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幼馴染が「据え膳喰わぬは――」とか言ってくる  作者: 海ノ10
本編

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35話「大丈夫」



 実を言うと、旅行に行くと決まった時に行き先をここにしようと提案したのはわたしなのだ。

 偶然この草原のことを知って、ここに行ってみたいと、絶対に綾人はここを気に入ると思った。


 その読みは正しく、宇宙を見上げるその目はキラキラと輝いていて、とても幸せそうに見える。

 わたしも、綺麗な空だと思う。

 けれど、どうしてか隣の綾人の顔から目が離せなかった。


最初は仰向けで顔だけ綾人に向けていたのだけれど、だんだんもどかしくなってきて、横向きになり、綾人の顔に自然と自分の顔を近づけていた。


「ねぇ……綾人」


 右手を綾人の肩に置き、するりと口からその名前が出る。

 「んー?」と言い、ゆっくりとこちらを向いた綾人が、はっと息を呑むのがわかった。

 息のかかるほど近い距離。

 視線が絡み合って、目が離せなくなる。

 1秒にも、無限にも感じる時間の後、綾人が小さな声で呟いた。


「くるみ……」


 耳に溶け込むようなその声に、わたしは思わず顔を動かす。

 息のかかる距離から、睫毛が見える距離に。

 睫毛が見える距離から、鼻がぶつかる距離に。


 そして……



◆ ◇ ◆



 不意に近づいてくるくるみの顔に、僕は咄嗟に目を瞑ることも出来なかった。

 それはくるみも同じだったのか、視線はずっと絡み合ったまま。

 そして、唇が触れ合うかと思われた瞬間――ふっと、くるみの顔が離れていく。


「あっ! な、な、なんでも、なんでもないっ!」


 バッと僕から距離を取り、顔を真っ赤にしながら両手をブンブン振るくるみに、僕の顔まで赤くなってくる。


 ……今、僕らは何しようとした?

 僕は何を受け入れようとしていた?


 それを意識すると、途端に心拍数が上がるのを感じる。


「ほ、星! 星、見よう!」

「そうだね! 星!」


 僕が羞恥心から目を背けるように言うと、くるみもそれに乗っかる。

 先ほどよりも離れて、手が触れ合うこともない距離感で僕たちは再度横になって星を見上げる。

 でも、星には集中できなくて、ついくるみの方を見てしまいそうになるけど、今くるみを見たらまた真っ赤になってしまいそうなので、向かないように星だけを見つめていた。



◆ ◇ ◆



 鼻と鼻がぶつかった瞬間、急にわたしの中に恐怖心が芽生えた。

 そして、それと同時に恥ずかしさも湧いてきて、弾かれるように綾人と距離を取る。


 今、わたしは何をしようとした?


 それを考えると、顔が真っ赤になる。


 そんなつもりでここに来たわけではなかった。ただ、綺麗な景色を見に来ただけなのだ。


 もし、キスしてしまったら?

 その後に拒絶されたら?

 わたしは立ち直れないだろう。


 そう考えると、怖くて。

 だから、とりあえず誤魔化すために、


「あっ! な、な、なんでも、なんでもないっ!」


 と言った。

 すると綾人もそれに乗っかって「星、見よう!」と言ってくれたので、わたしもそれに同意して、もう一度星を見る姿勢になる。

 でも、わたしの意識はもう星なんかには向くことはできなかった。


 ……何を恥ずかしがってる。何を怖がってる。綾人を手に入れる為にはそれくらいできなくてどうする。今のも、ちゃんとできていたら……


 ……できて、いたら?


 そのあとどうなっただろうか。

 キスは、恋人のすることで。でも、わたしは綾人と恋人になるのはできなくて。怖くて。

 でも、綾人とエッチなことはしなくちゃいけなくて。

 でも、キスは怖くて。恋人のすることで。

 エッチも恋人のすることで。

 でも、綾人は……


 考えれば考えるほど、どんどんわからなくなってくる。

 いつのまにか、少し前まで当たり前にしようとしていた「綾人を誘惑する」ということを考えるのも少し怖くなってきた。

 これはいけない。このままだと、怖くて何もできなくなる。

 そう思ったわたしは、考えるのを頑張ってやめて、綾人の手を握った。

 大丈夫。わたしならできる。

 綾人を手に入れるためなら、大丈夫。


 大丈夫、なはず。



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