13話「美味しい」
テスト全科目80点以上。
こう聞くとかなり大変そうに見えるが、うちの高校ではそこまで無茶な内容ではない。
というのも、優秀な生徒が集まっているのか、ほとんどの人が教科書の内容をほぼ完璧に覚えてくるのだ。で、教員たちも教科書以外の内容からは出さないし、理不尽な問題は作らないので自然と平均点が80点付近になる。
だから、全科目80点というのは平均点くらいなのだ……というのを、知り合いと先輩から聞いた。
だからこそくるみに『全科目80点取れたら、ご褒美にスイーツ食べ放題の店に連れてってあげる』と言い、実際にその点数を取ることに成功した。
まぁ、数学は79点だったのが先生の採点ミスが発覚して81点になったレベルのギリギリさではあったわけだけど。
ともかく、こうして僕たちは今スイーツ食べ放題の店に来ているのであった。
「んー、美味しい」
「よかった。なら連れてきた甲斐があったよ」
休日なので制服ではなく、白い上に茶色のスカートの出立ちのくるみは、ケーキを頬張って表情を緩ませる。
相変わらず美味しそうに食べるなぁ。
「ほら、このチョコケーキとか美味しい」
「ん? どれ?」
「これ。はいあーん」
「んぐ……あ、ほんとだ美味しい。あとで僕も持ってこよ」
くるみが勧めてきたチョコケーキを食べて、思わず頬が緩む。
やっぱり甘いものは最高だ。心が癒されていく。
そう思っていると、なぜかくるみがにやにやしながら僕を見ていることに気がつく。
「なに?」
「いや、さっきの間接キスだなって」
「……今更でしょ」
「たしかに」
こちとら小さい頃は一緒にお風呂に入ったりもしていたのだ。今更間接キスの一つや二つで動じるような関係ではない。
「じゃあさ、間接キスが今更って言うなら……」
「もっと際どいことも……って言いたいんでしょ?」
「むぅ、バレたか」
「いい加減覚えるよ」
外だからか大人しく引き下がるくるみ。
僕は一度ため息をついて、ケーキにフォークを刺す。
「そういえば、綾人は点数どうだったの?」
「んー? んんんんん」
「ごめん、食べてる時に聞いたわたしが悪かった」
ケーキを頬張った直後で答えられないでいると、くるみはそれを察してくれる。
僕はケーキを飲み込むと、コーヒーを一口飲んでから話す。
「んぐっ……ふぅ、美味し。
で、テストの点数だっけ?」
「そーそー。どうだった?」
「どうだったって言われてもなぁ……いつも通りだよ」
「いつも通りって……全部90点台?」
「まぁね」
「100点の科目もあった?」
「あったよ」
「うっわ。相変わらず怖い」
「怖いってなんでさ。ちゃんと勉強して、テスト中に見直しすれば取れない点数じゃないでしょ」
「得意科目ならそうなんだけど、どの科目も同じくらい点数高いから怖いって言ってるの」
「コワクナイヨ」
「余計怖い」
自分の体を抱いてぶるぶると震えるふりをするくるみ。
成績がいい自覚はあるけど……そこまでかなぁ?
……ま、どうでもいいか。
「ねぇ、それ気になる」
「これ? はい、どーぞ」
「んっ……これいいね。どの辺にあった?」
「ケーキコーナーの右側。ショートケーキの近くだったはず」
「じゃあ取ってくる」
皿を持って席を立つくるみを見送りながら、僕はケーキを食べる。
うん、やっぱり美味しい。