1.異世界転生だ!
異世界転生というものに憧れて夢想したのは、これまでに何度もある。
神様からチートを貰って、異世界に行き、オレツエーして、ハーレムを築く。偶にNTRなんてスパイスを加えて、ザマァ出来たら文句は無い。
そんな素晴らしい夢が、今まさに叶おうとしていた。
「天吹直志よ、貴殿には申し訳ない事をした。本来死ぬべきでなかった貴殿の命を、我らの争いに巻き込み、無常にも散らせてしまった。誠に申し訳ない」
真っ白な世界、全裸で立っている俺の目の前に、神と名乗る爺様が頭を下げて謝罪していたのだ。
これは、あれだ。
チートを貰って異世界転生的なテンプレ展開のやつだ。
俺こと天吹直志は、高校の終業式の帰り道で、子供が車道に飛び出すのを目撃した。
すわ、これは転生のチャンスではあーりませんかと、鞄を放り投げて子供を助けに走ったのだが、その時は普通に助けてしまった。
いや、別に問題は無い。
無事、五体満足に助け出せたのだから問題は無い。ただ、期待をし過ぎただけだ。
だが、その後である。
帰り道にある神社の前を通ったとき、何故かカラスの大群に襲われたのだ。群れではなく大群だ。
一体何が起こっているんだと焦って逃げ出したのだが、相手は空を飛ぶ黒い死神。
逃げ切れるはずもなく、頭を何度も突かれてしまう。勿論、それだけでは死ぬ筈もなく、神社の境内に逃げ込んで事なきを終えた。
しかし、そこからが真の問題だった。
神社の境内には鏡が祀っていたのだが、その鏡を見た時、違和感があった。何かが足りない、よくよく目を凝らして見ると、肝心な物が映っていないのに気付く。
そう、映っていなかったのだ。
俺が、天吹直志の姿が鏡に映っていなかったのだ。
そして、その代わりに映っていたのは、男とも女とも判別のつかない化け物の姿だった。
その化け物の手には日本刀が握られており、ゆっくりとこちらに近付いて来る。
化け物が居るだろう方向を見ても何もおらず、ただ鏡に俺の代わりに化け物が映っているだけだった。
そして、化け物が無造作に刀を振る。
「え?」
短く声を発すると、俺の首が落ちた。
何が起こったのか分からず、地面を転がり体が倒れたのを見る。
「−あっ?」
最後に発した間抜けな言葉を最後に、俺の意識は遠のき光に包まれたのだ。
「あの、神様、謝罪はいいので、これからの話をしませんか?」
「おお、そうであったな。何故、貴殿が亡くなったのか事情を説ーーー」
「そういうのは良いんで、未来のお話をしましょう」
「ん?」
「未来の話です、未来の話」
神様は俺の話に着いて来れていないのか、混乱している様子だ。
ほら、神様なら分かるでしょ?
俺の心の中を読んで下さいよ。
俺が何を欲しているのか、謝罪なんて一円の価値も無いんだよ。謝るなら相応の物を下さいよ。
ねー神様?
「むう、なんとも欲深い奴じゃのう。こちらの非を盾に要求しに来るとは、何とも小物感が出ておるわ」
「小物でも何でも構いませんから、俺の望みは叶いますか⁉︎ チート下さい! 最強プリーズ! テンプレもよろしくお願いします!」
「異世界か……可能だが、ちと制限が……いや、こうすれば何とか出来なくもないか? うむ、良いじゃろう、貴殿の望みしっかりと叶えてやろう!」
「神様ありがとうございます! 俺の望みが叶うんですね! オレツエーが出来るんですね!?」
「うむ。我は神ぞ! 我らの娯楽の犠牲者である貴殿に、最大限の配慮を行い、異世界に旅立たせてやろう。さあ、行ってまいれ!」
「娯楽? 争いの間違いじゃ……」
「よい! さっさと行ってまいれ! そして我等を楽しませろ!」
神様の最後の言葉が気になったが、俺は無事?異世界に旅立つのだった。