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16.俺の生き甲斐がー⁉︎

 午前中の仕事が終わり、昼休憩となる。

 この仕事も慣れたもので、最初は痛かった腰も今では何ともないどころか、やる度に絶好調になっているような気がする。


「おーい、ランチセット持って行ってくれー!」


 現場監督のドワーフのおっさんが、籠を抱えて歩いて来る。

 力が強いイメージのあるドワーフだが、このおっさんは例外なようで、ふらふらとした足取りである。


「おいおい無茶すんなよドリーさん。あんた腰やってんだろ?」


「これくらい何でもないわい! 昔の古傷が少し痛むだけだ」


「古傷ってあんた、酒によって銅像持ち上げたせいで腰やっただけだろうに」


「違う! これはドラゴンに傷を負わされて」


「ホラ吹くのも止めとけって、みーんな知ってんだからさ」


「ぐぅ!?」


 ドブさらいをしている冒険者から指摘されて、ドリーは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

 ぐうの音も出ないと誰かが言っていたが、案外、リアルで聴けるものなんだなと感心した。しかし、


「チッ、何だ見栄っ張りかよ、期待して損した」


 ドラゴンなんて胸熱な名前が出て来たのに、それが嘘だと分かってつまんねと舌打ちしてしまう。


「何してるんだ? 早く取りに行こう」


 そんな俺に声を掛けたのは、金髪の少年のライオネルだ。

 このドブさらいの仕事で知り合ってから、話をしていくうちに仲が良くなった。

 最初は気に食わない奴だと思っていたが、なかなか気の良い奴だった。

 何でも病弱な妹がいるそうで、薬代を稼ぐ為に頑張っているらしい。見た目も良く、心も優しい、そんなイケメンな少年。


「……妬ましいなお前」


「いきなり何だよ?」


「おもいっきり主役みたいな奴だと思って、俺の心が嫉妬してんだよ」


「何だよそれ?」


 頭を捻っているライオネルを置いて、ランチセットを取りに行く。

 包みを開けると、サンドイッチが入っており、木のコップにはレモネードが注がれていた。

 むしゃむしゃと食べていき、水分を取られた喉を潤すため、冷えたレモネードを流し込む。すると、ゲープッと喉からありがとうの喜びの声が返って来る。


「汚いな、それ止めろよマナー違反だぞ」


「安心しろ、ライオネルが隣にいる時にしかしないから」


「どんな嫌がらせだよ。それよりも、聞いたか?」


「聞いた。あの腰を痛めたおっさん、奥さんに逃げられたんだってな」


 何でも、腰を痛めた当日。給料が予定より少なかったことに腹を立てて、奥さんが逃げたそうだ。

 だが、この話はあくまでもおっさんから聞いた話で、事実とは少し異なる。

 何でも、貰った給料を全てギャンブルでスッてしまい、怒った奥さんに見限られたそうだ。

 完全に自業自得なのだが、おっさんは被害者ヅラしており、真実を知る奴らからは陰で笑われている。何とも可哀想なおっさんなのだ。


「……それじゃないんだけど、そっちも気になるな。 違うよ、この仕事が今日で終わりって話だよ」


「は?……はっ?はあっ!? 初耳なんですけどぉ!」


 おい、俺がおっさんを陰で笑ったからか⁉︎

 人の不幸を笑ったせいで、自分に返って来たってやつか⁉︎ そりゃねーよ神様よぅ〜。


「何でだ⁉︎ 二週間の予定だったんだろ⁉︎ まだ八日しか働いてないじゃないかっ!?」


「何で残念がってんだ? 原因はタダシらしいぞ」


「タダシだとぉ!? あいつか!あいつが何かやったのか⁉︎」


「タダシ落ち着け、お前がタダシだ。お前がやったんだよ」


 呆れた眼差しで俺を見るライオネル。

 おう、そうか、俺がタダシだ。落ち着こう、少し深呼吸して落ち着こう。


「スーハースーハー……それで、俺、何かやっちゃいました?」


「その顔と言い方、結構ムカつくな」


 キョトン顔で尋ねると、珍しくライオネルの眉間に皺が寄っていた。

 そんな顔でも絵になるので、こっちはもっとムカついているがな。


「タダシが働き過ぎたんだよ。ドブさらいを一人で五人分の量熟すから、整備予定地は今日で終わるらしい」


「マジでかっ⁉︎ ちくしょう! これなら、のんびり丁寧にやってれば良かった⁉︎」


 まさか、俺が仕事が出来るばかりに、肝心の仕事が無くなるとは思わなかった。

 せっかくコツを掴んで来たのに、金貨も八枚も手に入れたのに。これからもっと稼ぐ予定だったのに、計画が台無しだ。


 そして、何より……


「俺の生き甲斐が無くなってしまったーーー⁉︎⁉︎」


 四つん這いになって、余りの悔しさに嗚咽を漏らしてしまう。

 ライオネルはそんな俺を見て「えー、マジで言ってんのか?」と同情的な視線を送って来る。


 この世界に来て、初めて夢中になれた仕事だった。これが、俺の天職ではないかと思うほどにだ。それが無くなってしまった。目の前が真っ暗になるような感覚に襲われる。


 ちくしょうぅぅ。


「そんなに落ち込むのか? あと、今回早く終わったから、特別手当が出るらしいよ」


「そんなのどうでも良いわ! どうせ銀貨とか寸志程度だろ! それよりももっと仕事させろ!」


「どれだけドブさらいが好きなんだよ」


 お前には分からないのか⁉︎ ドブを掬う度に金貨が入っているんじゃないかというドキドキ感。無ければガッカリして、有ればテンション爆上がりの脳汁ドバドバだ。それはまるで、ゲームのガチャのように中毒性があるものだった。


「分からないよ、ガチャが何なのかもタダシの話も」


「チッ、このイケメンが」


「それは何となく理解出来る。きっと褒めてるんだろ?」


 ニッと笑って見せる表情がキラキラしていて、更に眩しく見える。

 無性に悔しくなって、ライオネルの肩を何発か殴っておく。それも、ただのじゃれ合いと思っているのか、あははと笑っていた。


 つーか、こいつの肩硬いな。ギャグとかじゃなくてマジで硬い。どんだけ鍛えてんだよコイツ。


「なあ、タダシ」


「なんだよ?」


「俺のパーティに入らないか?」


 突然の誘いだった。

 ライオネルの顔を見ると、その目は真剣なもので、揶揄いの感情は感じ取れない。


 俺は高速で思考する。

 ライオネルは間違いなくイケメンだ。だからライオネルの仲間は美人や美少女で埋め尽くされているに違いない。なんて羨まけしからんパーティなんだ。

 ここで俺が頷けば、ライオネルと美女だらけのパーティに加入して、一年もすれば追放されるだろう。しかもボロ雑巾のように扱われて。

 そこからの、復讐ならぬ無自覚ざまぁを開始しするのも良いのだが、俺には問題がある。


 それはサンというチートだ。


 俺が仲間になれば、あいつもセットなって付いて来る。俺が酷い扱いを受けたとして、サンがそれを許すだろうか……率先してやりそうだなぁ。

 そうなると、ザマァなんて夢のまた夢ではないか。あいつはチートだ。何でもありだ。神様から贈られたマジもんだ。やり返そうなんてしたら、更なる追い打ちが俺を襲うだろう。


 ……無理やんこれ。


「辞めとく。俺も一応だけど仲間は居るからさ」


 僅か1秒の逡巡で導き出した答えに従い、ライオネルの誘いを断る。

 まさか、ザマァチャンスが、チートを手に入れたばかりに不可能になるとは思いもしなかった。


「そっか、じゃあ仕方ないな。俺の仲間を紹介したかったんだけど、またの機会になりそうだな」


 寂しそうにしているライオネルだが、コイツとはまた出会いそうな気がして、ちっとも寂しいとは思えなかった。

 そして、その予感は当たり、暫くして冒険者ギルドで再開することになる。

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