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襲撃 ~12歳

12歳


12歳になった。貴族院入学の年だ。

そして、俺は過去最大の危機を迎えていた。


「ケイン兄さんは!サラのことが嫌いなの!?」


サラに嫌われたかもしれない。





きっかけは貴族院の入学についてだ。昨日、両親から伝えられた。まぁ、前々から12歳になったら入学することは知っていたので特に驚くことはなかった。あることを聞くまでは。


まさかの全寮制である。


両親は他にもいろいろ話していたが、正直頭に入ってこなかった。そして、両親は再度仕事へと旅立っていった。


頭が真っ白になる。


つまり、妹達と六年間も離れることになる。長期休暇は帰ってこれるらしいが今までは毎日ずっと一緒だったのだ。とても耐えられない。


俺は親から話を聞いた姿勢のまま数時間固まっていた。ショックのあまり時間が飛んでいる。


…しかし、冷静になってみると、これは必要なことであるはずだ。まず、俺の妹離れ、そして、妹達の兄離れだ。今はお互いに依存しすぎている気がする。これでは、妹のためにはならない、と思う。いや、別にそんなことはないかもしれないが…いや、ダメだろう。


そして、貴族院に行くことは貴族としての義務だ。さらに、妹を守るためにもより強い力が必要であり、貴族院へ行かねばならない。


結局、貴族院に行く方が妹達のためになるのだ。


そして、両親から話を聞いた翌日、断腸の思いで妹達に別れを告げた。





そして、今に至る。


サラが泣きながら大声で俺に話しかける。エルも泣きながら縋りついてくる。


うう。俺だって離れたくないんだよ。でも、仕方ないんだよ。これが貴族の義務なんだ。平民と比べて良い生活を送っている以上、行かなくちゃならないんだ。


あと、家を守っている透明の壁の魔法も貴族院で学べるらしい。これを覚えなければ安全地帯を作れない。必須である。


「何度も言っているけど、貴族院に通うのは貴族としての義務なんだよ。そこで人脈や知識を身に付けないと貴族としてやっていけないんだ。決してお前たちが嫌いなわけじゃない。俺だって離れたくないんだよ。」


妹を泣かせてしまって心が痛い。離れることになって心が痛い。でも、そうしなければならないんだ。けれども、妹達はまだ6歳。義務なんて分からないだろう。それでも、納得してもらわなくちゃならない。


「半年に一回はこっちに戻ってこれる。決して6年間離れ離れになるわけじゃない。それに、マートン先生はこっちに残ったままだ。」


驚くべきことにマートン先生はまだ家にいるらしい。俺が六歳のときにやってきたから、妹たちも教えるとなると七年目になる。マートン先生は誰よりも信頼しているし、本当に助かる。髪の毛とか、見た目がちょっとあれだけど…。


「マートンなんかいても意味ないじゃん!ケイン兄行かないでよぉ!」


サラはもう大泣きである。俺もこれ以上どう説得すればいいのかわからない。俺が言えばすんなり納得してくれると思ってたが甘かった。


そして、マートン先生の良さがサラにはまだわからないか。あの人めちゃくちゃ頼りになるんだよ。見た目が髪の毛ぼさぼさでいつも怠そうだから勘違いされやすいけど。


というか、妹たちが泣いているのを見て、もう貴族院に行かなくていいんじゃないかと思い始めてきた。いや、妹達を守るためには間違いなく必須なんだけど、でもそれで妹たちを泣かせるくらいならいっそのこと…。


思考が怪しい方向に向かい始めてしまう。このままではよくない。


「とっ、とにかく、そういうことだから。いったん部屋に戻ろうな。」


「うぁぁぁぁ、やだぁぁぁぁ、もうケイン兄さんなんて大嫌いぃぃぃぃ。」


サラが大泣きである。


…嫌いなんて初めて言われた。ショックすぎる。


エルも大声は上げないがグスグスと泣いている。いつも、エルの方がわがままは言わないし、落ち着いているんだよな。でも、口に出さないで我慢しているだけだ。何も感じていないわけではない。


俺は2人を部屋へと運ぶ。その間もサラはワンワンと、エルはシクシクと泣いていた。ほんと心が痛い。


やがて、泣きつかれたのか2人は寝た。まだまだ子供である。


すやすやと寝ている2人をベッドへ運び布団をかける。2人の目元には涙の跡が残っていた。


「はぁ、俺だって行きたくないんだよ。」


つい、愚痴がこぼれてしまう。


「…行かないでぇ」


エルがぼそりとつぶやいた。一瞬驚くが、エルは寝たままだ。どうやら寝言のようだ。口に出すことは少ないが、エルだって思うところはあったはずだ。


俺は、そんな二人の気持ちを無視してもいいのか。


………いや、良くない。


俺は決めた。貴族院に行かないと。


勉強はマートン先生に教えてもらおう。人脈は、なんとかしよう。案は浮かばない。けど、何とかするしかない。


よし、両親が帰ってきたら直訴しよう。


まだ、案は浮かばないけど両親が返ってくるまで時間はある。それまでに思いつけばいいのだ。例えば、魔法の訓練をさらに続けて、研究を行い知名度を上げるのはどうだろうか。幸い、マートン先生という偉大な元教授が身近にいる。おぉ、人脈も作れそうじゃないか。


できないことなんてない。あとは、転移の魔法を作るのはどうだろうか。そしたら、寮生活でも毎日妹に会える。


なんとなく楽観的な気分でいた。まぁ、何とかなるだろう。


今までだって何とかなった。転生しても大丈夫だったんだ。


学校に通わないくらいなんだ。


それより妹の方が大事だ。


妹と一緒にずっといる。その輝かしい未来に向けて、俺はもっと努力しなければ。楽しいことだけじゃなくて、大変なこともあるだろう。それでも、俺は耐えきれる。なんだってできる。


俺は、やる気で全身を震わせていた。





そのとき、突然、胸元に下げていた「止まらずの石」がパキンと軽やかな音を立てて割れた。父さんに何か起きない限り、輝き続けるはずの石。それが、割れてしまった。


「……え?」


思わず、地面に落ちていった破片を見つめる。先ほどまで光輝いていたのが噓のように真っ黒だ。


そして、庭の方で『ズン』と大きな音が聞こえた。


「っ!」


両親が帰ってくるにはまだ早い。というか、両親はこんな音を立てて帰ってこない。いつも静かに帰ってくる。


そして、俺は気づいてしまった。館を覆っているはずの防壁の魔法が消えている。消えるはずの無い魔法。これは、術者が消さない限り解除されないはずだ。父さんが解除するはずない。


…いや、解除にはもう一つ方法がある。


俺は、緊張のあまりじわりと汗をかく。自然と息が荒くなる。


とにかく、正体を確認しなければならない。もしかしたら、両親が帰ってきただけかもしれない。防壁の解除は間違えただけかもしれない。そんな可能性にすがりつつ俺はじりじりと庭へ向かった。


そこには、三人いた。両親と、仮面を付けた怪しい男。


「危なかったな。もう少しで守護の魔法へ逃げられるところだった。」


仮面の男は破れたローブを羽織っている。血が飛び散り、激しい戦闘があったことを伺える。


そして、母は片腕が無かった。真っ赤な血を滴らせながら、悔しそうに男を睨んでいる。


さらに、父は下半身が無くなっていた。既に事切れているのは明らかだ。


…え?


掠れた声が漏れる。どうなってるんだ?昨日まで話していた父さんが死んでいる?母さんは腕がない?なんだこれ?こんなことあるのか?


「まさか、ここまで逃げられるとはな。とはいえ、これで終わりだ。」


男が母へ向けて魔法を使おうとする。


俺は思わず声を出した。


「や、やめろっ!」



その時、男と母さんが初めて俺の存在に気づいた。母はハッとすると「ケイン!逃げて!」と叫ぶ。


「ふむ、お前がここの一人息子か。お前も後で殺すのだが…。母親を目の前で殺すのは可愛そうだな。」


男から溢れる圧倒的な魔力。一瞬、戦おうと思ったが勝ち目なんてない。あまりにも差が大きすぎる。


「子供を殺すのは癪だが、これも未来のためだ。悪く思わないでくれ。…せめてもの慈悲としてお前を先に殺してやろう。母の死を見たくないだろう。」


なんだこいつ?慈悲だ?意味がわからない。


『炎弾』


男が放った魔法が飛んでくる。とんでもない威力だ。当たったら死ぬだろう。


避けなければ。迎え撃たなければ。頭では分かっている。けれども、体は動かなかった。


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