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カオス系

ぐにぐにじぞう

作者: 七宝

 その日俺はパチンコに負けてムシャクシャしながら暗い道を歩いていた。


 初当たりは軽かったのに入ったラッシュは全てスルー。82%と81%を連続でスルーする確率なんて4%以下だ。神様なんてどこにもいやしねぇ。


 奇跡のような運の悪さで6万を溶かし、後ろを通る客は俺の頭頂部を見て笑い声を漏らし、帰り道では見えない水溜まりにズボンの裾を濡らされ、今、地蔵に足をぶつけた。


 クソがよ。

 なんで俺ばっかりこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ。


 なにが地蔵だよ。なにが仏様だよ。

 お前がしっかり働いてたら俺は勝ってただろうがよ。


 お前は本当に何も見ちゃいねぇ。

 悪いことして遊んでばかりのやつが金持ちになり、俺のように真面目に働いてるやつはどんどん貧乏になっていく。

 誰も俺の頑張りなんか見てくれないし、誰もご褒美なんかくれないんだ。それはお前も同じことだ。そんなやつが仏とか名乗ってんじゃねぇよ。


 イライラがピークに達したのか、俺は地蔵を蹴り倒していた。足の痛みで我に返り、地蔵を立て直した。


 ふと頭を触ってみると、新生児のようにぐにぐにしていて、ぐずぐずと指が埋まった。

 そのトマトのような質感の頭の中で指を動かしてみると、なんとも言えない気持ち良い感触があったので、そのまましばらく突っ込んでいた。


 数分後、地蔵の頭から指を抜き、「ムシャクシャしてたんだ、悪かったな」と謝ってその場を後にした。


 家に帰ると、玄関で妻が出迎えてくれた。


「あなた、いつも私たちのためにありがとうね、お疲れ様。今日はあなたの好きなステーキよ!」


 なにか良いことでもあったのだろうか。普段妻が言わないようなセリフに俺は若干戸惑った。


 俺はすぐに着替えて手を洗い、食卓へ向かった。


 妻と4歳の息子がもう座っていた。


「パパ、今日もざんぎょーおつかれたま!」


 残業じゃないんだけどな⋯⋯


 その日の夜は、おかしな夢を見た。

 あの地蔵が自分の足で歩いてきて、俺の頭を撫でた。たったそれだけの、数秒の夢だったのにもかかわらず、強烈に記憶に残っていた。


 翌朝から異変が起きた。


 すれ違う人全員が俺に向かって手を合わせてくるんだ。中には念仏を唱えてるやつまでいやがった。


 会社に着くと、上司まで俺に手を合わせてきた。「ありがとう、ありがとう」と何度も言いながら頭を下げるんだ。


 掃除のおばあさんとすれ違った時も「ありがたや、ありがたや」と手を合わせられた。


 さすがにおかしい。

 あの夢が関係しているに違いない。

 そう思った俺は会社を早退し、走って家に帰った。


 さて、家には帰ってきたものの、どうすれば⋯⋯


 そうだ、1回寝てみよう。そうすれば何か解決出来るかもしれない。


 俺は居間でワイドショーを見ながら眠りに落ちた。


『どうですか、反省しましたか』


 どこからか知らない声が聞こえる。


『あなたは罰当たりな人です』


 声が近づいてきた。


『だから罰を与えたのです』


 あの地蔵だった。お前喋るのかよ。


「罰って、元に戻して謝ったじゃないか! 昨日の夢で頭撫でに来たのって許してくれたんじゃなかったのか?」


『うるせー』


 え、お地蔵さんそういうキャラなの?


『倒されて痛かったし、頭に指突っ込まれてチョー痛かったんだからな』


 地蔵は鬼の形相でそう言った。


『反省しないうちは許してやんねーかんな。覚悟しとけクソボケのゲボハゲパチンカスが』


 こいつ、俺が1番気にしてる髪の話を⋯⋯!


「反省なんかするもんか! 役立たずのクソ地蔵め!」


『あんだとコラ? 殺すぞテメー!』


 そう言って地蔵が飛びかかってきたところで目が覚めた。


「あ、パパおきたー!」


 息子が俺の頭を撫でていた。なんか泣きそうになった。怖い夢見たからかな。


「パパ、あたまやーらかいね〜」


 そう言いながら息子が俺の頭に指を突き刺した。


「はぐっ!」


 直接脳をいじられるような感触に、思わず声を上げてしまった。


「パパのあたまの中、あったかくてキモT(てぃー)〜」


 そう言いながら指をぐりぐり動かす息子。

 待って待って待ってなにやってんの!?


「へごはごほごへご!」


 自分の思うように喋れない俺。

 やめてくれ息子よ!


「わーいわーいたのちー!」


「あばばばばばばばばばばばばばばバババッハ」


 やばい、死ぬ! 実の息子に殺される⋯⋯!

 もうダメだ、と諦めたその時だった。


「なにやってるの! ダメじゃないの!」


 妻が止めに入ったくれた。


 俺はすぐに救急車で運ばれ、治療を受けた。


「俺さん、あなたの命、危ないところでした。あと、あなたは今脳が丸出しになっています。恥ずかしいとは思いますが、強く生きてください」


 入院することもなくそのまま帰された俺は、ハッピーターンの側面を舐めながら考えた。


「脳が丸出し⋯⋯?」


 とんでもなくヤバいことだよな? なんで日帰りなんだ? 俺こっからどうすればいいの? フタとか売ってんの? ていうか息子に脳みそめっちゃいじられたけど大丈夫なの?


 そんなことを考えていると、いつの間にか眠っていた。


『どうよ、反省したかよハゲパチンカス』


「罰を与えられても反省なんかしねーよ。余計に憎くなるだけだ。あとハゲ言うな」


『そんなこと言われてもオイラ罰与えるしか出来ることないから』


 地蔵って一人称オイラなんだ。


「罰しかって、お前『かさじぞう』知らんのか?」


『あれは人間が勝手に作った話だよ。オイラは罰しか出来ないのー』


 なんてヤツだ。そもそもお前の存在自体人間が勝手に作ったものじゃねーか。


『反省する気がないのなら夢の中でジワジワ殺してやるよ〜』


 あそこの地蔵がこうなだけで、全部が全部こんな凶暴なわけじゃないよな? さすがに。


 見た目が地蔵なだけでやってること普通に悪魔だよなってか閻魔大王なんじゃねあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


 目を覚ますと、息子が頭に指を突っ込んでいた。


 痛いとかじゃないんだけど、生物的にヤバそうな状態に陥るからマジでやめてほしあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


「こら何やってるのーっ! パパいじめちゃダメでしょー!」


 本日2度目の救急搬送。


「俺さん、息子さんに脳を触らせないでください。4歳児の指なんていつも鼻の穴かお股触ってて不潔極まりないんですから。あなたの脳も雑菌だらけになりますよ。ほら、もうなんかホルモンバランスとかおかしくなってるし、ていうかこんな症状の人来るの初めてだから訳わかんないし。はよ帰って」


 という説明を受けて帰ろうとしたら急に胸が大きくなり始めて尻尾も生えてきてツノも生えてきて身長が倍になって視力が9.0になって、髭が引っ込んだ。


「この胸、そして髭⋯⋯俺さん、おそらく女性ホルモンが分泌されてます」


「それどころじゃないだろ!」


「10540円お願いします」


「はい」


 俺は医者の手のひらにとうもろこし4粒を置き、病院を出た。


 家に向かって歩いていると、一瞬空に光るものが見えた。円盤のように見えたが⋯⋯


 と思った瞬間、目の前に大きな乗り物が現れ、中から頭部が異様に長い全裸の人型の生物が降りてきた。


「私テレビ局の○+□=☆と申します」


「同じくテレビ局の△÷○=6と申します」


 星型の名刺を受け取ると、2人が話し始めた。


「今夜のびっくり人間の番組に出てくださいませんか?」


「もし出ていただけたらお礼に幾許(いくばく)かのアレを⋯⋯」


 俺は快諾し、UFOに乗り込んだ。


「さぁ今日も始まりましたびっくり人間のコーナーでーす! 1人目は今日見つけたスーパー人間でーす!」


 スーパー人間、たまらない響きだねぇ。


「こんにちは、スーパー人間です」


「フォッフォッフォッ」


 立派な髭をたくわえた、立派な白衣を着た立派な経歴を持っていそうな立派なイチモツをぶら下げた老人が俺に近づいてきた。


「脳からツノが生えてる生物なんて初めてじゃ! 世界で唯一の生物じゃあ! 彼に賞金を!」


 そんなこんなで、意外な理由で優勝することが出来た。多分ツノ生えてなくても優勝してただろうな。


 それから俺は一切の睡眠を取らず(夢の中で地蔵にジワジワ殺されるから)勉強して出馬し、見事天皇陛下となった。


 俺は天皇になってすぐに地蔵を撤収する政策を発表し、「天皇の仕事じゃないんですけど」と世間に言わしめた。


 3日後、地蔵がなくなったことで俺は眠れるようになり、妻と息子も毎日がモッチモチのハッピーウィークとなった。


 俺は、地蔵に勝利したのだ。

 ぐにぐに

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭の主人公が地蔵を倒すシーンで「ああ、これは罰を受けるやつだ」と思い、 しかしながらすぐに起き上がらせる主人公に驚かされました。 結局罰を受けることになってしまいましたが、見事地蔵に勝利…
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