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あたしの父は有名人で、ついでに私も有名人だ。
といっても、父に比べればあたしは学校内で有名程度だが。
有名人はつらい。発言すれば皆の視線を浴び、郵便ポストには手紙、外を歩けば色々な言葉をかけられる。
だが、あたしの様な有名人が羨ましいという狂っているとしか思えない人間が世間にはたまにいる。そういった人間が世間を騒がせるのも珍しいことではない。
さて、さっき言ったがあたしの父は有名人である。ちょっとテレビを付けて見て欲しい。そしてチャンネルを回す。どのチャンネルでも、話題の中心は父のことで、レギュラー番組が何本も潰れている。
あたし達が有名になったのはつい三日前のことである。あの日、たった一時間にして父は一躍日本中の注目を浴び、あたしも学校一有名な生徒となった。
ああ、大抵の人が誤解をしているだろうから言っておく。別に父は五輪でメダルを取ったわけでもなければ、ノーベル物理学賞を受賞したわけでもない。彼に与えられたのは、メダルでも賞でもない。あたしに向けられる目線は憧れの類ではないし、送られてくる手紙はラブレターでもファンレターでもない。
あたしの父に与えられたのはただ一つの称号。
そしてあたしもこう呼ばれるようになった。
──無差別殺人鬼の一人娘──