19話「仲良くなったきっかけ」
「あー、小野将雅。名田見中出身で、趣味はゲームとか。よろしく」
高校に入学して初めてのホームルームでの自己紹介。自分でもびっくりするほど緊張して、全然印象的なことを言えなかった。
頑張って勉強してこの高校に来たはいいが、この学校のレベルが高いせいで知り合いがここを受験もしなかったため、マジでこのクラスどころか学校で話せる人がいない。
だから友人を作るためにこの自己紹介は重要だったのだが――まぁ、ミスったわな。
まぁ、一つ嬉しい誤算があるとすれば、クラスメートが意外と普通の高校生っぽいことか。こんなに頭のいい学校なのだからガリ勉タイプの人しかいないのかと思いきやそんなことはなく、むしろガリ勉タイプの人間が少ないように見える。
頑張れば友人作れる……か?
と、そんなことを考えていると、後ろの席の男子生徒が立ち上がって、全然響かない声で自己紹介をする。
「はじめまして。加賀谷綾人です。出身はすぐ近くの七丘中学校……趣味は、まぁ特にないです。どうも」
友人作る気あるのか疑問に思うような態度でそう言うと、すぐに席に座る。
加賀谷綾人。昨日の入学式で新入生代表の挨拶をしていた、入試成績トップ。印象的なやつだったから覚えている。
顔はまぁ悪くない――いや、この言い方は少し妬みが入る。正確に言えば、顔はいい。線の細い顔立ちとでも言えばいいのだろうか。少し女装したら女子に見間違えそうだ。
体型も制服越しに見る感じかなり痩せているようだ。あまり筋肉あるようには見えないし、運動は得意じゃないといった印象を与える。
……ぶっちゃけ言うと、仲良くなれる気がしない。
どちらかと言えば活動的な俺とはあまり合わない気がする。
「……何か?」
顔を見過ぎたせいだろう。彼は首を傾げてそう尋ねてくる。
「あ、いや。なんでもない」
「ふぅん。そっか」
他の人が自己紹介してる途中なので、小声で簡潔にそう言い合う。
そして自己紹介が終わり、学校に関するさまざまな話をしたところでホームルームは終わる。
授業が始まるのは明日以降なので、すでに放課後になっているが……帰る人は少ない。
見れば、すでにクラス内でグループができかけているようで、一人の俺は冷や汗が出てくる。
出遅れた。
「あやとー!」
「うわっ。なんだ、くるみか。友達作りはいいの?」
「一人ぼっちの綾人が可愛そうだったからこっち来た」
「別に一人でもいいんだけど……」
どうもどうやら今加賀谷に飛びついてきた女子とは知り合いなようだ。
飛びついてきた女子を観察してみる。
身長は普通。顔は……かなりいい。加賀谷と二人並んでみると、なるほど、と納得させられる。
顔の相性がいいというか、釣り合いが取れているというか。お似合い、という言葉が適切かもしれない。
「え、文野さん彼氏いるの!? 作るの早くない!?」
「んー? ああ、綾人は彼氏じゃなくて幼馴染。ほら、自己紹介」
「加賀谷綾人です。うちの幼馴染、変人だけどよろしく……ってギブギブ。首絞まるから!」
「余計なこと言わない!」
「あはは、本当に仲良いんだねぇ」
文野さん、と呼ばれた女子についてきたのだろう。数名の女子が近くに来て、一気に人口密度が上がる。
と、そこに数名の男子が近づいてくる。
「なぁ、そこの人ら。先生に許可取ったから、この教室で親睦を深めるために菓子パーティしないか?」
菓子の入った袋を掲げながらそう尋ねてくるのは、確か副委員長に立候補していた男子。
それに女子達は一度顔を見合わせると、「やるー!」とバラバラに言った。
「ほら、綾人も参加ね」
「えー、まぁいいけど」
「一名追加〜」
座っている加賀谷の頭の上に顎を乗せながらそう言う文野さん。付き合ってないのが不思議なくらいの距離感だ。
と、見ていたのがバレたのか、不意に加賀谷と目が合う。
「文野さん、こっち来なよ〜」
「うん、わかった〜。
……というわけで、わたしは親睦を深めるために一時離脱。綾人も友達作りなよ?」
「はいはい。いってら〜」
そんな会話を交わしてから、文野さんは女子の集団に混ざっていく。
そして一瞬の間があった後、加賀谷が口を開く。
「君……ええと、小野だったっけ? 一緒に参加する? なんか人多い方がいいらしいし」
「いいのか?」
「ダメってことはないでしょ。まぁ僕に決定権あるわけじゃないけど、まぁしれっと参加しててもバレないって」
「そこの二人〜。ジュース何がいい〜?」
「何がある……って、見に行った方が早いか」
副委員長にそう問われた加賀谷は、緩慢な動作で席を立つとそちらに行こうとして……ふとこちらを見る。
「……来ないの?」
「あ、ああ。じゃあ行く」
……もしかしたら仲良くなれるのかもしれない。