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月の祝福

 今日は満月だ。


 彼がここに来てから何回目の満月だろうか。満月は好きじゃない。




 彼が絶対に来てくれる日ではある。でも、満月の日はいつも彼は深刻そうな顔で私に会いに来る。




ーーきっといつか。僕は君をここから出してみせる。




 そう言っていた彼にとって、私が光る原因である月が満ちている日というのは、私の呪いを調べる上で貴重な時間なのだろう。




 出られるものなら私だってここから出たい。


 でも、今の私はただあなたと楽しくお話ができること。それが何よりも一番の幸せなのだから。




「おーい? どうしたの?」




 そう呼びかけられてハッとする。考え込んでいるうちに彼が会いに来てくれていた。




 我に返ると、彼の体に普段と違う点があることが目に入った。




「それ……」




 来る途中でどこかの枝で切ったのだろうか。彼の腕からツーっと細く血が垂れていた。




「ああ、なに。大した怪我じゃないよ。それに確かめたいこともあって……」




「確かめたいこと?」




 ピンときていない私に対して、彼は怪我をしている腕を鉄格子越しに差し出してきた。




「汚いかもしれないけど傷口にできるだけ近いところ。少しの間でいいから触っててほしいんだ」




 おかしなことを言う。私に触れたら呪われるという話を教えてくれたのは彼だ。




「で、でも……」




「大丈夫。そもそも呪われるのだとしたら散々君に会いに来てる僕はとっくに呪われてるはずさ。だから、ほら」




 ええい、ままよ。と言われたとおりに彼の腕を掴む。


 初めて自分の意志で人に触れた。自分の心臓の鼓動が激しく聞こえてくる。その音に気を取られて気付かなかった私とは打って変わって彼は自身の異変に目ざとく反応していた。




「見てよ、傷が。ほら、治っていく!!」




 彼の言葉で我に返る。


 彼の腕の傷口に目をやると、確かにじわじわと傷口が塞がっていってる様子が見て取れた。




 どうして、と戸惑いを口にしようとした私より先に彼が




「やっぱりだ、思っていた通り。君は呪われてなんかいない。むしろ月に祝福されている。しかし不思議だ。月は自ら発光していない。太陽の光を反射しているに過ぎないんだから……これは月の表面に何か魔力でもあるのだろうか……」




 独り言のようにブツブツと口にしていた。


 私には難しくてわからなかった。


 だが、満足したのか彼は喜々として言う。




「なにはともあれ、この事実を皆に伝えれば君を外に出すことができるかもしれないよ」




 その言葉に心が踊らなかったといえば嘘になる。でもそれ以上に、喜んでくれている彼の顔を見られた事の方が私にとっては幸せで、まさかそれを奪われるなんてこの時は思っていなかった。

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