6.「白昼夢」
ここは何処だろうか。僕は、気がつくと真っ白な空間へと誘われた。僕の隣には、あの炎帝がいた。彼女は、今は、人の姿をしていた。ただ、視界が霧で霞んで全くと言っていいほど見えなかった。何も見えないのだ。植物。動物。人。建造物でさえ、僕の視界には、映らなかった。けれど、青白い2つの光だけは、僕の眼孔にはっきりと、見えていた…。
最初、それを見たとき、僕は、それがなにかわからなかった。僕はてっきり、灯りかなのかと思った。わからなかったのだ。無論わかるわけがなかった。人は、物体を見たら、物体としか、認識できないように。物体は物体だし、灯りも灯りだ。灯りでしかないのだ。僕は、その灯りめがけて、歩みだした。灯りはだんだんと、大きくなっていった。当然のことだった。
その時だった。後ろから声が聞こえた。炎帝だ。この声は炎帝の声だ。僕はすぐさま、振り返った。なぜ、彼女が言葉を発したかは、わからなかったが、振り返る他なかった。彼女は、小声で言った。
「動かないで。お願いだから、それ以上動かないで。」
「え?」
僕は彼女の言っている意味がわからなかった。灯りに近づいてはいけないのかと、疑問に思った。僕は、状況を把握したいだけなのだ。ここは一体どこなんだろう…………。
あれ、ちょっと待ってよ、炎帝がさっき言ってた、一瞬、空の上。てことは・・・
「ここが、イーストキャピタル?」
青白い灯りが眩しく光る。目を塞ぎたくなるほどの強い光だ。
「若い声だな。その通りだ。ようこそ、イーストキャピタルへ。君は誰だ?」
青白い灯りだと思っていたものは、2つの眼光だった。その青白い灯りが喋り始めたのだ。僕は、気がつけば、あのイーストキャピタルに辿り着いていた。もちろん、驚き、尻もちをつきそうになったが、その青白い灯りの質問に答えた。
「我王獅志丸ですけど…。」
僕が、答えると、黙り込んでいた、炎帝も質問に答えた。
「私は、炎帝。あなたこそ誰よ。」
「炎帝か。久しいな。元気か?今は、それどころではないか。俺か。すまないな。紹介が遅れちまったようだ。聞いて驚くなよ。まあ、驚いてもいいが、はは。俺は、蒼帝だ。その、なんだ。がおうなんたらってのは知らねえが、もしかして、ラブノウズの民か。」
その、青白い2つの眼光は、低い声でそう言った。
炎帝が聞き返す。
「え、あなたが?蒼帝ですって?久しいって、私覚えてないわよ。それに、この濃い霧で姿が見えないんだけど、どうなってるの?えっと、この子は…………あれ、どこだったかしら。獅志丸だったわよね?あなた、ラブノウズ出身よね?」
この皇帝二人は、僕のことを詳しくは知らなかった。僕は質問に答えた。
「日本だけど…。」
2人の皇帝が、同時に驚いた。
「え?どこよ?私は聞いたことないわ。」
「聞いたことなえな。うーん。何かが二本あるのか。よくわからんが。君も帝なのか?」
「僕は、国王補佐です。で、えっーと、ややこしいんですけど、もう一人の我王獅子丸が、王なんです。顔も瓜二つなんですけど、体格が違うので、見分けはつくと、お、思います。」
2人の皇帝を前に、緊張する獅子丸。
「いってえ、どういうことだ?二人いるのか?訳がわからんぞ。ラブノウズの国王補佐よ。冗談ってわけではなさそうだな。炎帝、何と呼べばいいんだ?」
「獅子丸でいいと思うわ。彼もそう言ってたから。そう、同盟を組んだ彼も。」
炎帝が口を挟む。
「あ、はい。それで、大丈夫です。」
獅志丸は、その空気の荘厳さにおどおどとしていた。
「ていうか、あなた早く姿見せなさいよ。いつまで、霧で隠れてるの?」
「隠れている?ははは。ふざけているのか?俺の目が見えないか?俺は、今憤りを感じているぞ!炎帝。落ちぶれたみてえだな。かつて、我等は神だった。言葉一つで、人から獣へと変化できた。我等の役目は、東西南北を護ることだ。炎帝よ。貴様の役目を忘れたか!南はどうした。人間ごときに護れるとは、到底、思えんがな。なあ、炎帝よ。気でも狂ったのか。神が、獣が、獣神が、人間ごときと手を組んでどうする?貴様が言っていた同盟は、本当なんだろうな?俺から話すことはない。せいぜい、人間ごときとお遊びでもしてるんだな。俺は同盟は組まんぞ。」
炎帝は、返す言葉が、見当たらないようだ。自分の選択は間違ってはいない。我王と言う男は、信頼のできる人物だ。彼なら、彼ならば、やり遂げてくれるだろうと信じていた。炎帝は、閉じかけた口を開いた。
「蒼帝、私の話を聞いて、彼は、頭の良い男なの、争いはしないわ。私の攻撃を平然と受け、戦わずして勝ったの。あれは、魔法以外の何物でもないわ、私の炎が効かなかったんだから。それに、彼は空も飛べるのよ。私よりは遅いけど、今ここに向かっているわ。あなたは、護れるわけ?勝てるわけ?我王に。我王獅志丸という男に。」
消えかけていた。2つの眼光が再び、輝き始める。
「話すことはないと言ったはずだ!その、我王とやらを返り討ちにしてやろうか。どんな、魔法使いか知らないが、俺は戦なら敗れたことがない。魔法使いだろうと、ラブノウズの王だろうと、構わん。俺は役目を果たす。この、数千人の軍勢とともに、我が国を護る!」
獅志丸は冷や汗をかいていた。勝ち目はない。まさに、多勢に無勢である。どうしたらいいのだろう。この状況。獅子丸は、何も思い付かない。考えに耽っていた。
すると、空高くから、金属の光沢のような、光が見え、その光は、空から、とてつもないスピードで、降ってきた。一見すると、人の形のようにも見えたが、気のせいなのか。落下速度がどんどん増していく、その人型のような、光は、霧で覆われた、イーストキャピタルの地面に、落ちると、物凄い、轟音を立て、衝撃波を生んだ。衝撃は、霧で覆われたイーストキャピタルの大地を露わにした。また、その光は、金属で覆われた、人であった。その人間は、閉じていた口を開けた。
「待たせたな、俺たちネコ科は高い所から、落ちても平気なんだよ。なあ、宰相!」
右足をつき、右拳を、地面につき、着地した我王が言う。現在、インフィニィキューブは、チタン製の鎧になっていた。
「如何にもですにゃ。我王様。」
彼女は人型だが、紛れもなく猫だ。高い所から落ちても平気なのだろう。二本足ですくっと立っている。
「おいおい、ちょっと聞いてねぞ、落下作戦か何かか、いきなりF-22から飛び降りるなんてよ。」
と、ボクシンググローブをはめた男が口走る。
「本当ですよ。軍務大臣。まあ、鍛えているので、僕らも平気ですけどね。で、この方が、蒼帝なんですか。我王様。」
「………俺も初見だが、驚いたな。本物かよ。龍が、青い龍が、この世界にいるとはな。」
姿を現した青い龍、蒼帝が、その牙の生えた青い口から、言葉を発した。
「鎧の男。ラブノウズの王よ、貴様が我王だな、貴様には負ける気がしねえな。かかってこい!」
「はっはっはっ。争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。違うか?蒼帝!それでもってんなら、売られた喧嘩は買うしかねえよな。望むところだ!」
次回まで、どうぞよしなに