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8話「勉強しよう」



「お邪魔します」

「あら綾人くん、大きくなったわねぇ……」

「1ヶ月くらいしか経ってないんですからそんなに変わってませんよ……」


 くるみに連れられて文野家に訪れた僕は、何故か頭を撫でようとしてくるおばさんの手を避ける。

 この人は僕がくるといつもこんな感じで、僕を小学校低学年だと思ってるんじゃないだろうか。


「綾人兄ちゃん、数学わかんないから教えて」


 僕が来たのが分かったからか、廊下に出てきた樹君は僕の手を引っ張りながらそう言う。


「うん、いいよ。試験勉強?」

「そーそー。わりと試験近くてさ」

「試験大丈夫そうなの?」

「樹、馬鹿だから大丈夫じゃない」

「いや、姉ちゃんも綾人兄ちゃんも頭いいだけでオレは普通だからな……?」

「まぁわたしは天才だから? テストくらい余裕」


 自信満々に胸を張るくるみ。

 ……くるみ、数学以外の科目は点数がいいけど、数学は壊滅的じゃなかったか?


「姉ちゃんよりも綾人兄ちゃんのほうが頭いいじゃん。調子に乗るなって痛い痛い痛いごめんなさい姉ちゃんは天才です」


 くるみにヘッドロックを決められて悲鳴を上げながら謝罪する樹君。

 謝罪が通じたのか、くるみは樹君を解放するとふんす、と鼻を鳴らす。


「痛ってぇ……容赦ないんだもんな」

「弟に容赦する姉はいない」

「横暴だ! あ、すいませんなんでもないです気にしないでください。

 あ、綾人兄ちゃん! 勉強しよう!」


 くるみの目に剣呑な光が宿ったのを見て、樹君は慌てて話題を変える。

 僕はそれに頷いて、樹君の自室に入る。なんでかくるみもついてきたけど。

 ちなみにおばさんは夕飯の準備をしに行った。


「この問題が分からなくて」


 勉強机の上で問題集を開いて見せてくれる樹君。

 指差されたところを見て、どんなふうに教えればいいかを少し考える。


「それは分配法則を使うやつだよ。ここをこうして……」


 シャーペンを借りて実際に書きながら説明をする。

 そのまま数問解いていると、くいくいっと服の裾を引っ張られた。


「ここわからない」


 いつのまにか床に勉強用具を広げていたくるみが、上目遣いでそう言ってくる。

 足を開いて座っているせいで、内腿のあたりまで見えてしまっている。


「……なんで床でやってるの?」

「机ないから」

「たしかにないけども、それなら……いや、なんでもないや。

 ならリビングで勉強会しようか?」


 一瞬自室ですればいいと言おうとも思ったが、せっかくくるみがやる気になってるわけだし、僕に教えて欲しいと言っているのに追い出すのも悪いかと思い、そう提案する。

 するとくるみはコクリと頷き、樹君もいいよと言ってくれたので、勉強会の場所を移動することにした。


 リビングに移動すると、僕の前に樹君、横にくるみが座った。


「で、くるみはどこがわからないんだっけ?」

「全部」

「えぇ……」

「どこができないのかもわからない。高校数学難しすぎ」


 まぁたしかに難しいけども。

 どう教えたものかと頭を悩ませながら、一つ一つ丁寧に教えていく。


「……って感じなんだけど……わかった?」

「半分くらい」

「半分分かったことを褒めるべきか、半分わからなかったことを嘆くべきか微妙だね」

「褒めればいいと思うよ」

「よしよしくるみは偉いな〜」

「頭撫でられてムラッときた」

「家庭科の実習でその口縫い付けてやろうか?」

「ならわたしは保健の実習を……いたっ!」

「いい加減にしなさい……」


 撫でていた手で手刀を入れると、くるみは頭を押さえて恨めしげにこちらを見る。


 弟がいる前でナニを口走ってるんだこいつは。中学生の教育に悪いにも程があるだろう。

 そう思って樹君の方を見ると、何故かニヤニヤと笑っていた。


「……なに?」

「いや……二人とも仲良いんだなって」

「? そりゃまぁ幼馴染だし」

「いまさら綾人に気を使うことなどない」

「いや、もう少し言動どうにかしろよ。気は使わなくていいけど人間として慎みは持て」

「ちょっと無理かな」

「なんでだよ……」


 あまりない胸を張ってそう言うくるみ。

 まったく……少しはちゃんとして欲しいものだ。

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