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18話「自習の時間の雑談」



「なぁ、女子の夏服ってエロくないか?」


 先生が出張でいないので、自習になった現代国語の時間。

 全て解かれたプリントの上でペン回しをしながら、小野はそう僕に言った。

 付け加えるのであれば、その全て解かれたプリントは僕のもので、小野はわざわざ後ろを振り返って僕の答えを盗み見ているのだが。


「なんだよ、藪から棒に」

「いや、夏服になって一月近く経ったけどよ……白いシャツってエロくね? 背中とかうっすら透けてたり……」

「そこまでじっくり人の背中見ないから、気にしたことなかったな」

「おいおい、お前本当に付いてるのか? 男として女子の服が透けてるか透けてないかは重要な要素だろ?」

「んー、言われてみれば?」

「お前なぁ……」


 呆れたような目で僕を見てくるが、僕からしてみれば、たかが透けてる程度で何を言うか、という感想を持たざるを得ない。

 もとから人よりそういう欲求が薄い上、家で無防備な幼馴染のせいで慣れてしまっている。


「あれだろ、お前、文野さんにいろいろ見せてもらってるからわざわざそんなの見なくても〜、とかいうんだろ。

 このリア充め……」

「だから別に付き合ってるわけじゃないって。幼馴染なだけだよ」

「そう、そこだよ。そもそもお前らの馴れ初め聞いてない」

「馴れ初めって言うな。『初対面はいつだった?』とか、いろいろ聞き方あっただろ……」

「表現なんてなんでもいいんだよ! ほら、お前らなんで幼馴染になったのか教えろ! 俺もかわいい幼馴染欲しい!」

「本音ダダ漏れだし。

 んー、なんで幼馴染になったのか……ねぇ?

 そう言われても、親同士が友人だったからとしか言えないけど」

「その親同士はどこで知り合ったんだ?」

「やけに聞いてくるな……まぁいいけど」


 思ったよりグイグイ聞いてくる小野に少し引きつつ、まぁ隠すことでもないかと思い自分が知ってる情報は言うことにする。


「ただ、高校が同じだったってだけだよ。くるみの両親と僕の両親、みんなこの学校の卒業生でさ。たしか……」

「待て待て! え? お前の両親ここ出身なの!?」

「そうだよ?」

「めっっっちゃ頭いいじゃないか!

 ……いやでもそりゃそうか。鳶が鷹を生んだってよりかは、鷹が鷹を生んだって方が納得いくわ……」

「どちらかと言えば、蛙の子は蛙の方が合ってる気がするけどね」


 鷹に例えられるほどすごい人間じゃないし。

 母はめっちゃ優秀だったらしいけど、父は平均くらいだったらしいし。


「あのなぁ、この学校で学年一位取るやつが蛙なわけないだろ? ここ一応県内トップだぞ?

 俺がここに入るためにどれだけ勉強したか……」

「なんでそこまでしてここに?」

「……いや、進路決める時に、『特に志望も夢もない』って言ったら、『夢ができたときになりたいものになれるよう、頭いいとこ行きなさい』って親に言われて、それもそうかと思ってな」

「めっちゃちゃんとした理由じゃん。偉いね」


 適当な理由でここに来た僕が申し訳なくなってくる。

 うん……なんかごめん。


「ちゃんとしてねぇよ。したいこととかあったわけじゃねぇし」

「いや、将来のことちゃんと考えてて偉いよ」

「そういうお前はなんでここ選んだんだよ」

「んー……成り行き?」

「オイ」

「いやね、三年生になったら三者面談とかで、いろいろ進路の話されるじゃん。

 そこで親も先生も、僕がここに進学する前提で話してて、まぁ僕も別に異存なかったしいいかってそのままうんうん頷いてたら入れた」

「まじでお前……くそっ、天才はこれだから。

 どんな勉強してたらそんな点数取れるんだよ。数学のいい勉強法教えろ!」

「数学? 数学は教科書じっくり読めばどうにかなるよ」

「ならねぇよ!

 はぁ、じゃあ暗記科目はどうしてるんだよ」

「暗記科目は、授業中に板書したノートを写真に撮って、寝る前に見る。で、次の同じ科目の授業の前にも見る。それでどうにかなるよ」

「ならない。綾人は頭おかしいからそれでどうにかなるけど、普通の人間にはそんなのできない」

「うわっ! びっくりした……文野さんか」

「くるみ、どうしたの? 友達と話してたんじゃなかったの?」

「話してたんだけど、なんかみんなに『旦那のところに行ってきなよ!』って言われたから来た」

「旦那じゃないし」


 くるみは僕の隣の席が空いているのを見つけて、そこに座る。

 たしかそこの席の人は……ああ、あっちで話してるな。


「で、なんの話?」

「文野さんの旦那が頭おかしいって話」

「失礼な」

「まぁ、綾人が頭おかしいのは今に始まったことじゃないから」

「あれ? これ僕の抗議無視される感じ?」

「そうだ。さっき綾人となんでこの高校志望したのか話してたんだけどよ、文野さんはなんでここに?」

「綾人が入るって聞いて。もともと成績的にはギリ足りないくらいだったんだけど、綾人がここにするって言ってたから頑張った」

「綾人よりまともな理由だ……」

「んー、でも僕みたいな人そこそこいそうだけどね? 成績的にちょうどいい高校ってあるじゃん? そこがたまたまこの高校だっただけで……」

「言ってみたいなオイ」

「そ、そうだ。なんで高校の志望理由の話になったんだっけ?」


 このままだと僕がまた意味不明な頭おかしい扱いされると思い、話題を変えることにする。

 えっと、確かこの話題になる前は……


「そうだ、なんで僕とくるみが幼馴染になったかって話だったね」

「あー、そうだったな。お互いの両親がここの高校出身って話だったか?」

「そーそー。で、どっちの両親も大学出てから結婚して、このあたりのマンションに部屋買ったんだよね」

「うん。わたしの親が言うには、このあたり住みやすかったんだって。東京より人口密度は低いけど、田舎でもない。欲しいものは大抵揃うし」

「そんなわけでご近所さんになった僕らの親同士だけど、うちの母が僕産んで少ししてから死んじゃってね。それまで月一で会う程度だったのが、気がつけば僕は自宅とくるみの家にいる時間が半々になってたってわけ。僕の方の祖父母はみんな遠いところに住んでるって言うのも原因の一つかな」

「急に重めの話するのやめろよ。気軽に聞いたんだぞこっちは」

「そんなに重い話でもないと思うよ? くるみの両親のおかげで不自由せず過ごしてきたし。

 ま、幼馴染になった理由はこんな感じかな。ずっと一緒にいたから、もうそれが当たり前になってるって感じ」

「……うん、そうだね」

「くるみ?」

「あ、いや。なんでもない」

「そう? ならいいけど」


 ちょっと様子がおかしい気がしたんだけど……まぁいいか。

 本人が何でもないって言うなら、僕に言うことでもないんだろう。



◆ ◇ ◆



「ずっと一緒にいたから、もうそれが当たり前になってるって感じ」

「……うん、そうだね」


 うん、たしかにそうだ。わたしもそう思ってた。

 わたしたちにとって幼馴染がずっと一緒なのは当たり前。でも、たぶん世間的にはそうじゃない。

 ……わたしは、それが怖い。世間的にそうじゃないってことは、わたしたちの関係が続くことには何の保証もないってこと。今のあやふやな関係でいるのは、心地よくもあるけど、怖い。


「くるみ?」


 心配そうな綾人の声に、わたしは「なんでもない」と返す。

 綾人も馬鹿じゃない。世間の当たり前と違うことにはもう気付いてる筈だ。わざわざ言うことでもないだろう。

 


 離れたくない。やっぱり、離れたくない。離れるのは、想像するだけで怖い。

 だから――


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