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10話「体育」



 体育の時間。今日は外でサッカーをしている。

 とはいってもわたしのクラスは11人のチームを何チームも作れるほど人数はいないから、人数を減らして男女それぞれ2チームになるように調整された。

 サッカーゴールは1組しかないので、今は男子の試合が終わるのを女子全員で待っているところだ。


 青いビブスのチームに綾人がいて、つい目で追ってしまう。運動嫌いな綾人は、なるべくボールを拾わない位置に移動しているのだけれど……


「誰を観てるのかなぁ? くるみちゃん?

 愛しの旦那さん?」

「うん、その通り」

「そこは否定しようよ……で、どこ?

 ああ、いたいた。あれか。おー、走ってるじゃん。意外と足速いんだ」

「運動は嫌いみたいだけど、運動神経自体は悪くない。ただ……」

「ただ?」

「とてつもなく持久力と筋力がない」


 少し走っただけで息を切らす綾人を見ながらそう言う。

 すると、美波(みなみ)ちゃんは首を傾げる。


「持久力と筋力ないのに運動神経があるってどゆこと?」

「んー、体を動かすセンスはある。ほら、蹴るフォーム綺麗でしょ?」

「たしかに」

「体を思い通りに動かすのは得意みたいなんだけど、いくらいい動きをできても筋力がないってこと」

「なるほどねぇ……鍛えればいいのに」

「綾人は筋肉付きにくい体質みたい。体も弱いし」

「強そうには見えないもんね」


 綾人は見るからに細いし色も白いから、とても健康的には見えない。顔も割と中性的な顔立ちだし、男らしさとかそういうものはあまり感じられない。そこが綾人らしさなのだけれど。


「実際に綾人弱いし。どこか病気ってわけじゃないんだけど、全身微妙に虚弱というか、大変そう。だから今も割と心配」

「そんな心配することないでしょ。ただの体育だし」

「普通はそうなんだけどね……」


 綾人は綾人のお母さんに似てしまったのか、体が弱い。風邪で倒れるなんてしょっちゅうだし、低血圧なのか朝がとてつもなく弱い。

 それに、喘息気味だし体力もないので、あまり長時間運動するとぶっ倒れる。

 そのほかにも胃腸が弱いとか、偏頭痛に悩まされることもあるとか……一つ一つの症状は酷いものではないのだが、いろいろな症状が集まった結果、健康面でかなり心配な人が出来上がってしまった。

 たぶん、生まれてくる時に勉強とかそっちに全振りしたステータスにされてしまったのだろう。

 あれしか勉強しないのに安定して学年一位取れるなんて普通じゃない。


「綾人大丈夫かな」

「そんなに心配?」

「うん。今日動きすぎてるから」

「動きすぎてる? たしかに、よくパス回ってきてるけど……」

「たぶん、コートの割に人数が少ないからボールから逃げ切れないんだと思う。で、綾人真面目だから一回ボール持つと手を抜くとかしないから……」

「ああやってドリブルしたりするわけね」

「そーそー。で、綾人は基本的に激しめの運動すると体調壊すんだよね。最近は多少動いても大丈夫になったけど、昔はもっと酷かった」

「そろそろ運動のしすぎでオーバーワークになりそうってこと?」

「うん。だから、そろそろ止めてもらって……あ」

「あっ」


 そう言った瞬間に、パスを取ろうと走り出した綾人が、ベシャッと派手に転んだ。

 慌てて駆け寄ると、綾人は一人でムクっと起きて恥ずかしそうな顔を浮かべる。


「綾人、大丈夫?」

「おい大丈夫か?」


 わたしと先生両方からそう尋ねられ、綾人は頷く。


「多少転んだだけなので多分怪我はないです。転んだところ、柔らかい土だったので。疲れて足がもつれただけです」

「そうか。もし怪我してるようなら保健室行けよ?」

「はい」

「あの、たぶん綾人体力的にもう厳しいので……」

「そうだな……よし、じゃあ代わりに先生が入ろう!

 おらお前ら、スローインするぞ〜、受け取れ!」

「ちょ、センセーはずるいって!!」


 離脱した綾人の代わりに先生が入ってプレーしてくれる。

 わたしは綾人をベンチのところまで連れていき、ゆっくり顔を見る。

 ……うん、やっぱり少し体調悪そう。


「綾人、無理しちゃだめ」

「いや……パス来ちゃったら走らなきゃダメじゃん?」

「無理して動くことない。人には得意不得意あるし」

「でもほら、チームメイトに申し訳ないしさ」

「体育なんだからそこまですることない。それに、体壊されると困る」

「なんで?」

「綾人の具合が悪かったら、エッチなことできないじゃん」

「具合良くてもしないからね? というか何そのしょうもない理由……」


 む、しょうもないとは失礼な。わたしからすれば将来を左右する超重要なことなのに。


「しょうもなくないし」

「はいはい、わかったわかった」

「綾人の反応がいつになく冷たい。やっぱりこれは綾人めっちゃ疲れてるね」

「大正解。だからちょっと、ツッコミ入れるのキツい」

「まじか。ならボケ自重する」

「できるなら普段からしてくれ……」


 綾人はそう言うと、目を閉じてふぅ、と深く息を吐く。

 その姿を見て、やっぱり綾人と結婚して、そばにいてあげたいなと思った。


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