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4話「ひどい目にあった」



「ひどい目にあった……」

「ドンマイ。あ、今日お母さん居ないから夕飯こっちで食べていい?」

「材料は二人分あるからいいけど、まずお前は人の家に上がり込むときにはお邪魔しますくらい言えよ」

「ただいまー」

「たしかに、最近は自宅のような感覚でここに遊びに来てるからあんまり間違ってないかもね……はぁ」


 学校で誤解を解くために奔走した結果疲弊した身体を癒すためにソファーに沈み込んでいたら、疲れの元凶(くるみ)が合鍵で家の中に入ってくる。

 もう慣れたことだから、勝手に入ってくることにツッコミを入れる気も起きない。

 しかし、家に入ってくるのはいいとしても、今日学校で聞いた話については言ってやらないと気が済まない。


「お前ほんと何してるんだよ……」

「ん? どれの話?」

「思い当たる節いくつかあるのかよ!

 昨日学校で……アレ(・・)で遊んでた話のこと」

「ああ、あれね。美琴(みこと)ちゃんに相談したら、『じゃあ開けてみようよ!』って言われたから、それもそうかなって思って開けてみた。

 で、そのまま捨てるのも勿体ないから周りの子と一緒に遊んでたら軽く注意された。悪いとは思ってない」

「少しは悪いと思え! そのせいで今日どんだけ苦労したか……」

「まぁ、ドンマイ?」

「他人事だと思って全く……他人事じゃないのになんで平気なんだよ……」

「怒られるのは困るけど、別に勘違いされても困らないし」

「そういえばそうでしたね!」


 僕が教室中に広まった誤解を解くために使った労力を思い出すと、平気な顔をしてソファーでゴロゴロし始める幼馴染に対する怒りがふつふつと沸いてくる。

 嘘に真実を混ぜると信憑性が上がるというのはよく言ったもので、『ゴムで遊んでいた』という真実があるものだから余計に誤解を解くのが大変だった。我ながらよく誤解を解いたものだと思っている。


「というか、そんなに否定しなくてもいいじゃん。なんなら真実にしちゃえばいいんじゃない?」

「あのねぇ、何回も言ってると思うけど――」

「……そんなに嫌?」

「は?」

「わたしとそういうことするの、そんなに嫌?」


 隣に座って、上目遣いでそう尋ねてくるくるみ。

 不覚にもドキッとしたので肩をグイっと押して距離を取る。


「……嫌って言ったら語弊があるけど、今僕らがそういうことをするのは違うかなって。だから――」

「むぅ。つれない」

「はいはい。じゃあ洗濯物取り込んでくるから待っててね」


 ここ最近何回も繰り返したやりとりなので、適当にあしらいつつソファーから立ち上がってベランダに向かう。

 今朝選択したものを取り込んで籠に放り込み、リビングに戻る。

 本当は頻繁に洗濯なんてしたくないが、あまりワイシャツの替えがないので仕方なく洗濯の頻度を増やしている。

 ……今度もう一着くらい買いに行こうかな。


「ふわぁ。眠い。少し寝るね」

「眠いなら家に帰って寝ればいいのに」

「だから、家に帰っても夕飯ないの。ご飯のときに起こしてね。おやすみ」

「いや、寝るなよ……って、相変わらず寝るの早いな」


 ソファーで横になって僅か数秒で寝息を立て始めた幼馴染に感心半分呆れ半分の複雑な心境になりながらも、近くにあったひざ掛けを広げて上にかけてやる。

 身体を冷やしたらよくないだろうし、寝相でスカートが際どいことになるのは目に毒だから隠しておくに越したことはない。


 ――なんで付き合わねえの?


 くるみの寝顔を見ていると、ふと今日の小野の言葉を思い出した。

 中学時代から何回も聞かれたことだが、改めて考えるとやっぱり難しい問いだ。

 別に僕はくるみが嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 告白されたら普通にオーケーするし、ちゃんと手順を踏んでからならそういうこと(・・・・・・)もしてみたいと思う。

 だけど……


「今、告白するのはやっぱりなぁ……」


 向こうが恋人になることを望んでいるというのなら喜んで告白するのだが、それを飛び越えてその先を要求されると、今更告白、というのがしにくくなってしまう。

 とはいえ、いつまでもこの調子で迫られるのは精神衛生上よくないし……でも、告白するのは僕のプライドが……


「あー、考えるの面倒くさ」


 ――まぁいいか。ご飯作ろう。


 もう何回かこうして考えているが、結局毎回「よくわからん」という結論に達して諦めてしまうのだった。



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