうだろう。早く逃げなくてはと、ほんのちょっとだけ考えるが、いや待てよと踏み止まった。


「俺、チート貰ってるんだよな。ならそのチートで倒せる筈だ。そうだ、これはゲームで言う所のチュートリアル的なやつじゃないのか? チートを初披露する為の、物語の導入部分だ。きっとそうだ!」


 俺は手を掲げて、大きな鳥のモンスターに向かって叫ぶ。


「ファイアボール!!」


 俺の呪文が辺りに響き渡り、巨大な火球が発射され……る事はなかった。

 手を掲げた状態で固まる俺は、困惑する。

 おかしいな、神様に願ったチートの一つに無限の魔力があった筈だ。だから魔法も使えるのは当たり前で、ここで格好良くモンスターを倒す流れのはず。

 もしかしたら、魔法のチョイスを間違えたのかもしれない。

 そうだ。きっとそうだ。望んだチートの一つに全属性魔法の適正なんてのも考えてたが、幾ら神様でもチートガン積みは難しかったのだろう。


 俺は気を取り直して詠唱する。


「ウィンドカッター! アイスランス! ウォーターボール! ロックバレット! 何でも良いからなんか出ろぉ!!」


 赤面して絶叫するが、手から何も出て来ない。これだけ叫んでも、出るのは唾だけだ。


 おかしい、まさか俺に魔法の適正は無いのだろうか? まさか肉体言語で語り合えとでも言うのか?


 まさか魔法チートではなく、肉体チートの方だったとは思いもしなかった。

 俺は腰を落として拳を握る。

 残念ながら、俺に格闘技経験は無い。しかし、あの神様の自信満々な言葉を信じるのならば、この一撃であの鳥は爆散するはずである。


「すぅ〜、はぁ〜、だりゃーっ!!」


 突き出された拳は、音を置き去りにして振り抜かれ、拳から拳圧が飛び出し、鳥を殺さんと迫る……事は無かった。

 何も起きない。

 そう、何も起きないのだ。


 ……おかしい、チートを貰ったはずだ。もしかして蹴りの方か? はたまた武器を使って無双する系の方か?


『何やってるんです?』


「見れば分かるだろ、あの鳥を倒そうとしてるんだ」


 俺の一部だと言う太陽は、トンチンカンな事を言い出す。ここであの鳥を倒さないと、チュートリアルが終わらないのだ。チュートリアルが終わらないと、物語が進まない。全世界共通の常識だ。


『どこの世界の常識か知りませんけど、逃げないと死にますよ』


「んな馬鹿な、チートを持った俺に敵はいない。俺ツエー物語はここから始まるんだ」


『全裸で言われても説得力ありませんね。今はご主人様の奇行に警戒して襲って来ませんが、モンスターがその気になれば、一瞬でミンチにされますよ」


「んなアホな。因みに逃げたとして、逃げ切れる可能性はあるのか?」


『0.1%の確率で逃げ切れます』


「死亡確定じゃねーか! 逃げるなんて選択肢は無しだ!」


『逃げなかった場合は100%死にますよ』


「……もしもの話をするが、もしかして、俺にチートは備わってないのか?」


『それは大丈夫です。しっかりとチートは備わっています。ですが、ご主人様の肉体だけでは、あのモンスターに勝てないというだけの話です』


「じゃあ、どうすれば良いんだ?」


『逃げて下さい。若しくは、私に頭を下げてお願いして下さい』


「は?」


『私に助けて下さいとお願いするんです。さすれば、たちまちにあのモンスターを倒して見せましょう』


「何を言って…」


『さあ、どうします? モンスターは、もう待つ気はないようですよ。このまま、何も出来ずに死にますか? この世界で何もせずに死にますか? さあどうします? 時間は待ってはくれませんよ』


 太陽がどうするのかと問う。

 そんなの決まっているだろう、俺はテンプレートに染まった世界で俺ツエーがしたいのだ。ここで頭を下げてしまえば、俺の目標が遠ざかってしまうではないか。

 退かぬ、媚びぬ、省みぬの精神で行くべきだ。


 だから……。


「助けて下さい! 俺はまだ死にたくないんです!」


 その思いも命あっての物種である。

 テイオウ様の精神は、生き延びた先で抱くとしよう。


『良いでしょう、ピカッと倒して見せましょう』


 次の瞬間、ピカッと輝き、落雷がモンスターを貫いた。

 雷に貫かれたモンスターは、勢いを失って大地に落ちる。風に乗って漂う匂いは、何だか食欲を唆るものだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ