11.誰も俺に配慮してくれない件について…
俺は主人公が無双する物語が大好きだ。
テンプレート化した物語で、設定の使い回しかよとツッコミたくなるような作品でも、無双してハーレムしてくれたら、俺はそれだけで満足していた。
だから転生するとき、チートを貰おうと神様にねだったのだ。だがその結果、貰えたのはサンという俺とは独立した存在だった。
今度、神様に出会ったら罵詈雑言浴びせて、謝罪してもらおうと思っている。
まあ、力でテンプレ出来ないなら、現代知識ですればいいかと思い、気を取り直していたのだが、これはどういう事だろうか?
どうして俺の前を列車が走っているのだろう?
異世界なんだから、中世ヨーロッパ的な世界観じゃないのか?
何だかおかしい。
俺が思っていたのと違う。
それに、列車だけでなく、ポラロイドカメラっぽい物で撮影している人の姿さえある。
薄暗い所には照明が着いており、しっかりと照らして見えるようになっていた。
この世界は宿場町のように、産業革命前のようなレベルだと思っていた。それがどうだろう、想像の百倍発展していた。
俺はそんなの望んでないのに、どうして世界は俺に配慮してくれないのだろう。
「別にタダシだけが生きている訳ではないですからね。寧ろ、ご自分が世界の異物だと認識しておいた方が良いですよ」
「俺のチートが辛辣過ぎて辛い」
この世界は独自に発展しているのだろうが、前世の世界と似たような発展の仕方をしている。
これはまさか、俺より前に転生者がいて、俺スゲーをやったのではなかろうか。
「同じ人という体で日々暮らしているんです。似たような発展をするのは、そんなにおかしな事ではないかと。それに、魔力を動力として使っていますので、発明次第では、前世の世界を超えていてもおかしくはありません」
「マジか、これはもう娯楽方面で勝負するしか……」
「そちらも、ボードゲームやら競技も確立していますので、これから参入するには、余程のインパクトとコネが必要になります」
「俺の希望が断たれた件について」
この世界にどんな娯楽があるのか知らないが、リバーシが既存の物を凌駕しているといは考え難い。それにコネなんて無いので、流通させられないどころか、俺が考えたゲームごと既得権益に奪われる可能性すらある。
「くそっ、汚い大人め!」
「バカ言ってないで行きますよ、許可が降りたようです」
スタング領領都アルマニア。
スタング伯爵が治める土地の中心であり、アルマニアの名前はスタング家を起こした開祖の名前だ。と書かれている。
今いるのは領都アルマニアにある役所。
その一階には各種手続きの他に、領都アルマニアがどう発展して来たのかが、時系列順に紹介されていた。
スタング伯爵家の成り立ちから、どう錬金術を取り入れて来たのか、どのような功績があるとか、直近の発明品がどのような物だとかいろいろだ。
まあ、それはいいとして、俺達は役所に入行の許可証と労働許可証を発行しに来ている。
別に観光するだけならここに来る必要はないのだが、旅費が心許ないという事で働く必要が出て来たのだ。その為には許可証が必要で、それを発行しに来ている。
因みに、どちらの許可証も保証人が必要であり、ハンスさんが名乗りを上げてくれた。
馬車の修理をしただけだというのに、ここまで気を使ってくれるなんて、なんて良い人なんだろう。
本人は「これから長い付き合いになりそうですし、縁を繋いでおきたいという打算もあります」と言っていたが、それでもありがたい。人に騙されないか心配になるくらいだ。
「こちらが身分証と許可証になります。紛失した場合、隣の窓口で手続き下さい。再発行はマギロニカ金貨1枚が必要となりますので、ご注意下さい」
役場の窓口で、何度も説明して来たのだろう受付が、機械的に説明して、2枚の写真付きのカードを手渡してくれる。
俺のカードの表にはタダシという名前と年齢、顔写真が表示されており、裏面には保証人のハンスさんの名前が載っている。
アルミーも同じようで、何故だか知らんが嬉しそうにしている。
「ん?サンはサンで登録したのか?てか出来るのか?」
「問題ないようです。あくまで保証人が必要という事ですので、私達が何かすればハンスさんが責任を負うという証明の物に過ぎません」
「そうなのか?」
「とは言え、これは戸籍に近い役割も担っているので、とても重要な物であるのに変わりないです」
「へー、でも保証人がいれば作れるなら不正が……」
「その心配はないようです。恐らく前例があるのでしょう、魔力による認証で登録を行っているらしく、それからは不正は行われていないようです」
「ふーん、考えてんだなぁ」
「ですので、タダシは無駄な口出しする必要はないですよ。面倒は起こさないで下さいね」
「そ、そそそ、そんなことないやい!」
少し窓口のお姉さんに、身分証の穴をつついてやろうと思っただけだ。
別に俺の知識スゲーがしたかった訳ではない。ちょっとクレーマー気分を味わいたかっただけだ。
「なお悪いですね」
「ねえねえサン〜、私可愛くない?」
満面の笑みでサンに身分証を見せているのはアルミーだ。
身分証に写った写真のアルミーは頭の上でピースをしており、可愛らしくキメ顔をきめている。
こんなんでも良いのかと思わなくはないが、既に出来上がっているので、良いのだろう。
それなら、俺もやっとけば良かった。
「ええ、大変可愛らしいですよ」
「だよねだよねー!」
子供のようにはしゃぐアルミーを微笑んで見守るサン。
これを見て、昨日、殺し合いをした仲だとは思えない光景だ。どちらも昨日の出来事を気にしないほど神経が図太いのか、忘れてしまったのかのどちらかじゃないと、説明が付かないレベルだろう。
……ん?
「なあアルミー、そんなにサンと仲良くして大丈夫なのか?」
「なにが?」
「いや、その、ほら昨日のとかさ……」
「なによ、私とサンは前から仲良しよ!」
「前から……ひっ!?」
アルミーの目を覗くと、ぐるぐると渦を巻いており思わず絶句する。
まさかと思い聞いてみたが、案の定だった。アルミーは昨日の記憶改変の魔法で、何やらおかしくなっている。主に頭が。
こりゃあかんと焦って、どどど、どうしようとサンを見ると、女神の微笑みを浮かべて。
「知らぬが仏、と言うでしょう」
放置する方向のようだ。
ま、まあ、本人が無事?なら問題ないのだろう。
これを無事と呼ぶかは、その人次第だが。
「皆さん許可証は貰えましたか?」
ハンスさんが役場の前で待っており、俺達を迎えてくれた。
許可証は貰えたと伝えると、ハンスさんは一安心と言った様子だった。どうにも、ハンスさん自身が保証人になるのは初めてのようで、ちゃんと申請が通るのか心配だったのだとか。
大丈夫でしたよーと伝える前に、サンが一歩前に出た。
「この度は過分なご配慮、私達を信頼に値する者と認めて下さり、感謝申し上げます。期待に応えれるよう尽力いたしますので、今後ともよろしくお願い申し上げます」
「えっ?あっ?はい、ええ、それはもう!はい!頭を上げて下さい!」
突然のサンのお礼に、ハンスさんが焦っている。人通りは少ないとは言え、深々と頭を下げて注目を集めるような行いは、こんな所でするべきではない。
それにハンスさんが言っても頭を上げる様子はなく、馬車が一台通り過ぎてから漸くして頭を上げた。
「落ち着きましたら、ハンスさんのお店に寄らせてもらいますので、その時はよろしくお願いします」
サンが告げると、ハンスさんも頷きお待ちしていますと言って帰って行った。
ハンスさんのお店の場所は聞いているので、いつでも会いに行けるのだが、見も知らぬ俺達に良くしてくれた人との別れは一抹の寂しさを覚える。
俺はハンスさんの背中に向かって、ありがとうございましたと頭を下げて、感謝の念を送った。




