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48話「ねぇ、くるみ」


 その後、30分ほどしてくるみと寧々さんが帰ってきた。


「おかえり、2人とも。アイスいる?」

「いる!!」

「さすがに外暑いよね……はい、これ」


 寧々さんからエコバッグを、くるみから財布を受け取ると、僕はそれを持って冷蔵庫に向かい、食材を入れるついでに冷凍庫からアイスを2本出して2人に渡す。

 小野が羨ましそうな顔をしていたけど、外に出てない人に渡すアイスはない。

 それから、ちょうどいい時間だったので4人分の食事を作る。

 あー、もしかしたら少し多めの方がいいのかもしれない。小野、結構食べるし。

 僕はそんなことを考えながら、ふわふわのオムライスを手早く作る。これ、(主にくるみから)評判がいいので昼食によく作るのだ。

 ちなみに、ケチャップは各自が好きにかける方式にした。


「昼ごはんできたからキリのいいところで休憩にしよ」

「今キリがいい。もう終わる」

「せめてその問題解いてからにしよ? ね?」

「わかった」

「じゃ、わたしは準備手伝うから小野のこと見てて」


 やはり、小野は寧々さんに勝てないようだ。悲しいかな、男とは力の強さ以外では女に勝てないものなのである。まぁ、僕みたいに非力な男もいれば、フィジカルでも勝つ女もいるから一概には言えないのだろうけど。


「あ、その青い皿に乗せたのが小野用で、その他は特に決まってないよ」

「おっけー」


 くるみに指示を出して、2人がかりで準備をする。使うテーブルは、小野が勉強をしているローテーブルではなく、キッチンの近くにある4人用のテーブルだ。


 ちょうど4人分の飲み物を注いだところで問題を解き終わったらしく、「うがあ゛ぁ゛」と変な音を口から出していた。


「ほら、終わったらさっさとこっち座る」

「お前、ほんと鬼だよな!?」

「夏休み最後の日、まったり過ごそうと思ってたのにそれが潰された僕の気持ちがわかる?」

「……ほんとすまん。助かってる」


 わかればよろしい。



◆ ◇ ◆



 昼食の後も課題は続き、6時半に一度夕食の休憩を挟みつつ、終わったのは8時少し前だった。

 泊まっていくかと提案したのだが、「どのみち制服とか取りに帰らなきゃいけないから、普通に帰るわ」とのことなので今日は解散となった。

 小野と寧々さんが先に外に出て、くるみは途中まで読んでいた漫画を読み終わるまで家にいるようだ。


「ふぅ」


 僕は食後のコーヒーを飲みながら、くるみの横に座る。


 ペラ、ペラ……とページを捲る音と、エアコンが冷気を送り出す音だけが聞こえて来て、段々眠くなってくる。


「……何か付いてる?」


 やることもないので意味もなくくるみを見ていると、視線に気がついたくるみがそう言ってきた。


「ああ、いや。ぼんやりしてただけ」

「だと思った」


 そう言うと、くるみはまた漫画を読む作業に戻る。

 今度は僕が見ていても気にしないようで、一コマ一コマじっくりと見ていく。

 右手を上手く使って漫画を抑え、左手で唇を触る。集中すると唇を触るのは、くるみのいつもの癖だ。

 それを見て、ふとくるみと星を見た時のことを思い出す。

 あの息のかかるような顔の距離感を思い出して、顔が赤くなるのを感じる。


 ──そして、不意に思った。


 あのままキスしてたら、今頃どうなっていたんだろう。

 小野と寧々さんみたいにカップルになっていたのだろうか。だとしたら、何が変わっただろう。くるみと何をしただろう。


『ただ、そうだね──満足してるんだよ』


 いつか、小野に「なぜ告白しないのか」と聞かれた時にそう答えた。けれど、それは告白の果てに何があるのか、知らないだけだったのかもしれない。

 知らないから、変える必要も思いつかなくて、後回しにして。


『『付き合ってもいいかな』って思い始めたらそれはもう付き合いたいって意味なんだよ』


 あかりさんから、そう言われた。

 そうなのかもしれない。だって。


 知らないことに飛び込むなら、くるみといっしょがいいから。


 そして、不意に思った。


 いつも通りぼんやり過ごして。

 たまにハグとかキスとかもして。

 いつも通り喧嘩することがあっても仲直りして。

 家にいることも、学校で話すことも、手を繋ぐことも、『当たり前』のことになって。

 それは──なんて素晴らしいだろう。


 そう思ったら、僕の口は自然と動いていた。


「ねえ、くるみ」

「ん?」

「好きだよ」


 名前を呼ばれてこちらを向いたくるみに、素直な言葉をぶつける。

 雰囲気も何もないけど、あまりにも急かもしれないけど、恋人という関係になったからって今まで2人で作ったものを大きくは変えたくないから。ただ、今までの関係に一つ名前が増えるだけだから。

 だから、こんなふうに、まったりした時間の中で言うべきだと思った。


「え──」


 目を見開いて驚くくるみ。

 そりゃ驚くだろう。僕がその立場でも驚くし。

 ただ、今更後には引けないし、引く気もない。


「好きです。付き合ってください」


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