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51話「大事なこと聞いていいですか?」



 放課後。鞄を持ったまま向かったのは、喫茶なつのき。

 ちょうど休業日らしく店は閉まっていたが、あかりさんが裏口から中に入れてくれた。


「いやー、びっくりしたよ。急に相談があるって言われるんだもん」

「周りに相談しやすい大人の人がいないんですよ。父は自由人ですし」

「あはは、そういえばそうだったね。と、じゃあ適当にその辺座って」


 言われた通りに席に着くと、アイスコーヒが目の前に置かれて、あかりさんが正面の席に座る。


「で、何の相談だっけ?」

「ちょっと……将来について悩んでて。どんな仕事を目指そうかなと」

「なるほどなるほど。いやぁ、若いね!」


 あかりさんは嬉しそうにそう言うと、「それでそれで? 何が聞きたいの? 年収?」などと言ってくる。


「まぁ年収も大事なんですけど、そうですね……何がやりがいか、とか?」

「やりがいか……やっぱり人と話すのは楽しいよ。それに、自分の作ったものでもそうじゃなくても、誰かが自分の働く店のものを飲んだり食べたりして、それで笑顔になってくれるってだけで満足だよ。

 でも、綾人くんはどちらかというと私みたいな接客業より、夏樹くんみたいなエンジニアの方が向いてると思う」

「そうなんですか?」

「うん。だって、綾人くん、夏樹くんにそっくりだもん。話し方とか雰囲気とか。メッセージの文面も似てたね」

「……母方の血が強いんですかね」

「そうかも! 綾人くんのお母さんにも会ってみたかったな……って、違う違う! 綾人くんの相談に乗るって話だ」

「あー……なんとなく、今ので分かった気がするのでとりあえず大丈夫です。あんまりイメージつかないけど、色々調べたりしてみようかと」

「それがいいよ。私もそんなに詳しいわけじゃないしね」

「あ、そうだ。大事なこと聞いていいですか?」

「なになに? なんでもきいて?」

「彼氏とかいないんですか?」


 正直、今日の本題はこの質問だ。

 将来、何になりたいかとかも考えなくちゃいけないことだけど、僕が今聞きたいのはここ。


「ははっ、こんなおばちゃんをナンパするつもり? 残念だけど、ごめんね? 一生を誓った相手がいるから。

 綾人くんはくるみちゃんと仲良くやりなよ!」

「あー、ナンパする気はなかったんですけど……ただ、あかりさん綺麗なのに彼氏いないのかなって不思議に思っただけで」

「私には夏樹くんっていう永遠の婚約者がいるからね。作る気はないよ」


 永遠の婚約者。なんて悲しい響きだろうか。

 そう思うけれど、それを口に出すのは目の前の女性に失礼な気がして、なんとなく微妙な笑みを浮かべるだけにしておく。


 ──ああ、やっぱりそうなんだ。


 確信してしまった。

 僕のために、くるみのために何をしたらいいか。どうするべきか。

 認めたくなかったけど、考えなきゃいけないから。

 だから──もう、逃げるのはやめよう。

 明日、くるみに全部話そう。


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