9話「その枠に僕も入れられるのか……」
1時間ほど勉強をしたところで、ご飯ができたと呼ばれたので、勉強道具を片付けて食器を並べるのを手伝う。
「うちの子に勉強教えてくれてありがとね。でも綾人君は自分の勉強大丈夫なの?」
「あー、まぁ大丈夫だと思います。まだ勉強始めるには早いですしね」
「綾人はずるい。テスト前日に始めても余裕で高得点取っちゃうんだもん」
「そんなことないよ。くるみに教えたりするから自然と覚えるだけで、前日まで勉強してないわけじゃないし」
「でも、勉強してなくても人に教えるくらいには理解できてるってことでしょ?」
「まぁ……」
「綾人君はほんと頭いいわね……母親に似たのかしら?」
「綾人のお母さんってそんなに頭よかったの?」
「そうよ〜? それはもうすごかったんだから。学年一の天才って呼ばれたりもして。顔もよくってね、それはそれはモテてたわ……あ、これ運んでね」
「その話聞くたびになんでわざわざ変人のうちの父と結婚したんだろうって思いますけどね……」
くるみの両親と僕の両親は高校の同級生で、めちゃくちゃ仲が良かったらしい。
その縁でこうしてくるみと幼馴染になったわけだけど。
おばさんはよく僕の母の話をしてくれるのだけれど、あまりにもいい面しか出てこないせいで、なんであんな自由人の父親と結婚したのか理解に苦しむ。
僕の父親といえば、なんの仕事してるのかもいまいちわからないし、急に帰ってきたかと思えばまたすぐどこかいくし、そのくせしてちゃんと金は稼いでるみたいだし……変人だし。
多少若く見えるくらいで、そんなに魅力的な人間には見えない。嫌いではないけど、結婚相手に選ぶかと言われれば首を傾げる。そんな人だ。
「でもほら、涼馬君は顔も悪いってわけじゃないし、成績だって普通だったわよ?」
「だからこそですよ……知ってますか? この前お土産に気持ち悪い埴輪もどき買ってきたんですよ? センス壊滅的すぎません? 小学生でももっとまともなもの選びますよ」
「そういうところが真面目な華奈ちゃん的には良かったのかも?」
「どうなんでしょうね……」
まぁ、今となっては真相を分かりようがないのだけれど。
そんな他愛もない話をしていると、くるみがずい、と視界に入り込んできて、自分のことを指さす。
……顔が赤くなっているので、これから何か恥ずかしくなるようなことを言おうとしているのが丸わかりだ。
恥ずかしいって思うならしなきゃいいのに。
「そんなあなたにこのくるみちゃん! 変人同士で相性バッチリ! いかがですか?」
「いや、くるみはともかく僕は変人じゃないでしょ」
幼馴染を誘惑してくる人間と同じくくりではないだろう。
そう思って言ったのだが、どうも二人の反応は同意を得られている感じではない。
「いや、それは……」
「綾人君は……」
「え、何。なんでそんな微妙そうな顔を?
ほら! 樹君は僕のこと普通だとおもうでしょ!? ね?」
最後の頼みの綱だ。そう思い、残る一人である樹君にそう尋ねる。
しかし、樹君はぎ、ぎ……と油が切れた人形のような動きで僕から目を逸らして、
「綾人兄ちゃん!? なんでオレに振るんだよ!?
……強いて言えば、普通ではない……と思う」
「まじか……まじかぁ……」
3人からそう言われ、心に傷を負う。
僕、普通じゃなかったの?
というか普通ってなんだ? 僕もうわからない……
「え……そんなに落ち込む……?
あ、綾人。その、変人でもいいと思うよ? 個性があるってことだし。うん。
わたしは綾人の変わってるとこ、困ることもあるけど嫌いってわけじゃないし」
「なんか雑なフォローありがと……」
「ふふん、どういたしまして」
「いや、そんなに褒めてないから。今の胸張るところじゃないから」
むしろ、もっと上手く慰めろと言いたいくらいだ。
しかし僕と同じく変わっているくるみは「謙遜すると逆に失礼でしょ?」と謎の返答をしてきて、頭痛が痛い。
……このくるみに変わってるって言われる僕って一体なんなんだろう。
「はぁ、まぁいいや。
運ぶのこれで最後ですか?」
「ええ、そうね。じゃあそれ運んだらご飯にしちゃいましょうか」
「りょーかいです」
なんかどうでもよくなってきたので、早くご飯でも食べて気を取り直そう……