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幼馴染が「据え膳喰わぬは――」とか言ってくる  作者: 海ノ10
本編

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28話「道場破りじゃないんだから」



 昨日は風邪で休んでしまったが、一日寝たら回復したようで朝から調子は悪くなかった。

 もちろん病み上がりだし『調子が良い』とまではいかないが、学校に行く分には問題のない範囲の体調不良だ。念のため熱を測ってみても平熱だったし。

 ぼんやりと寝ぼけたままの頭で学校に行く準備をしていると、ふと昨日のことを思い出す。


『綾人がわたしを抱いてくれるまで諦めないから』


 ……訳がわからない。

 昨日の夜は訳が分からな過ぎて考えるのを放棄してしまった。一晩経てばわかるかと思ったが、やっぱりわからないものはわからない。

 “抱いてくれるまで”って――もう、それはそういう(・・・・)意味でしかないわけで。でも、それを望んでいるというのもよくわからない話だし……。


 ――考えるの面倒だな。やめよ。


 少なくとも、朝から考えるようなことではない。というか考えてもわからないことを考えるのは不毛だし。面倒くさいし。面倒くさい。

 どうせ、今までみたいにいつも通り時間が解決してくれるでしょ。



 と、思って過ごした一日。やはりと言うべきか、よかったと言うべきか、意外と言うべきか、くるみは至極いつも通りに僕に絡んできた。

 いつも通りに話しかけてきて、いつも通りに会話をして、いつも通りバラバラに帰る。一昨日のことを知っている人が「仲直りしたんだな、よかった!」と肩を叩いてきて結構痛かったこと以外はいたって正常な一日だった。


 いつも通り家に帰って着替えをする。そうしてリビングのソファーで寝ころんでいると、合鍵を使ってくるみが家に入ってくる声がしたので体を起こす。


「たのもー」

「道場破りじゃないんだから――」

「いや、あんまり間違ってない。まぁ、破るのは綾人じゃなくてわたしの処zy――」

「ナニ口走ろうとしてるの!?」


 とっさに手元にあったひざ掛けを投げつけ、くるみの顔に当てることでその口を塞ぐ。

 くるみはそれをひったくるように取ると、むぅ、という擬音が似合う顔で僕に投げ返してきた。


「ナニって――そりゃあ今日これからすることの話」

「あのね……僕はくるみとそういうことをする気はないの。冗談もたいがいにしてよね」


 この前言った言葉を忘れているのだろうか。

 半ば呆れるような感情でそう言う僕だが、返ってきたのは想定と違う言葉だった。

 ――まぁ、そもそも想定通りにくるみが喋ることのほうが珍しいんだけど。


「冗談じゃないし」

「はいはい。この前も言ったけど、冗談でも冗談じゃなくても脱いだりライン超えるのはやめてね」

「いやだ」

「………え?」

「だから、いやだって言った」

「ちょっと意味わからない」

「なんでわからないの? だって、本気なんだもん。当然でしょ?」


 そう言うと、くるみは鞄をぽいと投げて僕に近づいてくる。

 咄嗟に後ずさろうとするが、座っている体勢ではそれ以上動くことはできなかった。

 くるみのプリーツスカートから伸びる左足が、夏用の半ズボンになっていた僕の足と触れ合う。ソファーに膝を乗せたくるみの右足が、僕の両足の間に滑り込む。

 一瞬ドキッとしたものの、足から目線を逸らした先、くるみの表情を見てその感情のいくらかはなくなった。


「……くるみ。顔真っ赤。恥ずかしいならしないの」

「気にしないで」

「いや、気になるし。そういう表情だと、そもそもヤル気にならないよ?」


 これは嘘だ。いくらか劣情がなくなるのは本当でも、ゼロにはならない。今も若干はドキドキしている。

 しかし、努めていつも通りの呆れた顔を作っていたからか、くるみはそれを信じたようで、


「むぅ――なるほど。やっぱり超えるべき敵は自分、か」

「くるみ?」

「なんでもない。でも、そういうことなら今日はここまでで撤退。どうせ綾人病み上がりだし。

 というわけで……普通に遊ぼう?」

「あのなぁ……まぁいいけど」


 僕から離れたくるみはいつも通り僕の横に腰掛け、僕は嘆息してからゲーム機に手を伸ばす。


「なんのゲームする?」

「たまには綾人のPCゲーム見たいかも」

「僕の? 見てて楽しいやつ何かあったかな……?」

「んー、とりあえず見せて~」

「ま、別にいいか」


 いつも通りのテンションのくるみに、さっきまでのは何だったのかと問いただしたい気持ちがないわけではないが、藪蛇になりかねないので余計なことはしないでおく。



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