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母親

 彼が来なくなって一週間が経った。


 数日来ないことなら何度かはあった。そんな時は決まって私のために色々と調べ物をしていたと翌日顔を出す際に言っていたものだ。


 しかし、一週間も音沙汰無いのは珍しい。最後に会った時、あの時の彼の言葉が引っかかる。




ーー君を外に出すことができるかもしれない。




 彼の身に何かあったのではないかと気が気ではなかった。




 そして、その答えを告げに来たのは一人の女性だった。




 物心がついてから私が見たことがある他人は彼以外にいない。だが、その女性が何者であるかは彼女の様子を見ればわかった。


 見るからに怯えている表情をしたその女性は、両肩の先に普通ならあるであろう両腕がなかったのである。




「おかあさん……?」




 私がそう呼びかけると、女性の肩がびくんと跳ねる。




「なんで、お母さんって……」




「お母さんでしょ、私の! わかるよ。だってその腕、私のせいだよね……」




「ひぃ!」




 母はそのまま恐怖におののき後退る。




「そうか、あのガキが変な入れ知恵をしたのね」




 あのガキ……?彼のことだろうか。




「お母さんなんて呼ばないでちょうだい。あなたのことなんて私は知らない。知らないんだから」




 呪いを警戒しているのだろう。母は言葉でもそして物理的にも私を拒絶している。そして月明かりに照らされてうっすらと光る私を訝しげに見る。




「本当に光ってるみたいね……余計に化け物じみてるわ」




ーー化け物。




 わからない。親子とはこういうものなのだろうか。本当にこの人は私の親ではないのだろうか。親子とはもっと温かいものだと思っていた。


 自分が忌み嫌われていることは承知している。それでも、実の親なら。少しくらいは愛を持っていてくれるのではないか、言葉を話せるようになったことを喜んでくれるんじゃないか、と期待してしまっていた。


 そんな自分が嫌になる。そんな現実に唇を噛んで俯くことしかできなかった。




「一応教えてあげるけど、あのガキならもう来ないわよ」




「えっ」




 思わず顔を上げると、母は半歩後退って警戒する。




「何を好き好んで、あんたの元に通ってたのかわからないけどあのガキには驚かされたわ。急に家にやってきて、あんたは呪いの子じゃないって。私のこのナリを見てよくそんなことが言えたものよ。何が月の祝福を受けているよ。ほっとくと何されるかわかったもんじゃないから親御さんにもきつく言っておいてあげたわ。だからもうあのガキはここには来れない。今日はそれを言いに来ただけよ」




 そう言い切るや否や、母はその場を後にした。


 両腕が使えないため扉の開閉および解錠は誰かにお願いしたのだろう。見知らぬ人がそばにいるのが見えた。


 ギギギギッ、ガタンと大きな音を立てて扉が閉められた。




 彼はもう来ない。




 私はあなたさえいればそれでよかったのに。


 なんであなたまで私の元からいなくなるの。




 幸せな日々を壊されてしまった。私はただその場に泣き崩れるしかなかった。

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