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10.新たな同行者、その名はアルミー!

「おはようございます」


「ハンスさん、アンネさんおはようございます」


「おはようございます」


 朝、目覚めてから食堂に向かうと、ハンスさんとアンネさんが待っていた。六人掛けの席を確保してくれており、一緒に食べようという事らしい。

 朝食はバイキング形式で、トレーに皿を乗せ、色んな料理を乗せていく。バランス良く取るべきなのだろうが、どうしても茶色の料理が多くなってしまう。


「偏った食事は万病の素ですよ」


「分かっちゃいるけど、欲望には逆らえない」


 席に戻ると、ハンスさん達も取って来たようで朝食の準備は完了している。

 食事の味は、まあ普通。

 作ったことがない奴が言うなという話だが、本当に普通の味。逆に言うと、朝食ならしつこい味ではなく、これで良いと思える物となっている。

 昨日の夕食が美味しかった事を考えると、良く考えて作られているのかも知れない。


「タダシ、それ取って」


「はい」


 褐色の少女にソースの入った瓶を渡す。

 このソースも昨日の物とは違っており、あっさりとした味わいだ。


「この宿の食事は評判なんですよ」


 とはハンスさんの言葉だ。

 確かにと納得出来る食事だった。美味い不味いだけでなく、その時々に合った食事。一日の始まりに美味しい物を食べるのは活力になるが、食べ過ぎては動けなくなる。その点を配慮しての食事提供と考えるなら、この宿が評判にもなるのも納得だ。


 朝食も終わり、出発の準備をする。と言っても、殆ど荷物を持っていないので、鞄にある分だけだが。

 これから出発して、スタング領に到着するのは夕方頃になるらしい。何かトラブルがあれば野宿なのだとか。久しぶりにベッドの恩恵を受けた身としては、是非とも予定通り到着して欲しいものだ。


「タダシは軟弱ね、予定通りに進まないなんて良くあることよ」


「そうですね。ですが、本日は天気も良さそうですので、安心して良いですよ」


 流石サンさんである。どんなトラブルがあってもサンの力で解決してくれるだろう。


 ん?待て待て!

 何でイベントの発生を嫌がってんだ!?ウェルカムトラブルだろ!?俺を活躍させる場面を寄越せ!


 己のアイデンティティを失いそうになるが、必死に鼓舞して俺は自我を取り戻した。


「失うべきモノだと思いますよ」


「やかましい」


 そんなこんなで、ハンスさんの馬車に乗り込み宿場町を後にする。

 サンの言った通り快晴で、穏やかな風が吹いており、長閑な風景が流れて行く。時折、モンスターが姿を現すが、人を襲うほど強い種類ではないので、気にする必要はない。

 あの時出会った、鳥のモンスターやトロールは特別強いモンスターだったようで、人里に近い場所では早々現れないのだそうな。


「ねえ、飲み物くれない?」


「どうぞ」


「ありがとう」


 そのおかげか、馬車の中は緊張感はなく、空を飛ぶ鳥の鳴き声を聞きながら、俺達はくつろいでいた。

 だから、朝から気になっていた事を尋ねようと思う。


「なあ」


「なに?」

「何でしょう?」


「どうしてアルミーがいるんだ?」


 俺の問い掛けに驚く二人。

 まさか今頃気付いたのと言った様子だ。更に言うと、ハンスさんとアンナさんも驚いている。

 すげーバカにされてるみたいで腹が立った。


「朝からいたので、タダシが許可しているものだと思っていました」

「当たり前のようにいるので、てっきり仲間の方なのかと」

「もしかして、誘拐、ですか?」


 上からサン、ハンスさん、アンネさんの言葉だが、アンネさん、貴女が俺をどういう目で見ているか良く分かりました。


 とは言え、それよりも今はアルミーである。


「何でここに居るんだよ、目的はもう無いんだろ?」


 真剣にアルミーの目を見て話すが、アルミーは気まずそうに視線を逸らす。何か事情があるのかも知れない。

 俺は心配になりアルミーの言葉を待った。


「タダシが変質者の目ぇしてる」


「馬車から落としたろかこのヤロー!?」


 心配して損した。

 馬車の前の方からは「やっぱり」と納得の声が上がっているが、何がやっぱりなのかさっぱり分からない。


「スタング領に用事でもあるのか?」


「ん〜そうだね〜、あるような〜ないような〜」


「どっちだよ」


「どちらかと言うと無い」


「じゃあ何で付いて来てんだ?」


「無いから」


「何が?」


「帰る場所が無いから、私を一緒に連れてって」


 両手を顔の前で組み、潤んだ瞳で懇願してくる。

 なかなか可愛らしいじゃねーか。これだけの容姿なら、ハーレムメンバーの一人に加えてやらなくもないが、ないが……やっぱ無いわ。


「いや、俺達忙しいから他当たってもらえる?」


「なんで⁉︎ 私、結構可愛いよ! 見てよ私の愛らしい瞳! すらっと伸びた鼻! ぷっくりとした唇! そして需要しかないこのボディ! 養いたいって男、結構いるんだよ! タダシみたいな冴えない男じゃ一生ありつけない女だよ!?」


「そこまで自信満々なのは、ある意味尊敬するわ。あとナチュラルにディスってんじゃねーよ、この幼児体型が」


 何で昨日、サンを止めたんだろう。

 いらん正義感出したせいかな? 今からでも遅くないかな? サンにお願いしたやってくれるかな?


 チラリとサンを見る。


「嫌です」


 良い笑顔で拒否されてしまった。自分の思い通りにならない俺のチートは、返品交換出来ないのだろうか。どうでしょう神様。


「それだと死ぬしかないですね」


 いつでも請け負いますよみたいに、きらりと手刀が光る。

 ごめんなさい、遠慮しときます。


「そもそも、アルミーは良いところのお嬢様だったんだろ? だったら実家に帰れよ」


「それが出来ないから言ってんの!」


「何で?」


「だって私、もう死んだ事になってるから」


 それを聞いて、俺は理解した。元の世界でも一定期間行方不明だと死亡届を出せると聞いたことがある。きっと似たようなものがこの世界にもあるのだろう。


「だったら親にお前の無事な姿見せてやれよ、きっと喜ぶぞ」


 そして、早く俺の前から消えてくれ。なんてことは言わずに言葉を続ける。


「アルミーがいなくなって、ご両親はきっと意気消沈しているはずだ。食事も喉を通らないくらい心配しているだろうし、親の事を思うなら帰ってやれよ」


 俺はアルミーの肩を叩いて説得する。

 すると、俺の思いが届いたのか、短刀を突き付けられた。


 なんで?


「汚い手で触るなよ」


「あっはい、ごめんなさい」


 それは何ともドスの効いた声だった。

 俺のキ○タマが縮み上がるくらいには迫力があった。てか、さっきまで自分をアピールしてたのに、180度態度が変わってますやん。

 そんな俺の困惑を無視してアルミーは言葉を続ける。


「今更帰れない。師匠に頼んで死んだように偽装してもらったし、パパとママが悲しまないように演出もしちゃったから」


「演出って何やったんだよ?」


「悲しんでる二人に薬を嗅がせて、意識を朦朧にさせて、夢っぽく思わせて、私のことは忘れて幸せになってって伝えたの。そしたら、弟と妹が出来てた。もう引くに引けないのよ!」


「自業自得じゃねーか! 今すぐ帰って謝って来い!?」


 顔を手で覆い、悲しみの声を上げるアルミー。まったくもって同情は出来ない。親の思いを蔑ろにしやがって、ふざけた奴だ。


「オマイウって言葉知ってます? 一度、鏡見た方がいいですよ」


「確かにそうだな。おいアルミー、一回自分の顔見て、どんなに酷いことしてたのか自覚しろ!」


「話が通じてないとは思いませんでした」


 普段は澄ました顔のサンだが、アルミーの行いに珍しく驚いた顔をしている。

 それだけ酷いことをしたっていうことだ。


「自分に非がないと信じた人間は、本当に面倒なんですね。それよりもアルミー、貴女の実家はどちらにあるんですか?」


「エアールブ大公国の公都にあるよ、スチールケル商会ってとこ」


「スチール蹴る、何だか遊んでそうな名前だな」


「大商会です。大公国の中でも五指に入る程の商会ですね。以前、誘拐事件が起きたのを記憶してますが、その時の少女が……」


「多分、私」


 深刻そうな顔で言っているが、さっさと帰れという結論にしか至らない。

 仮に実家まで送れなんて言われても困るし、そもそもサンの体が半ば国外追放状態にあるので、エアールブ大公国には入れない。

 だから、さっさと一人で帰ってくれないだろうか。

 そう思っていたらサンに意外な提案をされる。


「直志」


「なんだよ?」


「アルミーの同行を許して欲しいのですが、良いですか?」


「……どうしてだ? 帰る家があるんなら帰るべきだろう」


「直志は、アルミーが無事に家に帰り着くと思いますか? そもそも、帰ろうとすると思いますか? どこかで野垂れ死ぬか、悪人に騙されて被害者になるのが目に見えてます」


「……確かに」


「何が、確かに、よ!? 人を何だと思ってんの! 私だってここまで一人で来たんですぅー! 一人だって帰れますぅー!」


「でも、帰らないんでしょう? 帰らなかったら何するんですか? 冒険者するにしても、貴女一人では登録も出来ませんよ。行き着く先は違法な風俗店がせいぜいです」


「うっ……」


「一緒に行きましょう、一人よりも確実に生存率は上がりますし」


 どうでしょうと手を差し出すサン、その手を恐る恐るといった感じで取るアルミー。

 散々煽られて躊躇いはあったようだが、一人では生きて行けないという自覚はあったのだろう。少し悔しそうな顔をしているのは、見ていて楽しいので俺としてはまあ良いだろうと言った感じだ。


「性格どころか性癖まで曲がってますね」


 サンの苦言を聞き流して、俺達はスタング領に辿り着いた。


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