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幼馴染が「据え膳喰わぬは――」とか言ってくる  作者: 海ノ10
本編

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61話「話があるの」



 次の日もその次の日も、わたしと綾人──いや、クラス全員が忙しくて、とても2人きりで話する時間がなかった。

 もちろん、放課後に綾人の家に行けばいいんだろうけど、それはしようと思えなかった。


 そうこうしているうちに、みるみる教室の内装が変わっていき、気がついたらおよそ文化祭とは思えないレベルの喫茶店になっていた。


「いやぁ、みんなありがとう! 本番は明日だから、がんばろう!」


 委員長がそう言うと、クラス全員がまばらに「オー!」と返事する。喫茶店は本気でやるくせに、こういうところの息は合わない。


「あ、くるみ。シフト表見た?」

「見てない……どこにあるの?」

「クラスのグループに上がってるよ」

「ほんとだ。通知きてる」

「いやー、わざわざ将雅と同じ時間に休憩入れるようにしてくれて、さすが我らが委員長だよね!」


 寧々ちゃんがハイテンションのまま語るのを聞き流しながら、自分のシフトをチェックする。

 ……あらかじめ「シフト多くていい?」と聞かれていたから覚悟していたけれど、想像以上に多い。というかほぼずっとシフト入ってる。


「くるみはかわいいからね。いるだけで客増えるだろうってことで、シフト多めにされたらしいよ。でも……ほら」

「あ……」


 そう言いながら寧々ちゃんはわたしのスマホの画面の一点を指差す。

 そこは綾人のシフトで、その時間はちょうどわたしと同じになるように組まれていた。

 つまり、休憩時間は同じだということ。


「……くるみ、がんばれ」


 一昨日、さりげなく「綾人を説得してみる」と言ったのを覚えていたのだろう。そう言いながら肩を叩かれるので、わたしはコクリと頷いておいた。



◆ ◇ ◆



 そして迎えた文化祭当日。


「きゃー、くるみちゃんかわいい!」


 いつもよりしっかり髪をセットして、普段全くしないメイクをさせられたわたしは、周りの女子から歓声を浴びながら写真を撮られていた。

 ……かなり恥ずかしい。


「あの、もういいんじゃない?」

「だーめ。せっかく可愛いんだから写真に残さないと!」


 逃げ出そうとしても、そう言われて逃げられない。

 仕方ないので大人しく写真を撮られていると、急に教室の入り口から歓声が上がった。

 見ると、そこには更衣室で着替えて帰ってきた綾人がいて……思わず、視線が釘付けになる。

 珍しく前髪を上げて固められており、少しメイクもしているのだろう。いつもより顔色がいい。

 執事っぽい服も似合っていて、気だるそうにカフスボタンを触る様子から目が離せない。

 瞬間、綾人の視線がわたしの方を向く。

 そして、しばらくわたしのことを見た後、何かハッとした顔をして、目線を逸らす。

 その反応が気になって話しかけようとしたが、すぐに綾人の写真撮影会が始まってしまってタイミングを逃す。


「綾人くん、かっこいいね。普段とはまた違った感じで。

 でも、あれ絶対くるみに見惚れてたよ」

「……だったら、嬉しいけど」


 ニヤニヤする寧々ちゃんにそう返すと、綾人に視線を奪われて中断されていたわたしの撮影会がまた始まってしまう。

 シャッター音がトラウマになりそうなくらい撮られた後──顔を加工してくれるアプリだとシャッター音鳴らないはずなんだけど、なぜか誰もわたしの顔を盛ってくれなかった──クラス全体の準備が始まる。

 とはいえ、昨日のうちにできることはやったので今日はもう備品のチェックと手順の確認だけだ。

 簡単にそれを終えると、開始時刻まで適当に話しながら待つ。

 そして、文化祭が始まる。

 最初はあまりお客さんが入らなかったけれど、委員長の指示で綾人が少し外に出て宣伝したところ、なぜか急に客が増えた。


「──注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「あ、あの! あなたの写真撮ってもいいですか?」

「申し訳ございません。当店ではスタッフの撮影はお断りしております」


 綾人のその対応に、女性は残念そうな顔をするが、すぐにスイーツの撮影に取り掛かる。

 ……綾人はああ言ったけど、実際ここのスタッフを隠し撮りとか隠す気もない撮りとかしてる人は多い。いちいち注意してもいいのだけれど、わたしたちの負担が増えるので仕方なく黙認していた。

 綾人の写真が知らない女子のカメラロールに入るってると思うと胸がモヤモヤする。


「あのー、注文いいですか?」

「あ、はい!」


 とはいえ、考え事をしている時間すら無い。注文受けたり片付けたり、フロア担当のわたしには仕事が山ほどある。回転率を上げるためにもスムーズにこなさないといけない。

 それは他のフロア担当も同様で、みんな慌ただしく動いていた。

 だが働けば働くほど仕事は増えるもので、客足は遠のくどころか増え続け、教室の前に行列ができている。

 想定外のそれにシフト外だった人を急遽呼んで列の整理をさせたようだけど、中の忙しさは変わらない。

 そうこうしている間にわたしの休憩時間になったけど、あまりの忙しさに抜けると言えなかった。

 わたしと綾人は一度裏に下がって、戻ってきたクラスメートのそうめんくんが買ってきてくれたたこ焼きを急いで食べると、またフロアに戻る。綾人と話す時間なんてとてもなかった。

 その様子を見た寧々ちゃんが小声で心配してくれたりもしたが、「大丈夫」とだけ言ってまた接客を始めた。

 これはこれで楽しいけれど、それ以上に疲れる。まだ午前中が終わったところだというのに、疲労感は半端ないしまだ客は途切れない。

 また、人手が足りないのは他の担当も同じようで、シフト外の人を呼び戻したりより効率を上げようと工夫したりと、弛まぬ努力が行われていた。

 売上など考えている余裕はない。筋肉痛になりそうな作り笑いに、動きっぱなしの足。

 想定以上にしんどいけれど、今日一日だと思えばまぁ楽しくもあった。


「くるみ、遊びに来たわよ」

「お姉ちゃん、この店混みすぎじゃない? すっごく待ったんだけど」

「あ、お母さん。お父さんと樹も。ゆっくりしてね」


 途中で家族がきたりもしたけど、話してる余裕なんてない。

 無駄に広い教室を借りたせいで席が多いのが裏目に出るなんて。というか、このペースだと売り切れにならないのだろうか。

 そう思っていると、クラスメートの1人がエコバッグを持って駆け込んできて、そのままキッチンに消えていく。

 ……ああ、補充したんだ。


「くるみー、こっちお願い!」

「では、ごゆっくりどうぞ……今行く!」


 休憩は部活などの出店やライブなどがある人が優先で、その他は高校生の体力任せの連続勤務である。

 当然、体力のない人には厳しい。


「……休憩していい?」

「あ、いいよ。休んできな」


 そんな小声の会話が聞こえ、そちらを見ると具合の悪そうな綾人がフロアマネージャーの子とそんなやりとりをしていた。

 綾人の抜けた穴は大きく、さらにわたしの負担が増えるが、なんとか捌くこと30分。綾人がなんとか復活してきたようで、多少楽になった。

 とはいえ綾人もばてないように仕事のペースを落としているし疲労によって全体的に効率が下がっており、かなりキツイことには変わりない。

 そんな状況でどれくらい回しただろうか。気がつくと客足がまばらになり始め、商品も売り切れが多くなってきた。

 店内の時計を見ると、時間は3時30分。文化祭が4時までなので、そろそろ文化祭も終わり……それは人も減るわけだ。

 そして4時を過ぎ文化祭終了の放送が鳴って、最後の客が帰った瞬間、わたしたちは床に倒れ込んだり椅子に寄りかかったり、死屍累々といった状況になった。


「……みんな、おつかれ。片付けとか利益の計算とか、やることたくさんあるのでまだ頑張りましょう。終わったら打ち上げ行こう……ね」


 ボロボロの委員長のそんなセリフに、元気のいい返事は一つも返ってこない。

 だが、死体のようだったクラスメートたちはそれぞれが自分の担当していた場所の片付けを始める。

 わたしも手伝おうと椅子に手をかけたのだが、それを止められ、休むように促される。

 どうも、わたしの労働時間はクラスで一番長かったらしく、負担も多かったようだ。それで、片付けは任せて休んでていいと言われる。

 とはいえ行くところもないので、喫茶店になっていた使った教室から出たすぐのところで壁に寄りかかっていると、教室から綾人も出てきた。


 綾人はわたしの顔を一瞥すると、そのまま立ち去ろうとして……わたしは、その腕を掴んで引き止める。


「綾人、話があるの」

「……うん、いいよ。どこで話す?」


 綾人は少し悩むそぶりを見せた後、頷いてそう言う。

 思ったより普通の対応に安堵しつつ、綾人と一緒にほとんど使われない階段を登り、屋上の手前の踊り場で止まる。

 ここは人も少なく、他の人に聞かれたくない話をするにはもってこいの場所だ。

 ……告白するには、ちょっと明かりが少ない気もするけれど。


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