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 私はいつも一人だった。物心がつく前から。ずっと隔離されていたらしい。




 誰とも会わず、牢屋で一人過ごすこと。


 当たり前すぎて、それが異常だということさえわからなかった。




 あの夜、彼に出会うまでは。




 私はいわゆる忌み子というやつだ。


 どうしてなのかはわかっていない。


 ただ、私のそばにいるだけで。


 みんな体調不良を訴える。




 最初に体の不調を主張したのは、実の母だった。


 私が生まれてすぐはもちろん母も私のことを愛してくれて。可愛がられて。そうやってこの先大切に育てられていくはずだった。




 しかし、その1週間後。ずっと私を抱きかかえてくれていた母の腕は、突然動かなくなった。神経が抜けてしまったかのように、彼女の腕はぶらーんと肩からぶら下がっているだけの肉塊と果てたのだ。




「どうして……ごめんね、ごめんね……」




 愛しい我が子を抱けないことを泣きながらにひどく悲しんだそうだ。




 それからは父が母の分も懸命に私の世話をしてくれたらしい。


けれども、そんな日々も束の間。その更に1週間後。甲斐甲斐しさも虚しく父の腕も同様に動かなくなった。




「呪われている」




 両親による私の扱いは一変した。


 2人は私のことを呪われた子だと言い出したそうだ。


 私を抱きかかえていたことが腕の異常の原因であると。私に触れると、近付くと、災いが起きると。




 以来、私は誰からの愛も受けずに生きてきた。


 育児放棄された私が生き永らえているのは、誰かに代わりに世話をされていたからではない。


 捨てられても勝手に一人で生き続けていたのだ。まるで周りの草木の生気を吸い取っているかのように。枯れた草花に囲まれたゆりかごの中で。雨風に曝されているのにも関わらず、微塵も濡れることもなく。雨はまるで私を避けるように降っていたそうだ。




 いわく、私は魔女と呼ばれた。


 近づくものは、人間だろうと何だろうと呪われる。


 そんな災いの元。外に捨て置くのはあまりに危険だと判断したらしい。こうやって牢屋に入れられて隔離されて無為に過ごす毎日を経て現在に至る。




 そんな物心がつく前のことをなぜ知っているのか。


 教育を受けていない私がなぜ言葉を理解できるのか。


 それらは全部、彼に教わったから。




 誰とも会わせてもらえない私が、唯一会える存在。


 魔女とはどんなものかと興味本位で密かに私のもとを訪れた奇妙な男の子。


 月明かりに照らされた私を綺麗だと言ってくれた大切な人。




 今日も会えるかなと、鉄格子の窓の外を眺めてみる。すると揺れる草木を掻き分けてこちらにくる人影が一つ見えた。




 彼だ。




「やぁ、こんばんは。今日も綺麗だね」




 歯に着せぬ言葉を口にする彼だが、口説いているわけではないらしい。


 月に照らされた私がうっすらと発光している現象について。その感想を述べているに過ぎないのだ。


 人間とは皆光るものだと思っていた私は、私以外誰も光らないと知った時はそれは驚いた。




 彼はいつも私の世界を広げてくれる。


 何も知らない私に、何かを教えてくれる。




 どうしていつも良くしてくれるの?


 どうして何度も会いに来てくれるの?




 そう尋ねたいけど。尋ねたらこの幸せな時間は終わりそうな気がして。


そんなのは嫌で。手放したくなくて。


 でも、離れないように直接彼を繋ぎ止めることは私にはできない。


 私に触れたら、私が触れたら、彼にも呪いが、災いが呼び込んでしまうはずだから。




 だから私は全部飲み込んで、今日も彼の話す話に笑顔で耳を傾けるのだった。



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